絶賛姉妹喧嘩中につき
彼女が我が家の末っ子になってウン十年経つ。
なんとも長いお付き合いである。
彼女はすばしっこく、御転婆。
そして
底抜けに嘘つきの達人である。
まだ彼女が幼稚園に通っている頃の話。
「おねえちゃん、おねえちゃん」
ヒソヒソと私を呼ぶ妹の声がする方に行くと、家の外から網戸越しにポツンと立っている。
「なにぃ?」と普通に答えると
「しぃー!!」と必死の形相で口の前で人差し指を立てる妹。
「おかあさんにわからないようにでてきて」
ん~、取り敢えずこの時点で良い予感がしないのは確実な私。
「こっちきて、こっち」
導かれるがままに表の道路まで出る
その道路から奥に入った3軒目がその頃私達家族が住んでいた借家だ。
そこの道まで出れば母親に会話を聞かれる心配はない。
だが彼女は何も言わず私の手を引いて左の方へ進む。彼女が誘うその先には少し広めの道が横切っており、用水路を挟んで工場の壁がある。
「たいへんなの、たいへんなの」
うん、うん、うん、そりゃそうだろうよ、お母さんにもバレちゃ不味いんだろ。
道の突き当りにある工場の壁を指さし、彼女は言った。
「あれ、見て!!」
流石の私も
「はっ?」
あろうことか、私の自転車が工場の壁にカエルのような形でへばり付いているではないか!!
いつもの事だから察しは付いた。
彼女はまだ小さいから乗っちゃいけないと言われていた私の自転車に乗り、走り始めたは良いけども、ブレーキが掛けれなく、咄嗟に自分は降りて、自転車だけが壁に激突してひじゃけた。てな具合だ。
ん~、どんだけ俊敏なん?お前!!
いやいや感心しとる場合ではない。
と ・ り ・ あ ・ え ・ ず
私の自転車をここから救い出さねばならぬ!!
道路と用水路の間にある狭い土手に右足を置き、左足裏を工場の壁に縦に置いた。踏ん張りは効きそうだ。
おもむろに、自転車のハンドルの少し内側を持ち浮かしてみた。
と、そこへ要らぬ一言が
「おねえちゃん、がんばって!!」
なんであたしが頑張んなきゃいけねえんだよう!!
自分のケツは自分で拭わんかい!!
だがそう思った瞬間、上手い具合に自転車が反転して土手に自転車の前方部分が乗り上がった。
私は透かさずハンドル近くを持って引きずり上げた。
「あぁ~、よかった」と彼女は言った
全然良かねぇよ!!
私が自転車を引き、妹は付いてくる。
だけならまだ可愛い。彼女はその更に上を行く。
「おねえちゃん、おとうさんとおかあさんにはないしょにして」
私も黙ってはいない
「無理だよ、ほれ、キーコーキーコ―言っとるし、真っすぐ進まんし」
自転車は悲鳴のような音を立て、クネクネあっち向いたりこっち向いたりしてなかなか前に進まない。
「だからさぁ、おとうさんになおしてもらって」
そりゃそうだろうよ、その点では父は頼りになる。
「おねえちゃんがこわしたっていうことで」
なんじゃそりゃぁ~~~、あん?
「だってぜったいたたかれる!!」
たしかに、それは言える。
それを言われると、一番辛い。
殴る蹴るは日常茶飯事。
(だけどさぁ、暴力振るわれてたのって私だけだったよね)
仕方なく妹に
「良いよ。」と言ってしまった。
直ぐの日曜日、父に
「ねえお父さん、自転車直して!」
「どうした?パンクか?」
「ううん、違う、見て」
父を外に連れ出してキーコーキーコ―言わせながら自転車を見せた。
あの暴力父さんが小っちゃい目を真ん丸にして
「なんだこれ、お前怪我しなんだか?」
私は戸惑いながら
「う、うん」とだけ言った
「よう怪我しなんだなぁ~、ほんならまずは真ん中揃えなかんなぁ~」
「お前そこ持っとれ、持っとれるか?」
(あん時、優しかったなぁ)
そんな会話をしていた時、妹はというと
私が言いつけやしないかと、一番近い部屋の網戸のそばに正座をしていた。
手には何故か塩せんべいを持ち、食べる振りだけして平静を装っているつもりらしい。
でも私は知っている。
せんべいをポリポリ食べると会話が聞こえなくなるからで、決して申し訳なさからくるものではないことを。
ひたすらに耳はダンボ状態なのだ。
他にもいろいろとエピソードは尽きない。
女の子が2人居ても、うちには雛人形はなかった。
お雛祭りには決まって父がお雛様をかたどった分厚い板チョコを買って来てくれるのが恒例となっていた。
妹はチョコレートが大好物、私はそれほどでもなかったが嫌いでもなかった。
チョコをもらうとなぜか冷凍庫に入れて保存していた。
右端が私で左端が妹といった具合で、目印というものは他には無かった。
だがある一定の期間を過ぎてくると、またアイツがやりやがるという状況が現れ始める。
さぁ、久しぶりにチョコを食べようと冷凍庫から取り出すと異変が!!
私は生まれつき歯が弱いのと怪力(これは先程の件で実証済みですね)である為、手で割って食べるのですが、そこには明らかに妹のものと思われる
『歯形』
が付いている!!
妹は生まれつき歯が丈夫で、袋を開けたりする時は当たり前のように使い、一度は缶の箱を歯で開けるというシーンを目撃して衝撃を受けたこともある。
私はチョコの歯型を見つけるや否や
「あんた、私のチョコ食べたやろ!」と問い詰める
勿論妹は
「そんなことしんよ」と涼しい顔をして言う
私も負けじと
「じゃぁ、この歯の後は何?」と聞けば
「おねえちゃんのやないの」と、しらぁ~っと言いやがる
「私は折って食べるの!!ほんなら当ててみぃ!」と当てがうと
ピッタリ!!
歯医者の歯型取りよりも正確にフィットしている。
「ほれ見ろーーーーーーー!!」
妹はにぃ〜と笑っていた。
また少しして食べようと冷凍庫から出してみると、前回と明らかに違う!!
「あんた、また食べたやろう!」と問い詰めると
「はがた、ついとった?」と聞きやがる
質問に質問で返すんじゃねぇんだよ
確かに歯型は付いてない、がしかし、私には明らかにわかる違いがそこにはあった。
「銀紙の折り方が違うの!!」得意げに私が言うと
「まちがえてあけたときにもとにもどしたかもぉ~」
いやいや、明らかに大きさ違うし、ん?誰が割った?
「お母さーん!!アイツに割ってって頼まれて割ったやろ!!」
絶対そうじゃん、それしかないじゃん
「えぇ~、そんなことしたっけぇ~」
いっつもそう、こういう感じ
興味ないんだよねぇ~、子供に。
DV父さんに育児放棄母さん、子供は逞しく育つはずですよ。
そして今も尚、姉妹喧嘩真っ只中の私達
良い歳こいて何やってんだか
本当は真ん中に一人妹がいる、生後40日で天国へと旅立った次女
家族のみんなが『ようちゃん』と呼ぶ
末っ子の妹は会った事も無いのに、教えたわけでもないのに『よう姉』と呼ぶ
『ようちゃん』
今頃
「巻き込まれなくて、セ~フ」って思ってるんだろうな
うん、この家族、結構ハードなのよね