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朔 旅の始まる場所

 行こう、東京。私はおじさんの言葉に力をもらい、決意した。

 私の家は北海道の洞爺湖の近くで民宿を営んでいる。そこへ毎年やってくる常連のおじさんが東京の話をしてくれる。都会の暮らし。その甘美な魅力が私を酔わせる。卒業したら何も無いこの町を出て東京で暮らしたいと話す私に、おじさんは言った。

「それならその前に一度東京旅行をするといい。暮らすかどうか決めるのはそのあとでも遅くないだろう。おじさんはね、なんだってありそうな東京に無いものを求めて毎年ここへ来ているんだよ。外から見てみると、なにもないと思っていたところに本当はなにがあったのか、見えてくる」

 その言葉でやはり行くしかないと弥立ち、この夏私は東京へ行く。旅の計画、飛行機の手配、宿の手配。知らないことばかり。計画の段階だけでもたくさんのことを学んだ。

 初めての一人旅。見たことのないものを見る旅。見落としていたものを見る、旅だ。

《了》

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涼雨 零音
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