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DXの手法論-『マッキンゼー REWIRED』を読んで

勤務先で紹介された『マッキンゼー REWIRED』を読んでみました。
実践的な良書でしたので、個人的にポイントと思った点をまとめます。


概要

サブタイトルに「デジタルとAI時代を勝ち抜く企業変革の実践書」とあるように非常に実践的な内容です。
Amazonの説明、レビューを見てもよく分かると思います。

かと言って情報システム的なハウツーだけでなく、経営者のリーダーシップへの言及から人材採用、組織の作り方まで幅広い内容です。
一部、開発ツールやデータアーキテクチャの章などは、私自身は実務経験が乏しいため読んでいて辛い箇所でしたが、実践する上では用語を調べつつ、繰り返し参照することが大事だと感じました。
そのように決して読みやすい本ではないのですが、企業DXに何らかの形で関わる人であれば読んでおくべきだと考えます。

一方で、自身の経験を振り返ると、「書いてあることはわかるんだけど、これに取り組むこと自体がすでに難しい」という気持ちも湧きました。
DX投資のリターンを最大化するためには、選択と集中が必須ですが、複数の事業体を抱える企業においては、その「整地」が大きなネックです。
CHAPTER1にドメインの優先順位付けの見出しはありますが、ここで躓く企業が多いことを想像すると、もう少し深堀りしてほしかったというのが正直なところです。

とは言え学びの深い一冊でしたので、以下、要点をまとめていきます。
※CHAPTERごとではなく、個人的な観点でまとめます。

経営者のリーダーシップ

経営陣のそれぞれがロードマップの策定に生産的に取り組めるようにするためには、最低でも20時間以上の学習時間を確保する必要がある。

『マッキンゼー REWIRED』CHAPTER1

これはDXロードマップの策定の文脈で書かれている文章ですが、個人的にはこれがすべて何じゃないかと思うほどの一文です。
概要で指摘をした整地のためのビジョン提示、組織マネジメントの手法導入、技術の採用など、意思決定者の理解と主体性が無ければ始まらないことばかりです。

様々なベンチャーが創業者の技術力からスタートしていることを考えると、トップが技術を理解していないとダメなのはDXにおいても同様だろうなと思います。

DX技術の内製化(のための人材)

そのため、まずは、経験豊富で候補者の言葉を理解できる、技術系リクルーターが必要となる

『マッキンゼー REWIRED』CHAPTER2

日本語版補記の中で、日本企業はIT技術を外部に任せてしまい、自社でノウハウを獲得できていない、自社のビジネスと統合して考えられていない、という指摘がありました。
見出しを書いて気づきましたが、一方で「オープンイノベーションが苦手で内製化しがち」という印象(偏見?)があるにも関わらず、このような指摘があるのは面白いですね。

なぜそうなるのか、という問いに対する答えは「ビジネスとITの双方を理解した人材が少ない」からだと考えます。
前項で経営陣の学習について触れたようにマネジメントがITを理解することとに加えて、中間管理職、一般社員がリテラシーを確保しなければ日常業務は変わりません。

では、理想的にはどのレベルで理解したら良いのか?と考えると、冒頭に引用したように「(自社のビジネスをIT改革する上で必要な技術者を採用する面談において)技術者の言葉を理解できる」レベル、ということでしょう。

このあたりは経済産業省が定めているデジタルスキル標準のビジネスアーキテクトが該当するかなと思いますので、詳細は割愛しますが、そのレベルのマネジメント教育・社員教育をすることは大前提であると再認識しました。

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/skill_standard/main.html

経済産業省「デジタルスキル標準」より人材類型の定義

※『REWIRED』内ではIT技術とビジネスをつなぐ人材について「トランスレーター」という定義もされていました。

ビジネス目線のソリューション構築

変革の取り組みを設計する際の重要な考慮事項は、関連するすべてのソリューションを、ユーザー向けの単一の変革介入プログラムにまとめることである(異なるソリューションごとに、同じユーザーに何度もアプローチする代わりに)。

『マッキンゼー REWIRED』CHAPTER6

業務改革を進める上で意外な障害となるのが、「受益者の反発」だと思います。
正確に言えば、「改革側の期待する効果」と「ユーザーのニーズ」の相違(もしくは説明不足)であり、「今で十分に業務が回っているのに余計なことするな」という状態です。

通常のビジネスであれば顧客目線の設計はまだ意識されやすく、リーン・スタートアップなどのアジャイル手法も有名です。

しかし、このような手法が社内向けに適応されることは非常に少ないのではないかと思います。
これを『REWIRED』では、改革によるビジネスインパクトを想定し、プロセス全体を一貫性を持って変えていく方向性で描いていました。

局所的な改革では反発に繋がりますが、その変革によってビジネス全体が生み出す価値が大きくなることが伝われば、反発する方が非合理だということと理解しました。

データ集計のための業務プロセス

しかし我々の経験から言えば、データガバナンスとオペレーティングモデルを正しく整理することは、データ集約型の企業になるために絶対的に重要である。

『マッキンゼー REWIRED』CHAPTER5

誤解を招くような見出しの付け方をしていますが、データがビジネスを変えるのであれば、「データのために働く」くらいの気概がいるのではないかと思います。
改革を進める中で常に障害となるのが「既存の業務プロセス」ですが、それを維持しようとする様々なインセンティブを超えて、「どのようなプロセスにすれば、効果的にデータを集約できるのか」を考え、実務に落とし込んでいくことが重要であると再認識しました。

まとめ

引用できていないCHAPTER3,4はそれぞれオペレーティングマネジメントと開発環境の整備についての内容です。
ともに学びの多い章ではあるのですが、社内改革をビジネス目線で実現する、という観点で整理をするにあたって割愛しました。

整地ができ、目指すべきビジネスの軸が定まっているのであれば、この『REWIRED』はガイドブックにできる具体さだと感じます。
整地前の企業にとっては、まずはこの本に出てくる用語をすべて理解し、自社のビジネスと紐づけて説明ができるようにすることが第一歩かもしれません。
ちょうどそれが「20時間以上の学習時間」にもつながりますね。


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