地球ゴマを知っていますか?
昭和の前半、一世を風靡した地球ゴマというおもちゃがあったのをご存知だろうか。
Wikipediaに簡単ではあるものの説明があるので貼っておく。
昭和50年代生まれのわたしにとって、地球ゴマはおそらく一番のブームが去ったあたりを生きてきた感じで、わたしはこれに一切触れることなく大人になった。こういう物が存在しているのは知っていたけれど、タイガー商会という会社がただ一社のみ、これを製造していたという事実は知らなかった。
上記のWikipedia にあるように、唯一この地球ゴマを製造していたタイガー商会は2015年に惜しまれながら廃業してしまった。のであるが、わたしはそのニュースさえも一切通らずに暮らしてきたため、地球ゴマがすでに製造されていないことを知らなかった。
ちなみに地球ゴマというのはタイガー商会が製造していた商品の名前で、一般にこういうもののことをジャイロスコープと呼ぶ。
わたしが地球ゴマに興味を持ったのはごく最近で、2023年の暮れぐらいである。わたしの好きな海外のASMRtist が、Gyroscope(ジャイロスコープ)を使ったASMRビデオを作っていた。それを見て、あ、これ地球ゴマじゃん、と思ったのだ。地球ゴマとても面白いじゃないか、と思ったわたしは早速購入すべくネットで探した。
そして、地球ゴマはタイガー商会というところが作っていたこと、その会社は2015年に無くなり、地球ゴマはもう製造されていないこと、地球ゴマのデッドストックはAmazon 等でプレミア価格で取引されていること、などを知った。
なんということだ。2015年の廃業時に2000円程度だったものが、現在はだいたい3000円~1万円ぐらいで販売されている。プレミア価格とはいえ元がそれほど高いものではなく、また新規製造されていないとはいえ世間には数多く流通されたものでもあり、無茶な値段ではない。もちろんわたしにも手が届く値段である。
が、わたしはそれを買うことはせず、さらに調査をつづけた。
そして、発見した。
タイガージャイロスコープという会社の「地球ジャイロ」。
2015年のニュース記事も引っ張ってこよう。
タイガー商会に勤めていた鳥居さんという方が、地球ゴマを絶やしたくないという思いから新たに会社を作り、しかも、ただの復刻版ではない、新たなジャイロスコープを開発するというのである。
ここまでの引用はすっ飛ばしてきた人も多いかもしれないが、次の引用だけは開いて読んでほしい。
読みましたか? この大変な熱量の文章。
タイガー商会は2015年に廃業し、鳥居さんはその直後にもう動き始めていて、2016年に上記の文章を出されている。そしてわたしはこのような熱い活動をされているこの方のことを、なにひとつ知らずに2023年末まで過ごしてきたのである。
鳥居さんがこの並みならぬ情熱を注いで完成させた全く新しいジャイロスコープは「地球ジャイロ」と名付けられ、販売された。途中2019年に価格改定を挟み、現在は22500円。タイガー商会の地球ゴマ最終型が2000円だったことを考えるとあまりにも高く、もはやおもちゃではない。
もちろん値段だけでなく、想いのこもり方といい、製造する職人の技術といい、どれ一つをとってもおもちゃなどであるはずはなく、これはもはや工芸品だと思う。
2023年末、この地球ジャイロの存在を知ったわたしは即購入すべくオンラインショップを覗いた。が、そこには衝撃の文言が。
なんということだ。2016年にスタートしたこの後継プロジェクトもすでに終了し、生産が終わってしまっている。在庫が売切れたら終わりなのである。
しかもわたしがアクセスした2023年末の時点では販売されておらず、「一時的に販売を停止している、2月に販売を再開する」と書いてあった。
明けて2024年1月。わたしはブラウザのホームにタイガージャイロスコープのページを設定し、毎日ショップを覗いては、販売再開を待った。でも待ちきれず、居てもたってもいられなくなり、ついに問い合わせフォームからメールを送信した。
タイガージャイロスコープの活動に感動したこと、地球ジャイロがすでに生産終了なのは惜しすぎると思うこと、継続されるのを切に願っていること、販売が再開されたら必ず買うということ、そして、本当に販売は再開されるのか、という確認を書いた。
そして鳥居さんご本人から返信をいただき、販売は再開されるので、再開したら連絡してくれる、と。
予告通り2月に入って鳥居さんからメールをいただいた。販売が再開された旨のお知らせと、地球ジャイロはほかのジャイロスコープよりもはるかに高いこと、Amazon 等で旧製品や海外の同種のものがずっと安く買えることなどが書いてあり、それをわかったうえで買ってね、と念を押されていた。
もちろん承知の上。プレミア価格のついたタイガー商会のもののさらに二倍以上の値段がついているが、一目見て違いは歴然である。地球ゴマは精巧ではあるもののあくまでおもちゃであった。地球ジャイロは工芸品であり、ほとんど美術品である。高かろうと関係ない。わたしは断然これを手元に置きたいのであると自分でも引くほど熱いメールを返信し、即購入した。
公式でも地球ジャイロの動画は出ているけれど、わたしが購入したものを動画にしたのでそれを紹介したい。これはショート版。
フルはこちら。
これは世界で最も美しいジャイロスコープだと言っても過言ではないだろう。円盤と外周の間にほとんど隙間がなく、恐ろしいほどの精度で組まれている。ほとんど遊びが無いのに回転に抵抗感もなく、ものすごくスムーズに回る。
磨き上げられたステンレスの肌は鏡のようで、つやのある部分とない部分のコントラストも見事である。手に取って眺めるだけで惚れ惚れする。
重ね重ね、これがもう製造されていないのかと思うと残念でならない。想いを引き継いで地球ジャイロを生み出した鳥居さんもすでに60歳を過ぎ、きっと後継者がいないのであろう。
これを継続するためにクラウドファンディングをするなどがあれば喜んで協力するのだが、現状そういう計画もなく、在庫を売ったら終わりという終息段階でひっそりと息をしているといった感じである。
この記事を書いている時点では、まだ在庫がある。
手にしてみて改めて感じるが、こんなすごいものをそんなに量産はできないだろうから、おそらく在庫と言ってもそんなに何百個もあるわけではなかろう。世界に誇るべき日本の工芸品を手にする最後のチャンスかもしれない。
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