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実録神戸芸能社 山口組・田岡一雄三代目と戦後芸能界 山平重樹

善悪を併せ持った不思議な芸能プロダクションの歴史

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 芸能プロダクションを語らずして、現代日本の芸能を語ることはできません。戦後の芸能界の変革期に一時代を築きながら、語られることの少ない芸能プロダクションが神戸芸能社です。
 山口組三代目田岡組長の肝いりで運営された芸能プロダクションですから、時代の変化を見てもこれからますます触れにくくなり、埋もれてしまう存在かも知れません。
 著者はアウトサイダーものに健筆をふるる山平重樹さんです。

芸能界の旧弊を力で断ち切り新しい風を呼び込んだ神戸芸能社の功罪

 ”山口組の神戸芸能社”とだけ見れば、暴力装置を背景に芸能界からお金を吸い上げる芸能プロダクションといったヤバい感じだけが浮かんでしまいます。
 かつて芸能興行のような浮き草商売はヤクザと二人三脚で営まれていました。肯定するわけでもなく、ある時代まで両者とも社会のなかでの存在が今とは違ったのです。戦後しばらくは、手の付けられないヤンチャな息子を、母親が親分さんに預けてしつけを頼むなんてことがあったわけです。
 そして日本が高度成長に突入すると金を巡る弱肉強食の時代となり、任侠博徒の世界でも前近代的な秩序が壊れていきます。我々がイメージするヤクザ=暴力団の世界はそれ以後のものですから、○○組と聞けば金に貪欲な恐い暴力的な存在でしかないですよね。
 神戸芸能社が作られたのは、金目当てのヤクザ達が暴力装置を背景に泡銭を生む芸能界を食い物にしていたころです。

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 もともと芸能興行に関わっていた山口組が神戸芸能社を立ち上げプロダクション事業に参入します。
 ついついヤクザが芸能界をしゃぶり尽くそうとしのかと紋切型の先入観を抱くのですが、これが意外に違うようです。

トップと現場が通じ合ったことから生まれた意外なるイノベーション

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 神戸芸能社には美空ひばり、田畑義夫、三橋美智也・・・名前を挙げきれないほどのトップスターたちが関わりました。
 陣頭指揮を執っていた山口組三代目田岡組長は、このスターたちと公私をこえて近しくしており、当時の芸能人が利用され搾取される弱い立場だと知っていたわけです。そこでガツンと仕掛けて、大きく儲け、分けあえるようにし、四の五の言う奴は力で黙らせる神戸芸能社を運営するのです。
 それまで好きなように吸い上げられては泣き寝入りしていた芸能人達にとっては、筋を通せば可愛がり守ってくれる、とても良い事務所だったともいえるのです。
 不条理な中抜きを排して、働きやすい環境にし、適正な報酬を支払うー神戸芸能社には芸能界の近代化(やり方のすべてが正しいわけではありませんが)を進めた一面もあったのですね。
 あくまでもこの本によるとですが、思い込みとは違った驚きや発見がありました。

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 これもまた日本の貴重な芸能史。
 双葉社らしい本。
 
 


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