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寿司を、相手の弱みを、天下を・・・|原宏一/握る男

何を握る?

握る男の物語です。

主人公は寿司屋の見習いに来た小僧二人なので、
握るのは一義的にお寿司ということになります。
二人は瞬く間に飲食業界への雄へと駆け上がっていきます。
日本の飲食の50%以上を配下に収める大実業家です。
食は国民にとってなくてはならないものです。
だから彼らが握るのは、
日本であり、天下ということもできます。
成りあがっていく途上で彼らが使う主な手法は、
これと目をつけた人の表に出したくない事情を掴むことです。
黙っている代わりに、こちらの要件も吞んで欲しいと、
巧みに取引をします。
そう、相手の弱みを握るのです。
小説の中で、「キンタマを握る」という表現が度々登場します。

飲食業界でのし上がる男の栄枯盛衰の物語

この物語は、その栄華が続かないことを明示して始まります。
読者は栄枯盛衰の物語であると知りながら、読み進めます。
それでも二人が大きな成功を掴んでいく日々に、
心が高まり興奮させられます。
将来の崩壊の芽となりそうな出来事にヒヤリとさせられながらも、
それもまた吊り橋効果のように余計にスリルを掻き立てます。
いくら危険だと分かっていても、
ひょっとしたら間違っているかもしれなくても、
もう引き返すことはできない、この道を行くしかない。
主人公がそう感じる気持ちが分かります。
物事は主人公の処理速度をはるかに上回り、
自分の力を越えた、
大きな力によって動かされているかのようになります。
上昇による狂騒の中で、
冷静な自分・本来の自分が失われているかのようです。
ベンチャー企業が急成長する時の社内というのは、
創業者たちとはこうした雰囲気の中にいるのかもしれません。

まるで太閤・秀吉のよう

この小説を読んでいると、豊臣秀吉を思い起こさせます。
田舎の農民(最近は商人だったという説もあるようですが)から、
天下人まで昇り上がった秀吉も、
晩年はそれほど幸せだったようには思えません。
誰も信じられなくなり、更なる上昇を目指し、
海外にまで戦いを挑んでいきます。
周囲の心を読むことが得意だった彼が、
周囲の心を読めなくなっていったようにも見えます。
彼が亡くなった後、豊臣政権が脆くも崩れ落ちたように、
その崩壊の要因を幾つも遺した晩年だったと言えるかもしれません。

人の心を操る男から思うこと

この物語の主人公は、人の心を意のままに操ります。
最初は人懐っこさによって相手の懐に入り、
弱みを握るち利益を囁いて取引し、
そして段々と権力によって相手を従わせます。
権力は人を惑わせます。
勘違いさせ、見えるものも見えなくさせてしまいます。
権力者の前で無条件で跪く者たちも、良くないのかもしれません。

僕は権力者にも、権力に跪く者にもならず、
相手がどんな地位の人であろうと、
対等の関係でありたいと思います。
僕の場合は、権力者と聞くだけで反抗しがちであるので、
それも卒業したいです。
卑屈でも不遜でもなく、
誰とでもフラットに向き合えるようになりたい。
そう思いました。

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