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【詩】波の一つ
全てが正に振れる世界の中で
無邪気さも溢れすぎて
それを止めることができなくて
あなたは波を掬いに行った
最初の一掴みは最善の値で
私たちはうなずき合った
けれども二つ目の波は
限界を少し超えていた
あなたは消えてしまった
波が奪ってしまった
同じ波は来ない
私は生きてしまう
あなたのいない世界も
ほとんど姿を変えはしない
ただあなたがいない
残酷なほどにあなただけがいない
波は繰り返す
飽きることなく繰り返す
当然だ
波は常に新しいから
そして
そんな理屈では生きていけない
波の一つを殺すために
全ての波を呪った
波はただ一つ一つが生まれて消える
呪いが効いたのかもわからない
消える波を見続けているうちに
思い出してしまった
一つ目の波は幸せだった
ぐちゃぐちゃの気持ちで
むちゃくちゃに走って
波の真ん中目指して
波立てて
全てが負に振れる世界の中で
無気力の向こう側
そこに留まることもできなくて
私は波になって
そう
波になって
誰かを掬いに行く
私を救いに行く
(「無責任」第五十三号より)
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