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wtks_me
【詩】糸
手のひらからこぼれた風を追いかけて
私だけが見える糸をたどっていくと
待っていたのは孤独だった
何かと何かをつなぐものは
誰かがどこかで傷つくものだから
見えてはいけないものだったんだ
導かれた先は運動場の端っこにある
用具を入れる小屋の
ひびの入った窓ガラスだった
私の顔を映し出す向こう側に
幾年もの四季が捨てられていた
私の心から糸が伸びる
梅のつぼみが膨らみかけた頃
白球が枝を折って跳ね上がった
残されたつぼみは花となって
青い空に赤を落とした
桜が咲くと空は後ろに下がり
桜が散ると空は地面を支えた
過ぎ行く風景の中に
かつての私がいた
空を割いて走り
笑い声で鳥を驚かす
多くの糸に絡まって
きらきらと光っていた
プールの底指で文字を書く
くらりと泡が浮かび上がって
飛行機雲に溶け込んだ
ハイビスカスに落ちた天使の白髪
私はちらりと見た後に笑って
石蹴りの法則を発見した
揺れる稲穂と留まる夢を詰めて
お菓子の空き缶をピアノに埋めた
音楽室は安全な戦場で
銃口がモーツァルトを狙っていた
鍵盤が脱穀を始めて授業は止まった
私は私だけの糸でレクイエムを奏でていた
氷の張った池の中で金魚が笑う
私は梅の木に見とれていた
その時にしかない光の鈍さに嫉妬していた
孤独の一歩手前できらきらとした目で
待ちながらも恐れていたのだ
季節が過ぎていくのを
窓ガラスから離れて
大きく腕を振り回して
糸をめちゃくちゃに絡ませた
生まれた風が種子や愛情を運んで
新しい季節を生み出していく
孤独と孤独をつなぎ合わせていくのだ
(「無責任」第三十二号より)
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