箱の中の犬の話-中

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猫がニャーンと、どうやらこちらに向かって鳴いているようだ。何か文句でもあるのか、と思ったら、蓋が開いて、人間の手が入ってきてご飯を僕の前に置いた。そして僕の頭を撫でた。温かい手だった。犬は頭を撫でられるのが好きなのだ。手は消えたけれど、僕は嬉しかった。すると、不意に、スタっという音と共に何かが箱の中に降り立った。

ニャーン!大きな声で鳴く猫が間近にいた。猫は真っ暗闇の中にキラッと光る2つの目をこちらに一瞬向けたかと思ったら、僕のご飯の匂いをくんくん嗅いで、ぺろぺろ舐めた。

猫に向かって、僕は小さな声でワンと鳴いたが、猫は素知らぬ顔をして僕の餌から顔を離すと、狭い箱の中をスルスルと器用に向きを変えて行ったり来たりして、くんくん嗅ぎ回って調べている。

猫のふわふわの毛が魔法のように僕の鼻先に近づいては、少しも触れることなく過ぎてゆく。猫というのは体の柔らかな生き物だと、改めて気づいた。

ニャーン

もう一度猫が鳴いた。人間の足音がして猫の名前を呼びながらもう一度蓋を開けた。しかし、猫は外に出なかった。人間はそのまま蓋を閉めて行ってしまう。

猫はじっと僕の方を見ているようだ。箱の中は微かな猫の匂いと、ご飯の匂い。僕は猫に構わずご飯を食べ始めた。

ガツガツガツ

カリカリカリ

ガツガツガツ

カリカリカリ

僕がご飯を食べる音と一緒にカリカリカリって音がする。暗闇だから僕の目は見えないけれど、猫が動くたびに匂いがする。

ご飯を平らげた僕は、暗闇の中の猫の匂いに集中した。

カリカリカリ

ねこは爪研ぎをしているのかもしれない。そのうちその音が止んで、猫は僕の鼻先にごろんと横になってしまった。

猫は獣の匂いがあまりしない。けれど、僕のすぐそこに、晴れた日の布団の匂いがした。僕は人間の布団に登って昼寝をするのが好きだった。ほこりのような光のような、くたびれた人間のような、いろんな匂いを感じながら眠るのが。。。

つづく


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