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立待月に添える花

 北海道はひし形をしているイメージがあって、その下の突端にある襟裳岬は北海道最南端のような気がしていた。でも考えてみるとひし形ではなく、向かって左には足がついている。だから北海道の最南端は松前半島にある。

 そんな勘違いはさておき、僕は今、白み始めたまだ薄暗い空の下で水平線を眺めている。強い風が吹いていて肌寒い。新千歳に降りて道央をめぐる旅の最終地点に襟裳を選んだ。最南端だと思っていたのに特になんでもなかった。そういえば、襟裳の春はなにもない春だ、と歌われていたのだった。ここにはただ、風が猛烈に吹き抜けているだけだ。

 旅の終わりになにもないのは寂しい気がして、一つ色節を添えるべく、襟裳から日の出を拝むことにしたのだ。

 水平線に太陽がわずかに顔を出すと、海は一瞬にして沸き立ったかのように煌き、まばゆさに我を忘れた。

 なにもなくなんかない。襟裳には視界を焼き尽くすような日の出が、ある。

《了》

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涼雨 零音
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