03 また出戻りですが面白かった
◆新しい病院
今日新しい病院にいき、明日から入院が決まった。今日の病院は、新しく大きく、壁にマティスの版画がたくさん飾ってあった。学校見学だったら、この学校に入りたい!と思ったかもしれない。
大きな病院だから、さすがにとても混んでいて、今日の予約が取れたのは、ひとえに検診→再検査→病気発覚!まで看てくれたK先生のおかげだなと改めて感謝!予約があっても結構長く待って、外来の先生に会った。たまたま夫の研修医時代の指導医が外来担当日だった。お久しぶりのご挨拶。しばし談話。
「その節は主人がお世話になりありがとうございました。」
と、患者の私が言っている。変だけれど、気持ちがほぐれてよかった。
ご意見を聞けば、K先生と同じく、すぐに入院して検査&治療をしっかりしましょう、ということ。幸いお部屋も取れてこちらの病院に決まり!
そのあと、採尿・採血・心電図レントゲン、と追加の検査をすませ、入院の説明を聞いて今日はおしまい。
はじめの病院で入院を一旦検討させてもらえて、ラッキーだった!K先生に電話をして「こちらに入院できることになりました!」と伝えたら「わー、よかったですねー!」と言ってくれた。ほんとにいい先生だな。
◆夫は妻の葬式の事ばかりを気にしている
ところで、入院騒ぎでバタバタしているこの数日、夫がやたらと私の葬式の話をするのである。我々は人に言われるほど仲良し夫婦であると思っていたが、
「私のこと心配?」ってセンチメンタルな気持ちの時に真面目に聞いたら、
「こないだ考えたんだけど~、もし死んじゃったら~、誰にまず連絡しようか?とか、この間の親戚の葬儀のことを思い出して、受付とか仕切りとか僕にはできないなって思って、やはり死なないでほしいなと思った」
とか、言ってくるわけよ!
「いや、死ぬ話じゃないから!」っていうと、
「人間はいつ死ぬかわからない」とか最もらしいことをいう。シリアスな話をしようと思ったのに笑っちゃった。
その後、また何時間か後に、お茶碗なんかを洗いながら、夫が
「何の曲を流してほしい?」って聞く。
(ん?なんの?)
「ラブ・アクチュアリーの時みたいに派手なお葬式にする?」って!
(注*“ラブ・アクチュアリー”は映画。二人のお気に入りで、ハートウォーミングでコミカルなストーリー。若くして妻を亡くした夫のリーアム・ニーソンが、妻のお葬式の場面で弔辞を述べ、ベイシティローラーズのバイバイ・ベイビーというにぎやかな曲を流す)
「また死ぬ話してんの!?(笑)」
「いや、最悪のケースを考えておいたほうが云云、、、」とかいって、二人で吹き出したりして、このネタはかなりうけた。
夫はたいてい、わたしが深刻になると、それが面白いみたいで、ぷっと吹き出したり、笑ったりする。どういうことかよくわからない。まあ、この時はそれで結構助かった。ナチュラルキラー細胞は笑うと活性化するから。
◆不安を希望に変えてくれたQuarant’ottoとの出会い
話は変わるが、実はこの数週間、ずっと行く先の見えない不安を感じていた。それは、病気のことより、生きている目標というか、なにかしたい!って気持ちがはっきり感じられなかったことがあったのだけど、その気持ちががらっと前向きに変わった事件がいくつかあった。
その初めの一つは、自分が欲しいジュエリーを初めて見つけたってことだった。私は、コスメも洋服もあまり興味がなく、もともとあまり物欲がないので、これはかなり珍しいこと!石は好きだったけれど、ジュエリーにはあまり興味がなかった。
その日、滅多に読まない古新聞を整理していたら、ふと、あるジュエリーデザイナーさんの記事が目に飛び込んできた。Quarant'ottoのデザイナー伏見愛佳さん。作品も記事もとっても心惹かれて「こんな風に仕事がしたい!」と思った。その人の作るリングを指にしている自分を思い浮かべると、とても元気がでてきたんである。
それは、ぱぁっと心に日が差したようだった。その気持ちを忘れまい!と、すぐに夫に連絡した。「退院したら一緒にこの店に買いに行って、ペアのリングを奮発して買おう!」と言った。
それはとても励みになった。仕事もできなくなるし、その日暮らしで暮らしてきてお金持ちでもない。でも、実際にそうならなくても、ただそう言っているだけで元気が出るぐらい、Quarant'ottoのジュエリーにあこがれてしまったのだった。
一つ一つに詩がついている素敵なジュエリーの画像を沢山ダウンロードして、待ち時間など、時間がある時によく眺めうっとりしていた。スマホの待ち受け画面に欲しいリングの写真を設定して、毎日見ていた。
からだとこころを楽にする仕事をしていたのに、自分の好きな仕事を好きにしていたのに、なにがどうしたというんだろう?なぜこんなに元気が出ないんだろう。こうなってみるとうっすらとそれが分ってきた。好きな仕事をして達成感もあって、生徒さんも喜んでくれていた。けれどいつの間にかわたしは「仕事をこなすこと」を優先してしまって、わたしの気持ちを犠牲にしていたところがあったのだ。
クアラントットのジュエリーを見つめていると、幸せな気持ちになった。わたしの好みの詩やストーリーが織り込まれている。デザイナーが自分の好きなことをしっかり見つめて貫いて、ゼロから作ったものは人の心にしっかりと届くということがわかった。
◆さて、話は戻って、また夫が!
数日後から入院することになり、今日、また出戻りである。
これからのスケジュールがやっと決まり、病院から帰るの地下鉄の中で、私のスマホの画像に目をとめた夫は、
「このリングね・・・」とつぶやいた。
(あら!?もう買うつもりになったのかしら?ほくほくほく(#^^#))と、期待したら
「ああ、いやだな、、、、棺桶にこのリング入れたりして、、、、生きてる間に買ってあげたらよかったです、とか言ってさ。。。。」
といいつつ目をこすっている!!?
「ああ、せつない。涙が出てきた。」
って、涙目になってるよ!!!!
おおおい!!また葬式かっ!?
それで二人で爆笑!
この発想はなかったな!逆の立場だとして、もし夫のお葬式の心配がわたしの心に浮かんだとしても、それを相手には口が裂けても言えない!って思うんだが!正直者だな!
そんなことで、また家に戻ってきましたとさ。なかなか入院まで行かない。
続く