末國善己編『永遠の夏 戦争小説集』(実業之日本社文庫)

末國善己編『永遠の夏 戦争小説集』(実業之日本社文庫)は、かなり考えさせられるラインナップである。
■柴田哲孝「草原に咲く一輪の花 ─異聞ノモンハン事件─」
■坂口安吾「真珠」
■大岡昇平「歩哨の眼について」
■田村泰次郎「蝗」
■古処誠二「糊塗」
■帚木蓬生「抗命」
■城山三郎「硫黄島に死す」
■山田風太郎「潜艦呂号99浮上せず」
■皆川博子「アンティゴネ」
■徳川夢声「連鎖反応 ─ヒロシマ・ユモレスク─」
■島尾敏雄「出孤島記」
■五木寛之「私刑の夏」
■目取真俊「伝令兵」
■小松左京「戦争はなかった」

徳川夢声の「連鎖反応ーヒロシマ・ユモレスクー」を。これは隠れた問題作ではないだろうか。桜隊と無声との関係が執筆動機だろうが、近年評価が高まっているのもわかる。やはりA女とB女問題が原爆投下で転換したところや、「イグナチオ・ロヨラ」の強迫観念を作品自らが唯物的解釈と心理学的解釈の2つを並べてみせるのも見事である。

帚木蓬生の「抗命」を。帚木の21世紀の仕事をほとんど読んでいなかったので、これは考えさせられた。インパール作戦をめぐる短編だが、牟田口に逆らった佐藤の精神鑑定をめぐる話で、帚木の専門を活かした設定と内容だった。初期の抒情性はすっかり失せているが、それだけに話の骨格は掴みやすい。渦中にあって「狂気」をどのように鑑定するのかという問いかけであり、机上の作戦を立案し、万単位の死者を平然と生み出す指導者の「狂気」のほうに主眼がある。それを精神鑑定の手順を描写するなかで浮かび上がらせる。「軍医たちの黙示録」の二冊本は読む価値ありと思った。このあたりの発見がアンソロジーの良さである。

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