不登校生徒の成績評価についての一意見
はじめに
この駄文を書こうと思いついたきっかけは最近ツイッターで見かけた投稿である。要約すると以下のようになる。
1.不登校であるが数学のテストで1位を取った。これは自立して勉強しており数学科の目標を達成しているといえるのではないか。しかし、出席数の関係で評定が1か/(注:評価不能を表す)であるのはおかしいのではないか。
2.不登校だから評定不能の理由として協調性の養成や学校に来ている子への配慮を挙げているが、前者はフリースクールで補え、後者はそもそも楽しくない授業をしている教員に原因があるのではないか。
私はこの意見に少々疑問を持った。なぜならば、テストの点数のみで成績評価を行うのは現在の学習指導要領の観点別評価とそぐわないのではないかと思ったからである。そこで、本文章では現在の学習指導要領等を踏まえ、不登校生徒の成績評価について考えてみることとする。
現在の成績評価について[1]
現在(2023年時点)における成績評価は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点による評価を行い、これら3つの観点の評価を総合的に判断して5段階評価を行うとしている。「知識・技能」の評価方法としては従来通りペーパーテストによる評価が挙げられる。「思考・判断・表現」の評価方法としては、ペーパーテストのほかに、レポート作成や発表、グループワークにおける話し合い、作品の制作、またこれらを集めたポートフォリオの活用などが挙げられる。「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法に関しては、文献[1]では「ノートやレポート等における記述、授業中の発言、教師による行動観察や児童生徒による自己評価や相互評価等の状況を教師が評価を行う際に考慮する材料の一つとして用いること」が挙げられているが、この観点に関するシンポジウムが開催されるなど議論が続けられている。
不登校生徒の成績評価について
不登校児童生徒への成績評価に関して、文部科学省は令和元年10月25日通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」[2]で述べられている。具体的には、「2 学校等の取り組みの充実」の「(3)不登校児童生徒に対する効果的な支援の充実 6.不登校児童生徒の学習状況の把握と学習の評価の工夫」において、「不登校児童生徒が教育支援センターや民間施設等の学校外の施設において指導を受けている場合には、当該児童生徒が在籍する学校がその学習の状況等について把握することは、学習支援や進路指導を行う上で重要であること。学校が把握した当該学習の計画や内容がその学校の教育課程に照らし適切と判断される場合には、当該学習の評価を適切に行い指導要録に記入したり、また、評価の結果を通知表その他方法により、児童生徒や保護者、当該施設に積極的に伝えたりすることは、児童生徒の学習意欲に応え、自立を支援するうえで意義が大きいこと。」[2]と述べられている。
文科省の通知等を踏まえて
文部科学省による通知等を踏まえて、中学校理科という科目でどのように評価をつけていくか考える。例えば、理科は「知識・技能」だけでなく、「思考・判断・表現」の評価の機会が多い教科といえる。これは、学習内容を踏まえ実験を行い、結果や考察をレポート等でまとめることが多いためである。また、レポートやワークシートの記述内容の変化を見ることが多いことから、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の機会も多いといえる。現在の学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」が重視されていることも考慮する必要がある。以上を踏まえると、現在の学習指導要領下では「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」を評価する機会が増加しており、結果として評価全体に占める「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の割合が増加しているため、ペーパーテストのみによる評価を行うことが難しくなっているといえる。したがって、ペーパーテストで高得点を取ったとしても「知識・技能」の観点では良い評価を得られるが、総合評価を行うためには残りの2観点の評価が必要であり、ペーパーテスト以外の情報が必要となると考えられる。
不登校生徒の成績評価について
ここで、実際に不登校となっている生徒について考えてみる。文部科学省令和元年10月25日通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」[2]で述べられている通り、「不登校児童生徒が教育支援センターや民間施設等の学校外の施設において指導を受けている場合」かつその指導内容と生徒の様子が明確にわかる場合、これは成績評価の参考資料として利用可能であり、評価に取り入れることが可能であるといえる。また、教師側が代替課題を課したり、別枠で実験を行い、口頭試問を行うことで評価とすることも考えられる。実際にこれらの代替措置を設け、生徒が取り組むことができたうえで設定した評価基準に達していれば普通に登校している生徒と区別することなく評価するべきである。一方で、代替措置を設けても返答がない(代替課題未提出など)場合は、残念ながら授業担当者が設定した観点に基づく評価を行うことは難しいといえる。これは評価を行うための根拠がないためである。
「真面目に来ている生徒」の意味
冒頭のツイッターの投稿では、「真面目に毎日頑張って学校に来ている子が割を食っちゃいかんでしょ」という意見に対して強く反論している。この「真面目に毎日頑張って学校に来ている子」という観点について考える。この観点で主張したいことは「真面目に毎日頑張って学校に来ている子」には高い評価をつけろ、ではなく「真面目に毎日頑張って学校に来ている子」と不登校生徒との間で評価基準・評価規準を変えるべきではないということではないだろうか。先述したように、現在の学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」を重視し、3つの柱「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」による観点別評価を行っている。これに合わせて全国の教員は単元指導計画や学習指導案を作成し、評価規準・評価基準を設定している。「真面目に毎日頑張って学校に来ている子」は3つの柱に基づき様々な観点から評価を受けているのに対し、不登校生徒にはペーパーテストのみで評価をつけることは、ペーパーテストのみの評価が現在の学習指導要領にそぐわない形であり、また、間接的に指導者自身が設定した評価規準・基準、「真面目に毎日頑張って学校に来ている子」のポートフォリオの否定につながる。加えて、保護者経由で万が一発覚した場合に「真面目に毎日頑張って学校に来ている子」が不満に感じ、不満の矛先が不登校生徒に向くことは想像に難くない。
まとめ
ここまで不登校生徒への成績評価に関して述べたつもりである。私個人の意見としては不登校生徒の成績評価について、「(1)不登校生徒と普通に登校している生徒との間で評価規準・基準は変えるべきではない。その代わり、不登校生徒が不利にならないよう代替措置を設ける必要がある。」「(2)設けた代替措置に対して何も行動を行動を起こさなかった場合は、評価のつけようがないため、0点として処理せざるを得ない。」「(3)一方で、ペーパーテストで良い結果を残したり、代替措置を受けて行動した場合は、その点を正当に評価し、成績に反映するべきである。」である。要は出すべきものはちゃんと出せ。出したらその分評価するし、出さない奴は知らない、である。
不登校生徒の成績評価は、教員側と保護者・塾側との間で認識のズレがあるように感じる。そのため、教員側は成績評価規準・基準を公開するなどして、保護者・塾側は教員側が設定した規準・基準の背景を受け入れるなどしてお互いに歩み寄る必要があるのではないだろうか。
私の駄文に対して厳しい指摘や反論はあるだろうが、教員側の一意見として参考になれば幸いである。
参考文献
[1]文部科学省 国立教育政策研究所教育課程研究センター、’学習評価の在り方ハンドブック’
[2]文部科学省、’「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日’
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