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[実話怪談]いびき

「あるよ。この話はさぁ俺が高校生の時に体験した怖い話なんだけどさ」
 
知り合いのMさんに何か怖い話はないかと尋ねたところMさんは当時を思い出しながら話し始めた。

Mさんは高校生の時、近所の酒屋でバイトをしていたそうだ。

木造の築100年はありそうな古い建物を酒屋として使っていた。古いが立派な佇まいの2階建てで、1階はお店となっていて2階は倉庫として酒や仕事で使う色んなものが置かれていた。

「そこの2階がなんか怖くてさ…行きたくなかったんだよな」

Mさんはバイト先の店長に「トイレットペーパーがなくなったから取りに行ってきてくれ」とか「お酒がなくなったから補充しといて」など言われるたびに2階の倉庫に取りに行くのだが、そのたびにいないはずの誰かの気配を感じで怖くなるのだという。

特に2階の一番奥にある部屋が怖いのだとMさんは言う。

2階の倉庫の奥にぽつんと一部屋あるのが不自然だったそうだ。その部屋は一切使われていないようで、すりガラスの引き戸はしっかりと閉じられていた。

すりガラスの引き戸の木の枠の部分を釘で等間隔に打ち付けられていて、それを見たMさんはまるで何かを閉じ込めているんじゃないかと背筋がゾクッとしたそうだ。

「それでさぁ…ある日気味悪いことがあったんだよ」

高校の授業が終わり夕方からバイトに入ったMさんはいつも通り仕事をしていた。夜7時を過ぎた頃店長が「焼酎の注文受けて明日必要だから倉庫から持ってきてくれる」と言ってきた。

外はもうすっかり暗くなっていて、Mさんは明かりのついていない2階に上がるのが怖かったが、仕事だから仕方ないという気持ちで渋々倉庫へと上がったという。

2階に上がると長廊下になっていて、左手には窓があり右手にはいくつかの部屋が並んでいる。そして、廊下の突き当りの正面に例の部屋があったそうだ。

右手にある部屋の扉は全てドアノブが付いた、普通の手前に引いて開けるタイプの扉だった。

「一番奥の部屋だけすりガラスの引き戸っていうのもさ、なんかその場所から浮いてるっていうか異様な感じがしたんだよ」

とMさんは言う。

「それに何故か2階には電気が無いんだよ。というか電球が全部外されてて電気つけようと思っても無いからつけられないっていうか…」

いつもは懐中電灯を持って行くのだが、この時は忘れてしまい、Mさんはそのまま手探りで酒が保管されている部屋へと向かった。

酒が保管されている部屋は例の部屋の隣りにある。すりガラスの向こうで何か動くんじゃないかと変な想像をしてしまい怖くなったMさんは早く店長から頼まれた物を持って戻りたいと、自然と足早になったという。

部屋に入ると思っていたよりも真っ暗でどこに何があるのか全く見えず、懐中電灯を忘れたことを後悔したMさんは、仕方なく懐中電灯を取りに戻ろうと部屋を出たときだった。

「電気がさ…ついてたんだよ。すりガラスの部屋の…俺すごい怖くなって逃げるように店長のいる1階に走ってもどってさぁ」

Mさんは店長に今あったことを伝え、怖いから一緒に来てくれとお願いして、2人で2階へ上がっていったそうだ。

2階に行くともう明かりは消えていて、何事も無く酒を持って1階へと戻ったという。

「あの部屋なんか変ですよね?釘なんかも打って開かないようになってるし…」

Mさんが店長にそう言うと店長も2階が怖いと言い出した。

それに酒屋は借りている物件で、店長が物件を借りる前からすりガラスの戸は釘で打ち付けられていたから、どんな理由でそうなったのかは分からないと言う。

バイトを終え家に帰ったMさんは夕飯の席でお母さんにその日体験したことを話した。するとお母さんからとんでもない話を聞かされたと言う。

それはこんな話だ。

昔Mさんのお婆ちゃんがあの物件を借りていて、芸者さんの住まいとして使用していた。お婆ちゃんは三味線の先生としてそこに住んでいる女の子たちに週2回ほどのペースで三味線を教えていた。

そして、行くたびに女の子たちからあの部屋の怖い話を聞かされていたと言う。

誰かいるような気がするとかただ怖いと言うのであればお婆ちゃんも気のせいだと言えるのだが、皆口をそろえて同じ話をする。

「毎晩あの部屋から男のいびきが聞こえてきて怖いんです…」

それを聞いたMさんのお婆ちゃんも気になり一晩泊まってみると、たしかに夜になると例の部屋から男のいびきが聞こえてきたと言う。

その後女の子たちは次々と出ていき、お婆ちゃんもその物件を手放したのだとMさんのお母さんは言った。

釘の話や電球が全部外されているのは何故か聞いてみたが、それはMさんのお母さんも知らないそうだ。

そんな話をお母さんから聞かされたMさんはとてもじゃないがバイトは続けられないと、その後店長に謝り辞めたそうだ。

「あの部屋にはさぁ…自分が亡くなったことに気づかない魂がずっといるような気がするんだよ」

と最後にMさんは言った。






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