やさぐれた顔
子どもの頃、父の顔を忘れていた。
遠洋漁業のマグロ船に乗っていた父は、マグロを追って大西洋やインド洋にいたらしい。年に一、二回、帰って来るだけの父はよそのおじさんにしか思えなかった。
たぶん淋しかったのだろう、母はよくパチンコに行っていた。車の免許を持っていない母は私の手を引いてパチンコ屋に行く。母がパチンコをしている間、私はやることもないので足下にうずくまって遊んでいた。タバコ臭くて、うるさくて、なにより子どもが行くところではないことは雰囲気で理解できたので、パチンコ屋は嫌いだった。
母のパチンコ通いは、だいぶ続いた。幼稚園から小学校の低学年、つまり一人で留守番ができるようになるまで、私はよくパチンコ屋にいた(ほとんど昼間。夜になることはめったになかった)。夏休み、冬休み、学校が休みになると母のパチンコ通いにつきあわされた。
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伝統的東洋医学の知識や、見えない気の世界、また、さまざまな能力者の方がたとの交流から体験してきた、この世界と重なって存在する多元的な時空間についてのお話、鍼灸学校の学生生活を通して感じること、社会問題などを扱っています。また、田口ランディのクリエイティブ・ライティング講座や、イベント、講演会の情報なども掲載しています。現在は学校に行くため執筆は開店休業状態。ぜひ、noteで私の執筆を応援してください。
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作家として約20年間、執筆活動を続けた後、60歳で東洋医学を学び始め一昨年鍼灸学校に入学。体験してきた見えない世界と「気」を使う伝統鍼灸が…
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