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2021衆院選にドイツ連邦議会の選挙制度を適用すると

日本の衆議院選挙は小選挙区比例代表並立制を採用しており、比例代表の議席配分にはドント方式(各政党の得票数を1,2,3,…,で割った商の大きい順から当選する方式)を用いている。一方、ドイツの連邦議会選挙は小選挙区比例代表併用制を採用しており、比例代表の議席配分にはサン=ラグ方式を用いている。まずは、この小選挙区比例代表併用制とサン=ラグ方式について紹介する。

小選挙区比例代表併用制

小選挙区比例代表併用制では、

①比例代表選挙で得られた政党の得票数に応じ、各政党の議席数を決定

②小選挙区で当選した候補者は優先的に当選人となる

③各党に配分された議席数から小選挙区の当選人の数を引き、残りを比例代表名簿から順次選ぶ

といった方法で議席の配分が決定される。ドイツの場合、小選挙区で当選した候補者の数が比例代表で獲得した議席より多い場合であっても当選が認められるため、超過議席が生じることがある(実際、ドイツ連邦議会の議員定数は598であるが、昨年の選挙後の議席は735であった)。また、超過議席に見合う数の調整議席が、超過議席の発生しなかった政党に追加配分される仕組みとなっている。

サン=ラグ方式

サン=ラグ方式とは、各党の得票を奇数1,3,5,…,で割った商の大きい順に当選する方式である(前述したように、ドント方式では各政党の得票数を1,2,3,…,で割る)。ドイツではこの方式を用いて各政党の議席数を決定している(厳密には少し異なる)。

ドイツ連邦議会の議席決定方法(2021衆院選にドイツ連邦議会の選挙制度を適用する)

2013年時点での連邦議会の選挙制度を例に、議席配分の方法について詳しく述べる(昨年の選挙もほぼ同様の方法を用いたものと思われる)。文章で書くと分かりづらいため、日本の衆院選に当てはめながら説明することにする。総人口は、2021年1月1日時点での住民基本台帳に基づく人口を用いた。また、比例代表のブロック=州とみなして集計した。

①各州の人口を、(国の総人口/議員定数の2倍に1足した数)の整数部分を2倍した数+1で割り、その商の整数部分と同じ議席を各州に分配する

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②①で分配した議席数の合計が議員定数に満たない場合、州人口を奇数1,3,5,…で割り(サン=ラグ方式)、その商(整数部分)が大きい順に議席を分配し、各州の定数を確定する

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(以降、議席が分配された値を橙色で示す)

③②で決定した州定数に基づき、各政党の州ごとの得票を、(小選挙区3議席or比例得票率5%を満たした政党の州得票数合計/州定数の2倍に1足した数)の整数部分を2倍した数+1で割り、その商の整数部分と同じ議席を各政党に分配する

※ ドイツの小選挙区は299で、定数598のちょうど半分になるように設定されているが、今回は衆院選の小選挙区定数289、比例代表定数176をそのまま利用する。

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④③で分配した議席数の合計が州定数に満たない場合、各政党の州得票数/③で求めた各政党に分配された議席数の2倍に1足した数を求め、その商が大きい順に議席を分配する

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⑤①~④で求めた、各政党の小選挙区の議席数と比例代表の議席数のうち、多い方の議席数(多い方の議席を最低限配分しなければならないため「最小議席数」という)を各政党に分配する

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⑥各政党の得票数を、各政党の得票数/(各政党の最小議席数*2-1)の整数部分を2倍して1足した数の最小値で割り(今回の場合は自民党の値)、試算値を求める。

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⑦⑥で試算した値が⑤よりも小さい場合、最小議席数を満たすように議席を増やす(自民党が該当する)。各政党の州得票数/⑥で求めた試算値の2倍に1足した数を求め、⑥で試算した値が⑤よりも小さかった党(自民党)の州得票数/その党の試算値(最小議席数ではない)の2倍に1足した数と比較する。前者の値が後者の値よりも大きい場合(立憲民主党と国民民主党が該当する)、後者の値を下回るまで前者の試算値(政党の議席数)を増やしていく。これで議員の総数が確定する。

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⑧⑦で確定した当選総数を州へ配分しなおす。各政党の各州得票数(③参照)を、(各政党の全得票数/⑦で求めた各政党の確定議席数の2倍-1)の整数部分を2倍した数+1で割った値(第1近似値)と、その州の小選挙区の当選者数とを比較する。このとき後者の値のほうが大きい州はそれを当選者数と確定する。前者の値のほうが大きい州では、各政党の各州得票数を、(各政党の当選者数未確定の州得票数の合計/各政党の未配分議席数の2倍に1足した数)の整数部分を2倍した数+1で割った商(整数部分)を求め(第3近似値)、各州に議席を配分する。

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⑨残った議席は各政党の各州得票数を、⑧で求めた「(各政党の当選者数未確定の州得票数の合計/各政党の未配分議席数の2倍に1足した数)の整数部分を2倍した数+1で割った商(整数部分)=(⑧の当選確定議席)」の2倍に1足した数で割った値を求め,その商の大きい順に配分し、ようやく各州の最終的な議員総数が確定する。

(おそらく合っている...はず)

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結果の考察

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総議席数が516となり、51の超過議席が生じた。5%条項によりれいわ新選組の議席が0になった。また、自民党の議席が261→189と大幅に減る結果となった。一方、小選挙区で3議席以上を獲得した国民民主党など5%条項の適用を免れた政党は、自民党を除いて大きく議席を伸ばす結果となった。

参考までに、比例得票率と、各政党の議席占有割合を載せておく。

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感想

計算方法を理解するまでが非常に困難であった。J-STAGEに寄稿された記事(出典・参考文献の3番目に記載)がなければ、間違いなくこの記事は書けなかったであろう。

【出典・参考文献】

コトバンク『小選挙区比例代表併用制』, https://kotobank.jp/word/%E5%B0%8F%E9%81%B8%E6%8C%99%E5%8C%BA%E6%AF%94%E4%BE%8B%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E4%BD%B5%E7%94%A8%E5%88%B6-181859

ドイツ連邦共和国大使館・総領事館『第20期連邦議会選挙(2021年9月26日)』, https://japan.diplo.de/ja-ja/themen/politik/bundestagswahl2017/940798

J-STAGE『ドイツ連邦議会議員選挙の議席配分』, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaes/31/1/31_30/_pdf/-char/ja

総務省『【総計】令和3年住民基本台帳人口・世帯数、令和2年人口動態(都道府県別)』, https://www.soumu.go.jp/main_content/000762462.xlsx

NHK『衆議院選挙2021特設サイト』, https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/2021/

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