【自作小説】クロッカスの舞う夜に。#12
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2人で初めて会ったあの日から1ヶ月と12日、11月22日。何度も二人で出掛け、ゆい君からの告白で付き合う事になった。一週間前には、コンペにゆい君の案が通ったようで、お互い歓喜に沸いていた。
コンペに通った影響で年末年始は、休日返上で作業があるそうで、クリスマスや大晦日といった年末のイベントは一緒に過ごすことができない。
「本当にごめんね。一緒にいたいけど、どうしても今回ばかりは仕事を優先させて欲しい」いつも私の予定に合わせてくれていたり、優しくしてもらっていたので、その恩返しという訳では無いけれど、我慢しなければならない。
「もちろんだよ。私のことは気にせず頑張ってね」
「来年のクリスマスは綺麗なホテルで過ごしたいね。今のうちから予約を取っておこう」そう言って、一緒にホテルを決めて予約を取ってくれた。
「来年が楽しみ」私たちはそう言い合い、頻繁に利用するようになったCHRONOSTASISを後にし、ゆい君の家へと帰った。デートをした日の帰りは毎回、ゆい君の住む家に行くという流れができていた。なるべく気を遣わせたくなかったので、洋服を置いたままや、メイク道具を置いたまま帰るということはしなかった。「すぐうちに来るんだし置いていけば良いのに」とゆい君は言ってくれているのだが、ここは甘えない事にしている。
付き合い始めた次の日に、美咲へ真っ先に報告をした。「追う恋愛はほどほどにね」と彼女なりの祝辞をくれた。
とは言う美咲だが、つい最近4人で集まった時に再会した真人君と良い雰囲気のようで、彼女からの相談を受けるようになっていた。
ゆい君も言うように、一途な彼とは是非身が結ばれて欲しいと思っていた私は、全力で背中を押している。美咲も真人君も奥手な性格なので、時間がかかりそうなのは薄々感じていた。
そんな話をした翌月のクリスマス直前、美咲から吉報が入った。真人君が勇気を振り絞り思いを伝えたそうだった。「愛佳のお陰だよ。ありがとう」と、感謝をされ私の小さな夢が叶った瞬間だった。
日は流れていき、猛暑の夏を越え肌寒くなってきた10月を迎えた。ルーティン化している、デート後のゆい君の家に泊まった翌日はそのまま、美咲達のカップルとビアガーデンに行くことになっている。
「ビアガーデンって夏のイメージしか無かったけど、ゆい君よくここ見つけたね」
「同僚がこの間行っててさ、教えてもらったんだよね。久しぶりに美咲ちゃんにも会えるし楽しみだなー」
10月にも関わらず営業しているビアガーデンの驚きを共有しながら、開催されている駅ビルへと向かう。
先に到着していた2人と合流し、屋上へ昇るエレベーターに乗る。席に着き、乾杯する前からテンションの高い真人君を先頭に、最後の一杯一滴まで盛り上がった。
「お前が俺らのキューピットになってくれたようなもんだし感謝してるよ」と、ゆい君に話す真人君を見て、2人とも幸せそうで安心したし、嬉しかった。何よりも、大学時代の仲がこうして再開されたことが嬉しかった。この3人とは、一生の仲になるだろうと思っている。
2件目には行かずここで解散する事になり、「また4人で飲もうね」と2組とも別々の方向へと歩き出した。
明日ゆい君は仕事で出版社の人と会うそうで、準備がまだ残っているようだ。今日は帰ってから明日の準備をすると、すっかり酔いが覚めてしまっている。
仕事の邪魔になりたくないので、今日は自宅へと真っ直ぐ帰る事にした。
「また来週だね」と、来月予定している旅行の計画を1日立てる事になっている。それまでは会える日が無い。お互い高頻度で会うことは求めていないので、実際はちょうど良い期間でもある。と、私も言っているのだが実はもう少し会いたいなと思っていることは言えずにいる。
旅行の計画を立てるにあたって、まずは本屋さんに行こうとなった。インターネットを使えば早いのだが、あえてアナログ方式を取る。
旅行誌の最大手を選べば間違い無いだろうと、ローテ出版という出版会社の伊豆版を1冊購入し、近くのファミレスへ入った。ドリンクバーと簡単な昼食をとり、雑誌を広げる。お互いに行きたい場所や食事処を選び、それをもとに、手書きの修学旅行の時のような旅のしおりを作った。
修学旅行では味わえない豪華なしおりが完成した。彼と泊まりがけの遠出をすることは初めてだったので、より一層待ち遠しくなった。
「しおり作ると旅行感がグッと上がるね」
「愛佳昔からこういうデザインするの上手かったし最高」
お互い自分の車を所有していないので、レンタカーを利用して行く事になる。ペーパードライバーである私の出番は少なくしてもらう予定だが、そんな会話も旅行の醍醐味かもしれない。
「私免許は持ってるけど、運転自信ないからほとんどお願いしちゃうかも」
「大丈夫だよ。運転好きだし任せて」
旅行に向けて買い物が必要な事に気づいたのだが、夕飯もこのまま食べてしまおうと言ってしまうほど疲れてしまったので、また後日となった。
ゆい君は好物のオムライスを、私はハンバーグを食べてお店を後にした。帰り道に映画館の前を通った際、ちょうど観たいと思っていた、小説が原作の映画が公開されていたので、今度観ようねと話した。ゆい君も、この映画を観たいと言っていたはずなのだが、思っていたよりも乗り気では無かった。
旅行の計画を立てた数日後、買い足さなければならない物の、買い物リストを手にお昼ごろから集合をした。予め買うものを決めていたので、スムーズに事は進んだ。
「ゆい君さっき百均行ってたけど、何買ったの?」
「小物入れが欲しくて。おもちゃコーナー通ったらシャボン玉が売っててさ、懐かしくてつい買っちゃった」
「シャボン玉?確かに懐かしいけど本当に買っちゃうの面白いね」
ゆい君は予想もしない、いい意味で奇行に走る癖がある。本人は無意識のうちに行動に移しているというのがさらに面白味が増す。周りを困らせて欲しく無いので、どうか私以外の前で奇行は控えてほしいものだ。
普段なら夕飯まで一緒に過ごしていたところなのだが、会社の同僚と夜は予定があるそうで、夕方を前に解散になった。
「本当はこの荷物を持ったまま飲み会は行きたく無いけど、帰る時間無いからこのまま行くね」
「酔って無くしたりしないでよ?気を付けて楽しんできてね」
そう言って彼とは別れ、1週間後に控えるゆい君の誕生日プレゼントを探しに先程と同じ駅ビルへ戻った。
今はまだ知らぬ出来事なのだが、誕生日当日にゆい君は朝からひどく体調を崩してしまう。
「本当にごめんね。旅行前だし移すとまずいからお見舞いにも来なくて大丈夫」
誕生日当日の朝、彼と電話でやり取りをした。
可能であれば誕生日当日に会ってお祝いをしたかったのだが、こうなってしまっては仕方がない。次に会うのは旅行へ発つ日になる。会えないもどかしさを胸にそっとしまい、彼には「お大事に」と一言、電話を切った。
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自作小説「クロッカスの舞う夜に。」の連載
眠れない夜のお供に、是非