ハロルド・ブルームに学ぶ批評態度

ハロルド・ブルームが述べた、先行者の"priority"を無化するための解釈戦略は、詩に関するものだが、詩を批評に置き換えても該当する。

①「クリナーメン」 詩人が先行者からそれること。これがなければ、先行者を繰り返す。つまり、凡庸な反復にすぎない。あるいは先行研究や批評の呪縛の外には出られない。

②「テッセラ」 先行者がし残した作業を自分で完成する。補完あるいは不備な点を繕う。だが、先行者の敵対者ではない。ただし、最後の完成者が裏切って次の段階に向かうこともあるだろう。

③「ケノーシス」 自分を低いところにおいて先行者と手を切る。二流であることやローカルな読解を徹底する。これが批評の動きを生み出す重要な底流でもある。

④「デモナイゼーション」 先行者の詩のなかに先行者自身が知らなかった(と思える)ものを発見する。テッセラと似ているが、内在的に打破する可能性をもっている。解体をするという形で見出すので、パロディの姿をとることもある。

⑤「アスケシス」 自己純化する。影響の拒否と独善化の危険はあるが、羽化する前に繭となる段階はどこかで必要である。殻に閉じこもるとか自閉的な時期が存在するが、そこから飛び出せるのかは運や外からの刺激の有無にもあるように思える。

⑥「アポフラーデス」 強い詩人は最後に先行者に向けて自己の詩を作る。これは敵対者あるいは対話者として先行者に向かうことで、ひとつの理想や目標となるだろう。


土田 知則『間テクスト性の戦略 (NATSUME哲学の学校 2) 』(夏目書房、 2000年)参照

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