十六夜月のためらい
「まだ、時間はあるぞ」
今から出てフェリーで渡れば昼には間に合う。食べて午後のフェリーで戻れば夜のフライトにも間に合う。
「でもあわただしくなりませんか」
「なにがあわただしいものか。ここまで来て食べずに帰るなんてことがあるかい?」
もともと最終日になる予定ではなかったのだ。昨日北海道北端の町、稚内に入った私たちは、昨日のうちに利尻のバフンウニを食べてくるはずだった。強風でフェリーが止まってしまって予定が狂ったのだ。今夜には東京へ帰らなければならない。なに、それだって行ってウニだけ食べて帰ってくるのなら十分間に合う。でも妻は島へ行ってから海が荒れたら戻れなくなると心配している。
「万一戻れなかったら飛行機を変更してもう一泊すればいい」
私がそう言うとさすがに妻は笑い出した。
「とにかく是が非でも利尻でウニを食うぞ。昨日から喉鼓が鳴りやまんのだから」
《了》
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