映画「竜とそばかすの姫」を観て(ネタバレ含む)
【注意】#ネタバレ を含みます。
*はじめに
細田守監督と聞いて一番に思い浮かぶのは「サマーウォーズ」だ。「仮想都市OZ」という仮想世界が普及している世界観が大好きで、当時、現実も早くそんな世界にならないかと胸を躍らせた記憶がある。
そんな私は、今回の作品にも似たような「仮想世界」があると聞き、ワクワクが止まらなくなり久々に映画館に足を運んだ。
作品の感想を結論からいうと「音楽が素晴らしい! ストーリーは所々気になる点もあったが、総合的には映画館で観て良かった」である。
もしも、まだ作品を観ていないという方がいるのならば、この記事を読む前に是非とも鑑賞してもらいたい。
*良かった点
まず、良かった点を箇条書きにしてみたいと思う。
・音楽…声優を務めた「中村佳穂」の歌唱力が素晴らしい!
・映像…とにかく綺麗。キャラクターの表情の違いも分かりやすい。
・仮想世界「U」…好きな世界観。「仮想都市OZ」とは違う感じだが…
・もう一人の自分「As」…スキャンした生体情報から自動生成って、やってみたい!
・ネットの善悪…詳しく説明されなくても、感覚で分かる。
・段々と前向きになる主人公…つい、応援したくなる感じ。成長を感じやすかった。
などがある。
次から詳しく書いていきたい。
・音楽
透き通った声と力強い歌唱力がBelleの歌声にピッタリで、これは是非とも映画館の音響で聞いてほしい! 思わず、鳥肌が立つほど。声優と歌声が一緒な点もイメージが壊れなくて良かったと思った。また、少し変わった曲も癖になる魅力がある。帰ってすぐにYouTubeで検索した! リピート確実である。
・映像
Belleの衣装が次々と変わっていく様が見ていて楽しく、仮想世界の「U」と現実世界で映像の雰囲気が違うのも面白かった。キャラクターデザインも、主人公の内気な感じやBelleになった時の解放的な様子が分かりやすく描かれていた。キャラクターの表情は、例えば音がなくても心情が伝わって来るような…表現力の高さが良かった。
・仮想世界「U」
もう一つの世界という設定は条件なしに好きな世界観。仮想都市OZと違い、その機能性は詳しく説明されなかったが、様々なAsが行き交う様は想像力を掻き立てられた。作中の「現実世界はやり直せない。 Uの世界ではやり直せる」という言葉は、この世界に興味を持たせるのと同時に、主人公の未来を暗示するような意味もあったのだと思った。
・もう一人の自分「As」
アバターを自分で作成するのではなく、スキャンした生体情報が反映されるAs。だから、自分の個性が強く出るらしいが…自分が実際にやってみたらどんなキャラクターになるのか。すっごく気になる。是非やってみたい! と心踊った。見た目は写真を読み込むやり方らしいが…本人じゃなくても大丈夫なのかな? 最終的に正体がバレた後、問題にならないか…そこはちょっと心配してしまったが。
・ネットの善悪
ネットでは憶測でも様々な書き込みが寄せられる。そこには肯定的なもの、批判的なもの、さらには攻撃的なものもあり、一個人に止めることはできない。溢れるようなたくさんのコメントに主人公が戸惑う様や、励まされる様子。一度情報が拡散されたら取り消すことが難しい現状などが表現されていて、ネットの善し悪しが伝わってきやすかった。特に有象無象からのマイナス的な書き込みは怖かったが、音声がつくとさらに恐怖を感じた。
・段々と前向きになる主人公
幼い頃に母親を亡くし、塞ぎ込むようになってしまった主人公。理由が分かりやすかったし、共感もしやすかった。それが、Uの世界で歌えるようになり、段々と自信を取り戻していく様子は説明がなくても伝わってきたし、応援したくなった。最終的に現実世界でも行動を起こして問題を解決する様は、かつての母親を思い出させる展開だったと思う。母親の気持ちを理解し、避けていた父親との仲が修復されていくのは、見ていて泣きそうになった。初めと最後ではかなり差をつけて、精神的に成長していると思う。成長するテーマの見応えを感じた。
*気になった点
ストーリーについては様々な意見を聞くが、私が観たその時や後に違和感を覚えたものをピックアップしたい。
こちらも、箇条書きにしてみる。
・あり過ぎる様々なテーマ…「主人公の成長」一点に絞られていないので、分かりにくい。
・もう一人の歌姫…掘り下げがほぼ無かったので、残念。
・「U」にinしている時の謎…仮想世界に入りながら走れる…!?
・竜に惹かれる理由…突然だったけど、一目惚れ、ではないみたい…?
・東京まで一人で行った件…現実的にはありえない…?
・忍の謎…何故Belleの正体が分かった? 彼の「As」は?
などがある。
次から詳しく書いていきたい。
・あり過ぎる様々なテーマ
私はこの作品を「主人公の成長」がメインテーマになっていると思ったが、中には違うテーマがメインになっていると捉える方もいるかもしれない。何故なら、テーマと感じるところがざっと思い出すだけでも「親子愛」「恋愛と友情」「正義とは」「ネット社会の善悪」などと様々だからだ。確かに、現実世界では様々な横槍が入って、中々メインの物事だけに集中はできないと思う。そんなリアル感を出したかったのかもしれないが、これは物語だ。開き直って、もっと分かりやすくテーマを絞ってほしかった感じは否めない。個人的には友人の恋愛騒動などは必要なかった気がする。
・もう一人の歌姫
Belleが登場する前に歌姫として名を馳せていたであろうキャラクター、ペギースー。彼女が登場した時は「これは、重要なキャラクターでは?」と期待したが、ほとんど扱われることはなく…予想が外れたかと思ったが、終盤でBelleが正体を晒した際、一緒になって応援して「私と同じ普通の女の子じゃないか」みたいな発言をしていた。それが必要なシーンだったようだが、ペギースー自体が謎に包まれ過ぎていて、共感できず。もっと掘り下げてほしい! と思ってしまった。
・「U」にinしている時の謎
耳に特殊な機械をつけ、感覚共有しているような表現から、Uの世界にinしている間は、現実の情報は遮断されていると思っていた。しかし、Uの世界にinしているはずの主人公が走る走る。思わず「どうなってるの!?」とツッコミを入れたくなった。マルチディスプレイみたいになっているのかしら…最後までどんな感覚なのかは理解できなかったため、モヤッとした部分だ。
・竜に惹かれる理由
後半で主人公が竜に惹かれる過程が不可解。色んな方がコメントしている内容だが、私も「確かに…」と思ってしまうくらい、急展開だったと思う。初めは「まあ、恋は急展開だしな」と考えてあまり気にせずに観ていたが、終盤になって、竜と主人公の関係は「恋愛」ではないことが判明。「え、恋愛じゃないんかい!?」とこちらもツッコミを入れたくなった内容の一つだ。何故に主人公はあそこまで竜のことを気にしたのか…母親の死因に繋がっているのかもしれないが、それにしても何故、今、彼なのか。少し今までの主人公の行動や思考と相反している気がしてしまった。
・東京まで一人で行った件
こちらも、現実的じゃない。という意見をよく目にする内容だ。私も「何で周りの人はついて行かないんだ?」と思ったので、気になってしまった一人である。考えれば、主人公一人で行くことに意味があったという意見も分からなくはないが、途中まででもいいから…と思ってしまう。相手は虐待をしている大人の男性だ。普通に考えて出会したら主人公に勝ち目はないだろう。すぐ傍に救いの手がなければ危ないじゃないか。作中では、主人公の威圧感に相手は負けてしまったが、あまり納得はできなかった。見知らぬ小娘相手にあの怯え具合というのも不可解である。
・忍の謎
割と早い段階から主人公に「大丈夫か?」と声をかける忍。私が思うに、この辺りから彼はBelleの正体に気付いていたのではないかと思う。しかし、何故? どうやって? 幼なじみだから歌声から気付いた説も考えられるが、長年人前で歌えなかった主人公の歌声が分かるとは思えない。しかも、彼のAsは最後まで登場しなかった。彼はUをやっていない? でも、Belleの正体を知っていた? 謎は深まるばかりである。ちなみに「これからは見守らなくても大丈夫だな」みたいな彼の発言は、主人公を恋愛対象として見るという発言だと私は受け取った。彼らの今後が気になる。
*その他の感想
上記の二つにあてはまらなかった感想をいくつか、簡単に書いていく。
・ジャスティンみたいな(正義を盾にやり過ぎる)ヤツは嫌だ。この作品の中で一番苦手かも。いや、でもトモ&ケイの父親も中々に…うーん。でも、やっぱり一番は正義の味方()かなぁ。しつこかったので。ストーリー的には必要なキャラだったと思う。
・苦手といえば、個人的に、仮想世界なのをいいことに好き勝手言っていた有象無象も苦手ではあるが…まあ、それはネット社会の特徴として、分かりやすかったので、必要不可欠な演出ということで。
・他人を攻撃しまくっていた竜はこのまま許される感じなのだろうか…自分が傷付いていたから攻撃してしまった。の流れは分かるが、仮想世界では城を燃やされてetc.でおしまいになるのかな? 続きが気になる。
・アンベイルしてしまい、正体がバレてしまった主人公は今後どうなるんだろうか…平和な現実生活は送れない気がするのだけれど。こちらも続きが気になる。
・美女と野獣っぽい感じは確かに感じた。細田守監督風ディズニー作品という言葉も頷ける要素が多々あった。いい感じにオマージュできていると思った。
・主人公のAsの名前「Bell」(鈴)がいつの間にか、「e」を足して「Belle」(美しい)と呼ばれるようになっていた。みたいな設定は大好きだ。なので、私もこの記事では「Belle」表記を使うことにしたのだった。
などなど。
書き出すとキリがないが、一部でも同感して頂ける話があればいいと思う。
*さいごに
書き出してみると、良かった点よりも気になった点の方が多い気もするが、その数を上回る程に良かった点の一つ一つが素晴らしかったといえる。
こうした映画の感想をまとめるのは初めてだが、この作品を映画館で観ると、思わず感想をまとめたくなるくらいに良い作品だったということだろう。
普段は同じ作品を何度も観るタイプではないが、時間が許すのであれば、もう一度、映画館まで観に行きたいと思ったほどだ。
事前情報で気になり、映画を観る前から印象的だった「U」の音楽が、しばらく耳から離れないことだろう。
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