電煌戦七盤勝負VSやさいさん(20221020)~ジャイアントキリングについて~
2022年10月20日、第五期電煌戦、予選A級紅組1回戦。
ramhome-やさい戦が行われました。
前回は2-5で敗れ、棋力差は広がる一方。
雪辱を晴らすために鍛錬を重ねた2週間と、その対策について振り返ります。
こちらが対決の動画です。試合の流れはこちらでご確認ください。
前提条件(実力差)
上図は対戦当日の棋力差です。
互角の競技と必敗の競技で構成されています。
(どうぶつ将棋レート差は便宜上100、バックギャモンの段位差とレート差が逆なのは最高段位と現在レートの違いです)
レート差から七盤全体の勝率を推測すると、以下のようになります。
〇七盤勝率 16.81%
(以下内訳)
・7連勝 0.0078%
・6勝1敗 0.28%
・5勝2敗 2.9%
・4勝3敗 13.6%
・3勝4敗 30.5%
・2勝5敗 33.0%
・1勝6敗 16.6%
・全敗 3.1%
なんと、勝つ確率と1勝6敗になる確率が同じようですね。
そして、やさいさんは将棋で培われた正確読みから、すべての競技において地力が高いです。
どうぶつ将棋やチェス等では前回よりも遥かに上回る実力となっていました。
前回は惜しくも七盤の番人さんに敗れはしましたが、正直に申し上げますと、彼が今期誰かに敗れる姿が想像できません。
レート差と背景を見ていただくと、
この対局が絶望的なことがおわかりいただけるでしょう。
対策について
対策を打つにあたって、まずは現実の把握。
自分が劣位にあることをきちんと受け止め、作戦を立てていきます。
各競技の指しぶりを見ても、やさいさんは隙がなく強力でした。
ただ、そんな圧倒的優位にあるやさいさんにとって一つだけ弱点があるんです。
それは、「強すぎる」こと。
当たり前と思う方もいらっしゃるでしょう。
それはそう、強いものは強いのですから。
ただ、言葉遊びかもしれませんが、視点を切り替えると、一つの解が見えてくるような気がします。
「強すぎる」ことは、ボードゲームで言うと「手が正確」
逆に言うと、「悪すぎる手は指せない」
つまるところ、好手が返ってくることを予想して対策を打てば、効率よく勉強することが出来るんです。
以下、各競技の対策と本譜の進行の振り返りとなります。
0回戦:ラップバトルについて
前回はラップバトルだけ勝利したので、やさいさんも練ってきていると予想。当然こちらでアンサーを用意してきました。
エンタメ性も重要なポイントです!
(こういった盤外の勝負で上手に立ち回ると相手の意識を逸らすことができますね!)
①どうぶつ将棋~用意と覚悟~
▲やさいさん-△ramhome
先手のやさいさんは穴ライオン定跡を選択。
中盤に出た隙を咎め切って勝ち。
どうぶつ将棋は暗記がモノを言います。常日頃からの対策が功を奏しました。
ただ、この穴ライオン定跡を崩すためには、
後手が△A3キリンから一直線かつひたすら罠の多い道に踏み込まなければいけません。
それを恐れた場合はキリンを上下して千日手となります。
不利な先手、かつ棋力が上の相手に千日手は望むところでしょう。
本譜は定跡どおり△A3キリンから仕掛け、先手もその後16手目まで正確に指していました。
やさいさんは一番苦手の競技にも関わらずこれだけの用意をしており、非常に厳しい試合を予感させました。
②囲碁~優勢はすぐ裏切るし裏切らない~
序盤優勢
▲ramhome-△やさいさん
囲碁は予想勝率約17%と、七盤の中で相当苦しい競技です。
やさいさんは初段を有し、ひとたび難解・劣勢に持ち込まれると勝つことは困難と考えていました。
そのため、食い込むための作戦はかなり限定されてきます。
その作戦とは、「序盤で大きく地合いを有利にする」
これに尽きます。
有利でも難解であれば、読み比べで負けることは明白。
そのため、地合いというわかりやすいリードを築かなければいけませんでした。
本譜は初手小目から、想定通りの囲い合い。
参考図の10手目の時点で、黒の勝率は9割と作戦が成功しました。
しかも、まだ戦いが始まっていない時点。
黒の方針も比較的わかりやすく、完璧と言って差し支えないでしょう。
しかし、ここから黒E7と指した手が悪手。互角に戻ります。
以後(囲碁)、形勢が悪くなったり戻ったりと、とても難解な進行となっていきます。
序盤研究の意味
確かにこうなってしまえば準備が意味がありません。
それでも、私は序盤を大事にしています。
それは、3つのメリットがあるからです。
・自分の経験値が活きる展開になる
・相手の必殺技にハマりにくくなる
・終盤に時間を残すことが出来る
また、これは持論ですが、
「有利の時間が長いほど決め手を指せる確率が上がる」
某スマブラでもそうですが、
%(ダメージ)を溜め、決め手を放ち、場外に弾き出して勝利。
将棋も一気に決着がつくことよりも、有利からちゃんと決め手を放って(相手がミスして)勝つことの方がずっと多いと感じます。
したがって、有利の時間が長いことはそのまま勝率につながっていく ⇒ 最初に有利を取ることは勝率に直結するのではないでしょうか。
決着
形勢不明となった今、対策の最後の成果が現れました。
それは、勝ちパターンの事前予習。
上の二子を囮にして右下を殺す。
今回の試合進行も同じ筋を使うことしか考えていませんでした。
出来るだけ上を引っ張って、右下を殺しにかかります。
以下本譜
③将棋~誤解と誤解~
▲やさいさん-△ramhome
将棋は一番得意のつもりなのですが、棋力差も一番大きい種目。
勝率はまさかの5%
やさいさんは中住まいで有名なので、ダイレクト三間飛車(自称)を投入。
たしかに私は居飛車党過激派です。
ただ、一応この形の三間飛車を隠し玉として持っています。
誤解されることも多いですが、振ることがすべて悪だとは思っていません。
もちろん振り飛車は居飛車に比べて手損があり、弱いと思っています。
が、振り飛車に居飛車を上回るメリットを感じたときは天秤にかけることも大事だと考えます。(信念を重視して戦う時は別)
今回は、
・やさい流相掛かりに対する有効手段が見つからなかったこと
・やさい流対振り中住まい(通称”サクセン翼”)対三間飛車は、三間飛車側の若干評価が良いこと
・負け試合で手の内を晒したくなかったこと
の三つのメリットを考えて戦法を選択しました。
角道オープン型の三間飛車は、相手の駒組に制約を課し、相手から角交換させやすい特性を持っています。
そのため、角交換後で何パターンか想定局面を用意していました。
……まさか▲77桂で一切角交換できるなんて思わずに。
本譜は力負けして圧迫→暴発→投了。完敗でした。
④オセロ~力量の差~
▲やさいさん-△ramhome
オセロも200以上レートに開きがあり、事前から厳しいことが予想されていました。
Shamanから端を取る形がやさい流で、想定通りの展開でした。
以後、本譜の端を取らせてからの△C3が最善で、次の応手によって概ね3つの変化に分かれます。
事前対策は網が広ければ広いほど難しい。
当たり前ですが、この3つの変化をそれぞれ完璧に仕上げることは難しく、全てにおいて一定程度の探索しか進めていませんでした。
途中で最善を外れるため、それ以上の探索も無益という判断もありました。
震えました。
10手の間、自然な手とはいえ、しっかり最善の対応。時間もほとんど使っていません。
次の手は分かっていましたが、それ以降のイメージを組み立てるために長考に入りました。
少し白が良いものの、ここから勝ち切れる自信は既に無く——。
実は厳しい手をバシバシ打っていたみたいですが、
(実況には△f7を緩いと言われ(最善との誤差-1)、上記画像でもまだらぬこ神に黒有利と言われ……そんなことはないはず)
ここから端を取ってしまい勝負は五分→負けに。
精神的な崩れと読みの浅さが露呈。実力で完全に負けていました。
⑤チェス~対策と成長~
△ramhome-▲やさいさん
やさいさんには前回の電煌戦にて、クイーンズギャンビットで勝利を収めています。
その影響からd4オープニングの採用。対策としてKIDを擁しているという自負があります。(自意識過剰かも、間違ってたらすみません💦)
したがって、事前準備としてフィアンケットへの対策をいろいろ考えていました。
しかし、実際はフィアンケットを捨て、ビショップを別方向で活躍させる手。私は長考に入りました。
考えはしましたが、私にはこれ(事前準備)しかありません。
対策から玉頭を圧迫するという方針を借り、方針が功を奏して勝利を収めました。
作戦を外れ、予定外の戦い。
それでも、上手く指し回すことが出来ました。
圧倒的な強敵のために、事前の準備をしていく中で、自分が少し成長したのかもしれません。対局が終わった今はそう感じています。
⑥連珠~刹那の煌き~
▲ramhome-△やさいさん
この対局に技術的にあれこれ言うのは粋ではない、私はそう思います。
後手を断ち切った僅か19手。
その一瞬にどのような駆け引きがあったか。
時間の使い方、息遣い、そしてやさいさんの”強さ”を最も感じたのが連珠でした。
少しずつ時間を使い、私の一手一手に最善を返すやさいさん。
1分も使わず、最善が放たれるたび快哉を叫びたくなる気持ちに襲われました。
これだけの時間で読み切れるのか、と。
そして、4分の考慮を費やした△K6。
これは、最善ではありません。
しかし、読み筋は完全に一致していました。
つまり、この一手は。
「最善を読み切った上での、精一杯の粘り」
今までの手を見れば、やさいさんは最善にも気付いているでしょう。
でも、その先に道がないことまで読み切れるのか。
無理でしょう。最善を返すはずです。
しかし、放たれたのは最善でも何でもないすぐに詰む受けの一手。
それは、袋小路に陥ったことに気付いて、「それでも」と生きようと藻掻く一手。
実は私も数手前からこの手に気付き、慌てて勝ちを探していました。
何とか勝ち筋を見つけたとき、安堵するとともに
知らない手をよく探してのけるものだと感心しました。
この時点で、スコアは4-2。私の勝利が決まりました。
それでも、声を大にして言います。
やさいさんは天才です。
⑦バックギャモン、そしてあとがき~勝負は時の運~
バックギャモン
バックギャモンは運ゲーです。
私はそう言って憚りません。
電煌戦でも驚くような負け方と、解析結果のBad dice, man!! に煽られ続け無事闇堕ちを果たしました。
ギャモン前で勝つことが目標でしたが、達成できたことは僥倖と言わざるを得ません。
結果としては、私の勝利。
前回とは打って変わって、PSでは私が負けていたものの、有利を守り切ることができました。(運の差はそこまで大きくはなかったみたいですが、実力とは到底言えません)
運ゲーとは言っていますが、一つだけ気を付けていることとして、
”自分なりに方針を持って、後の自分が楽になるように打つ”こと。
負けたとしても、後悔がないようにしたい一心でした。
勝負は時の運
結果は5-2。
なんとか前回の雪辱を果たすことが出来ました。
しかし、これは紙一重の勝負でした。
対策が一つ当たらなかったら。バックギャモンを落としていたら。
今回使った作戦は、もう二度と通用することはないでしょう。
もう一度やさいさんと戦った時、私は今回のように白熱した勝負を演じることは出来るでしょうか。
この勝利は、
事前の対策が、棋力差という圧倒的なハンディキャップを超える希望となる一方、実力差という深い隔たりを改めて思い知らされるものでした。
それでも、諦めること勿れ。
やさいさんを追った二週間、少しではありますが、各競技の見え方が変わってきたような気がします。
もう伸びないと思っていた実力に、成長の兆し。
思えば対策を通して、未だ知らぬボードゲームの本質に触れることが出来たのかもしれません。
強力な好敵手が私を一段階上のステージへ引き上げてくれたようで、ありがたい気持ちでいっぱいです。
やさいさんに最大限の感謝を。
長文失礼いたしました。
これを読む皆様の棋力向上、そして棋力差を超える力になれば幸いです。