初めてのlive house
邱 力萍
試しに行った初めてのライブハウスに、チャーリという中年の男がギターを弾いて歌っていた。
チャーリは外国人の名前をつけているのに、実際はバリバリの日本人中年男性だった。
背が高くて細身のチャーリは、大きなギターを弾きながら、日本語の歌も英語の歌も歌った。しかし、彼が歌った日本語の歌はほぼ自分で作詞作曲したせいか、私にはなじみはなかった。一所懸命聴いていても、彼の曲に自分の気持ちを合わせることができずにいた。目の前に立派なアーティストさんがいるのに、その生歌は自分の心に届かぬ。楽しんでいる他の観客を見ると、楽しめない自分にはきっと幾度の落ち度があると思った。それからの私は目を閉じ、歌の詞歌に耳を傾けてみた。が、チャーリの歌の表現によって、日本語の歌詞の発音に伸び縮みがあり、本来言葉の意味を聴き分けることがなかなか難しかった。歌手歴が長いことで、チャーリはいろんな雰囲気をもつ曲を代わり代わりに歌った。うれしい曲や悲しい曲と。が、私は依然チャーリの歌に対して、好きでもなく、嫌いでもなかった。
初めてのライブハウス。出会った初めてのアーティスト。なのに、アーティストに共鳴できない自分がいる。とてももったいないことだ。そう思った私は次第に、再び目を閉じた。耳を頼りに、チャーリの歌を心で感じようとした。が、チャーリはとても器用だった。短い時間の中、悲しい歌や、楽しい歌など次から次へと歌い続けていた。いろんな歌を聴いたのに、チャーリのどんな歌は自分にとって一番印象に残っていたか、終始分からなかった。
後半になって、チャーリは英語の歌を歌い始めた。それは私の若い時にどこかで聴いたことのある歌だったかもしれない、私はフレーズをしっかりキャッチできないものの、自分の気持ちを歌のリズムに乗せることができた。チャーリの英語もうまかった。歌われた歌詞には日本人英語と感じさせることもなく、歌の流れも自然だった。そしてなんと言っても、英語の歌を歌うチャーリの声に、私はチャーリの喜びと悲しみをしっかり感じ取ることができた。
ライブの最後に、チャーリは自分について語った。
若い時に、バンドに憧れ、一人で上京し学校で楽器を習った。しかし周りから自分が楽器より歌のほうが向いていると言われ、本日に至った。歌手を目指したものの、いろいろ挫折を味わってきた。そして、今日、再出発を記念しこのライブハウスでデビューした。
チャーリの話を聞いて、周りから大きな拍手が湧き上がった。とその時、私は突然、なぜチャーリの英語の歌のほうがうまいだったか急に分かったように気がした。もしかして、英語の歌に、チャーリの青春があったからかもしれないと一方的に思った。
正しい答えはないものの、私の心の中に、チャーリはやっとチャーリという名前通りのチャーリになった。
初めてライブハウスにデビューした日に、再出発の初ライブのチャーリに出会ったことは、私の人生の記念となった。
(作者: 邱 力萍)