何が出るかなDVD棚 - DVD棚探索
X のSpaces で(って言うとイーロンがロケット打ち上げてる会社みたいだが)ぬくいごはんさん がホストされていたところに入ってみたところ、「DVD棚見たい」という話になり、自分でももはや何があるのかよくわかっていない状態のため、棚卸してみることにした。
なお、本棚は以前何回かにわたってnote にしている。
話しながら、そもそも何枚ぐらいあるのかも自分でよくわかっておらず、最後にディスクを買ったのはたぶん2015年に発売されたserial experiments lain のBD BOX。10年近く手つかずの状態で放置されている棚を、掃除も兼ねてひっくり返してみることにする。
全景
まずは全体図。DVDコーナーはなんと、玄関にある。玄関にある作り付けの棚、最上段(家族で僕しか届かない)に、きわめてテキトーに押し込んである。
当然埃だらけであり、さらに、一部蜘蛛の巣が張られているなど、ほとんど廃墟であった。これを掃除しながら棚卸していく。始める前から「やめよっかな」という気分になったのだが、やはり誰かと「やりますね」と約束していると心が強い。いっちょやりますか、という気分になるのであった。
ウルトラマン
まず、結構まとまった数であるのがウルトラマンシリーズ。
まずはウルトラQとウルトラマン。この二作はどちらも初回限定版として販売されたもので、ケースの形状が異なる。たぶんどちらの作品も、今はHDリマスターされたものが販売されており、これより画質の良いものが手に入るはず。このDVDはSDサイズなので今の再生環境(BDプレイヤー+FHD以上のテレビ)で見るとかなり古臭い映像に見える。
ウルトラセブンは初回限定版が手に入らなかったので通常版で購入した。作品としてはこれが一番好きであり、当時は初回盤が買えなかったことをけっこう悔やんでいた。なお、セブンも近年4Kにリマスターされたものが出たはずなので、今出ているやつのほうがはるかに画質が良い。
左の箱はウルトラマンメビウスの映画の初回限定版。この映画は主題歌を氷川きよしが「KIYOSHI」という、なんとかジャパンのドラマーと見間違うような名前で歌っている。最高にスーパーヒーローな歌である。
ウルトラマンメビウスはウルトラマン40周年の記念に作られた作品で、昭和のウルトラシリーズとリンクしている部分が多く、往年のファンのハートをつかんだ。そのため、この時期いろんな、おっさん向けのアイテムが発売されたのである。それが右側のものたち。こちらはウルトラシリーズの制作裏話を当時のスタッフに聞きに行ったり、超マニアックな解説をしたりする、どう考えても一般向けではない内容のものたち。おそらくどれもあっという間に絶版になったのではなかろうか。「ウルトラの揺り籠」は当時の話を当時の人達に聞きに行く体裁のドキュメンタリーだが、登場する人の幾人かはもう鬼籍に入られている。こういうものは買えるときに買っておかないと見る機会が無くなるかもしれない。
バラエティ
所さんの世田谷ベース、のDVDボックス。こんなのがボックスセットとして販売されるのってすごいですね。これはたしか深夜番組としてやってた、かなりゆるいノリの番組。所さんが自宅から発信しているようなコンテンツ。緩く面白いし、日々を楽しむヒントが満載。しょーもないこと、意味のないことを全力でやると楽しい、というお手本。
アニメ(雑多)
アニメはいくつかにわけて紹介する。まずは雑多なものたち。特にメチャクチャ好きというわけでもないのになぜか買ったというものが多い。
まず一番よくわからないのがこれ。「しゅごキャラ!」はプリキュアの亜種みたいな作品で、プリキュアの裏番組的な位置で放送されていたような気がする。なぜか妙にこれが好きで、DVDボックスを買った。なんと全28枚もある。しかしこれ、買ってから開けた記憶がない。まったく見ておらず、なんで買おうと思ったのかもよくわからない。買うほどのことはなかったんではないか、といまだに思う。
そして1巻しかない「もやしもん」。これははっきり覚えている。1巻の初回盤のおまけとして、主人公キャラのオリゼー(細菌みたいなやつ)のしゃべるぬいぐるみが付いていたのである。そのぬいぐるみ欲しさに買った。作品も好きだったがこの時は理性があり、DVDを買っても見ないだろう(実際この1巻も見てない)ということで買わなかった。おまけ目当てで買うという邪道な買い方をした僕のようなのがおそらく他にもいるので、この作品は1巻だけ売り上げが多かったのではあるまいか。(多くのアニメ作品は1巻の売り上げが一番大きくなりがち)
だいぶ色あせているけれど、これは不条理アニメの傑作。このDVDの1巻が発売されたとき、そのジャケットのイラストを見て「なんだこれは!」と思ってジャケ買い。そこから新しいのが出るたびに買った。途中のどこかの巻のおまけとしてこの箱がついていて、全部揃えるとこのようにあたかもBOXセットであったかのような体裁になる、という売り方だった。
なお、僕がジャケ買いしたイラストはこれ↓。 これ、映画好きな人なら気にならずにいられんでしょう。ターミネーターの一作目のパロディなんですね。
これも箱の色褪せがヤバい。中身出してみたら中は綺麗でした。「ポピーザぱフォーマー」。CGアニメのかなり初期のころの作品で、この作品は効果音と音楽しかなく、セリフが一切ない。その状態でアホみたいなギャグをやるのだが、それがもう捧腹絶倒。ゲラゲラ笑いながら見た。2000年代の初頭ぐらいにケーブルテレビかなんかで見ていた作品が、だいぶ後になって限定版ボックスとして販売されたので購入した。
これはプリキュアシリーズの二作目、MaxHeart の劇場版二本。この二本目、「ふたりはプリキュアMaxHeart2 雪空のともだち」という作品はぶっちぎりの名作で、歴代プリキュア中最高傑作と言っても過言ではないと思う。一作目はそれと比較すると残念ながらごく普通のプリキュア映画。最近のものみたいに歴代のがいろいろ出てきたりしない(この時点ではプリキュアはこの人たちしか存在しなかったから)のが良い。MaxHeart2 はプリキュアに全然興味が無い人にもお勧めしたいほどの傑作映画です。
こんだけDVDあるのにジブリ作品が2枚しかなく、それがこの2作というのがなんとも僕らしいというか、この事実だけでもだいぶいろんなことがバレる気がする。
ちなみに、ジブリ作品で一番好きなのは「千と千尋の神隠し」と答えているのに、千と千尋は持っておらず、あるのは豚のみ。
そして極めてマニアックなこれ。これはCGでセルアニメっぽいのをやったかなり初期の作品。アニメをCGで描くことには賛否両論あり、この時代にはほぼ否定意見しかなかった。これはそういう時代の作品だけれど、作品のテーマ性と意欲的かつ違和感のある映像を結び付けてうまいところへ着地させた作品で、それなりに面白いと思う。ただ、作品的に全く評価されておらず、歴史からもほとんど黙殺されているのでかなりのアニメオタクの人でもこの作品は知らない人が多い印象。ましてDVDを持ってる人には今まで会ったことがない。
実写映画(雑多)
いろんな映画系。この辺は無秩序な感じでカオス。どれもなんらかの要素が好きな作品ではあるけれど、あまり共通点が無い。
「アジャストメント」はディック原作、マット・デイモンの映画。「ウィークエンド」はゴダール、「博士の~」がキューブリック。「フォーンブース」と「CUBE」は専門学校で映像演出の授業を担当していた際に、学生に演出の説明をする教材として買ったもの。
ワイスピのアイスブレイクはド派手に面白くて息子が配信される前に欲しがったので購入。「シャイニング」は再びキューブリックですね。キューブリック作品もまとめてもよかったぐらいあるな…。
「スタートレック」は新しい方のやつ。加藤茶にしか見えないクリス・パインがカーク船長の役をやってるやつですね。
そして混ざった「ガンダムユニコーン」。ユニコーンもなぜか1巻しかない。これは他の巻も買っても良いかなと思う。
続いてこちら。「アイズ~」と「2001年~」がキューブリック。「マイノリティ~」はスピルバーグでディック原作ですね。ディック原作もまとめられるぐらいあるな…。
「レオン」はジャン・レノと言えばこれ、な作品。「十二人の怒れる男」はこれまた演出の授業で説明するために教材として買った作品。これは映像を学ぶ人は必見。絶対に見るべき作品です。
「トータル・リコール」はシュワちゃん版。これもディック原作。その隣「スキャナー・ダークリー」はキアヌで、実写をアニメみたいにした作品。これもディック原作。
「ゴッドファーザー」は1本に見えるけどこれに三部作全部入ってる。値段も1枚分ぐらいの爆安だったので衝動買いした。ゴッドファーザーはもちろん何度も見ているのだが、何度見ても1,2と3の間が空きすぎだと思う。
「ブレインストーム」はともするとB級SF。ネタは新しいけれどそれ以外なにもかも古い。「インディージョーンズ」は一作目で、昔は「レイダース」というタイトルで販売されていたもの。これも演出の授業用のネタですね。「フィフス・エレメント」は定番というか、ある領域の人が必ず持ってる気がする。初対面でいきなり話が合ったりすると、「もしかしてフィフスエレメントのDVD持ってる?」「持ってる持ってる!」みたいな話になりがち。
でもって「トランスフォーマー」の1作目。これも演出ネタですね。マイケル・ベイは演出うますぎなんで、エンターテイメント映像を作る人は研究したほうが良いと思う。このトランスフォーマー1作目は最初の10分の演出が見事すぎる。
左の二つは個人作家によるCGアニメーション作品。新海さんが登場した後、CGを使って個人で作品を作る作家が続々と出てきた。その後新海さんだけが爆発的にブレイクしてしまい、別世界に行ってしまったが。
「パプリカ」は小説で僕の人生を大きく狂わせた筒井康隆翁の原作をアニメ化した映画。パプリカは小説で呼んで衝撃を受けていた作品だったので、アニメ化の話を聞いたとき、無理じゃね?と思った。しかしそれをとんでもないレベルで結実させてきたのがこれ。これはアニメ好きな人は必見。
「不思議の国のアリス」はなんとすでにパブリックドメイン(著作権失効済)なので超廉価DVDが販売されている。この時代のディズニー作品はアニメーションとして大変なことになっているので見ておいた方が良く、かつ、パブリックドメインのため激安で買えるので好きな作品をどれか一つ持っておくと良さげ。500円あれば買えると思う。
「男はつらいよ」は1作目。なぜか1作目だけ持っている。全部買おうと思ったんだが多すぎて諦めた、という経緯がある。
「七人の侍」は演出の授業資料。暗いシーンをどうやって撮影したのか、という話を中心に、CGを学ぶ人にライティングを教えつつ演出を教えるという感じの授業をしていた。映画において暗いシーンは「ライトを減らす」のではなく「暗く見えるようにライティングする」という方法で撮影される。明るくないとフィルムに映らない、しかし暗いシーンに見える必要がある、という状況を、今よりも感度の低いカメラ、フィルムしかない時代にどうやって撮影したのか。このノウハウは、撮影機材がはるかに向上した今でも大いに役に立つ。
「マルホランド・ドライブ」は難解映画の代表格。監督は鬼才デヴィッド・リンチ。わけのわからない映画だが、わからなくていい。わからないこ とを楽しみつつ、何度も見るたび全然違うものに見え、結局わからない。
「シン・シティ」はとにかくかっこいい映像。超ハイコントラスト。これも演出の授業ネタだけれど、これは映画というよりはイラストを動画にしたもの、といったイメージ。
「見知らぬ乗客」はヒッチコック監督のあまり有名じゃない作品。ゾワっと怖いある種のホラーで、ヒッチコック監督らしいけれど作家性がバリバリ前面に出てくる前の作品。
「ネクスト」はニコラス・ケイジでディック原作。これはディック原作の映画の中で、もっとも原作と異なる作品。まぁ端的に言って、ディック原作だと言われてもにわかには信じられないぐらい違う。元はディックの「ゴールデンマン」という短編なんだが、共通点は「少し先の未来がわかる主人公」という要素のみ。それ以外は実に全部違う。原作改変があれこれ話題になるたび、僕は「みんなネクストを見てみろ」と思っている。
「コンスタンティン」はキアヌの悪魔もの。この映画はとにかくかっこいい。英語でいうCoolなかっこよさ。ストーリーよりも世界観を見たくてDVDを買ったような感覚。
「ヴィジット」は劇場で見て病気になった作品。天下のシャマラン監督。不快指数Maxの悪夢みたいなホラー映画。全編悪夢だが、やけくそみたいなエンドロールが付いていてそこだけ笑う。
映画 特に好きなやつ系
ここからは好きなもの系。もちろんここまでに出てきたものも好きだし、好きだから買っているのだが、ここからは棚の中でも特等席みたいなところに置きたくなるもの。
まずはデンマークの鬼才、ラース・フォン・トリアー。後味が最悪な作品ばかり作る胸糞映画監督。左のは初期三部作みたいなセット売りのもの。「奇跡の海」はひたすら美しい映画で、美しい心の持ち主がひたすらひどい目に合う作品。トリアー作品の定番として、清く正しくまっすぐな人物が酷い目に合い、酷い目に合いながらもひたむきに頑張るけれど、それが報われたりなどはまったくせず、酷い目に合い続けた挙句思いつく限り最悪の結末を迎える、という流れがある。普通のフィクションは、清く正しいことはいつか報われるという描き方をする。しかしトリアーは「そんなことはない」と突きつけてくる。そう。これが、現実だからだ。トリアー作品を見るとこの世が地獄に思えてくるが、自分の身の回りを見るとそこまでひどくもなく、これに比べればまだましだ、と思ってひとまず生きてみようと思える。
まだ持っていない作品がいろいろあるけれど、どれも素晴らしい。
これは映画ではなく、ビョークのMV集。実はこのほかにもいろんなアーティストのライブのDVDなどいろいろ持っているのだが、それはCDと一緒にしまってあり、今回はDVDとしてMVはこれのみ。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」からのつながりでビョーク。
「ブレードランナー」。右は最終版のDVD、左は過去に販売されたいろんなバージョンが全部入ったBDボックス。なんかおまけで空飛ぶパトカーの模型が付いている。限定版のはず。この作品も、映像の仕事をしたいと思う人は絶対に見なければならない作品。今さらここから学ぶようなことはあまりないかも知れない(あらゆる表現が真似しつくされていてもはや古い)が、これを知らないと言うと「信じられない」という顔をされるのでもはや教養として知っておいた方が良い。音楽をやるのにベートーベンを知らないぐらい呆れられる。
出し忘れたスターウォーズと、一番好きなマトリックス。僕はかなりの量で映画を見ていて、映画のコラムを書く仕事もしているため、映画好きと認識されがち。すると「一番好きな映画はなんですか」という質問をけっこう受ける。そんなとき、どうもマニアックなよくわからない作品をこたえなければならない、みたいな風潮があり、僕はそういう空気がクソったれだと思うので、あえてドメジャーの「The Matrix」と答えている。後述するが、圧倒的すぎる例外を除き、本当に一番好きな作品は「The Matrix」である。マトリックスシリーズの一作目。一作目のみが名作で、あとはどうでもいい。この右側のセットはアルティメットと言っているだけあり、発売当時に存在していたほとんどすべての関連映像をぶち込んだ全部入りセットである。これはなんかい見たかわからないぐらい見た。なお、マトリックス一作目も演出の授業でネタとして使用した。モーフィアスとネオが対面するまでの部分の運び方が秀逸であり、教科書的に素晴らしい内容だと思う。
タルコフスキーコーナー、のはずがなぜか混入した「未来世紀ブラジル」。一番右のブラジルだけテリー・ギリアム監督。それ以外はアンドレイ・タルコフスキー監督である。
「惑星ソラリス」は本棚紹介でも出てきたスタニスワフ・レム原作の映画化。レム本人はこの映画をまったく気に入っておらず、タルコフスキーとも絶縁状態になったらしい。たしかにラストがひどすぎるのだが、その手前まではなかなか良い。未来都市として「当時のただの東京」が使われているのも面白い。
「サクリファイス」は「僕が思う最強のカット1」として演出の授業で見せていた。このカット1はヤバすぎる。映像をやらない人には何がすごいのかわからないかもしれないが、映像をやる人はぜひ見てカット1のヤバさに震えていただきたい。これを見て震えない人は作り手の視点が欠けているため、映像を見て「どうやって撮ったのか」を想像する癖をつけたほうが良い。少なくともそれができないまま映像クリエイターにはなれまい。
映像は通常、実時間を圧縮して見せる。たとえば上映時間が2時間の映画で、劇中時間も2時間しか流れない映画というのは珍しく、ほとんどは上映時間よりも長い時間が圧縮されている。ところがタルコフスキーの映画は実時間よりも伸長されているようなシーンが登場する。スローモーションではないのに、明らかに時間の流れが遅くなる。この特異な表現が病みつきになり、ともするとものすごく退屈な映画ばかりなのだが、無性に見たくなる。
serial experiments lain
単独で項目を設けるべき作品、「serial experiments lain」。お分かりかもしれないが、僕のペンネーム、涼雨零音 はこの作品から取っている。これの主人公は岩倉 玲音で、この作品を見てから、僕は何らかの活動をするときのアーティストネームやHNなどにRainあるいはLainというワードを入れるようになった。
右は先に入手していた廉価版のDVDセット。左は数年前に販売されたBDセット。この作品が僕に与えた影響は計り知れない。おそらく映像を作るきっかけになったのもこれだし、映像を仕事にしようと思うきっかけになったんも、根源的にはこれだと思う。
押井守
ラスト、僕の人生を狂わせた二大巨頭の一人、押井守。なおもう一人は小説家の筒井康隆で、本棚の方で大変なことになっているのを紹介済。
一番左のは実写映画を集めたボックスセット。シュールなギャグにまみれた作品が多い。「トーキング・ヘッド」はそのオーディオコメンタリーとともに僕の人生を大きく狂わせた。この作品で数学者のゲーデルを知り、不完全性定理を学ぶことになり、GEB(「ゲーデル・エッシャー・バッハ」)という書籍の存在も知った。極端な話、僕は「トーキング・ヘッド」を見ていなかったら、今全然違う人生を歩んでいたかもしれない。
その次の箱は「御先祖様万々歳!」のボックス。この作品押井守の最高傑作かもしれず、本人も他の自作は見ないけれど、これだけは時々出してきて見ては笑っている、とおっしゃっていた。限られた予算内でどうやって面白いものを作るか。その工夫が隅々まで行き渡り、必然として誰も見たことがないような演出に着地している。何でこんなことを思いついたのか、と言えば、予算がなかったから、と。不条理にまみれ、冗談なのか本気なのかわからないようなメッセージとともに描かれるわけのわからない話。最高である。
そして「うる星やつら」の二作。二作目の「ビューティフル・ドリーマー」が氏の出世作であり、その前の「オンリー・ユー」は本人をして「でかいだけのテレビ」とのこと。この言葉を踏まえて二つの作品を見比べると、「映画とはなにか」ということが垣間見える。これは僕が小説を書くとき、「小説とは何か」を模索するのに大きなヒントをくれた。
「ダロス」は最初のOVAと言われている作品。販売形態まで新しい試みをしている。この作品はマニアックだが作画レベルが大変なことになっていて、手書きアニメとしてものすごく見ごたえがある。
「トワイライトQ」はオムニバスのビデオ作品で、押井守はここに「迷宮物件」という作品を提供している。これが僕には思いっきりツボで、押井作品でトップレベルに好きな作品である。
「天使のたまご」は究極。アルティメット作画アニメ。プロデューサーはかの鈴木敏夫で、鈴木敏夫は「押井守に天使のたまごを作らせたことが僕の一番の失敗」と語っている。この作品がコケたことで押井守は業界から干されたという事実があるものの、今日、この作品が世に存在していることの価値を思えば鈴木敏夫の功績は巨大すぎる。商業的には失敗だったかもしれないが、紛れもなく日本のアニメ史にこれがあることには計り知れない価値がある。見たことがない人はぜひ見てほしい。(いわゆる面白い作品ではないのでそこは悪しからずご了承いただきたい)
で、並びでは次が「イノセンス」。とばした途中の作品は後述するのでいったん「イノセンス」で。DVDでわけわからないほど見まくり、BDが発売されたので購入して、またわけわからないほど見た。僕が本当に一番好きな映画はこの「イノセンス」。ただ、これは補足説明をしないとわかってもらえないことが多いため、一般にはマトリックスと答えるようにしている。
イノセンスDVD、イノセンスBDの次にあるのは「イノセンスの情景」という作品。これは「イノセンス」の背景美術だけを取り出し、イノセンスの劇中音楽と合わせて映像作品にした、というイメージビデオみたいな作品。こういう作品が作られることは極めて珍しく、この作品も絶版なので今や見ることができないわけだが、これは実に素晴らしい試みであったと思う。日本のアニメの背景はとても美しいものが多く、それだけ取り出して美術館で作品展ができるぐらいである。そんな美術作品を音楽とともに映像として見せるというのは、芸術作品として相当に見ごたえのあるものになるのである。しかしなぜかというか、ある意味当然というか、そんなものは売れないわけだ。僕はほかのアニメ作品でもこういう物を出してほしいと思うのだけれど、おそらくほとんど期待できないだろう。
次の「めざめの方舟」は2005年に行われた愛・地球博のパビリオン用に、押井守監督が制作した特殊な映像作品である。専用の設備で上映されることを前提に作られた作品なので、DVDに収録しても本来の状態では見られない。見られないのだがやはりこれが販売されたことは嬉しかった。パビリオンそのものの準備も含めたメイキング映像と完成映像が収録されており、制作の記録としても貴重なものになっている。当然ながら現在絶版。
その次は「アヴァロン」。わかりにくいけれど3つに見えるものが1つの箱に入っていて、作品としては実写映画の「アヴァロン」という作品である。これはポーランドで撮影し、現地の俳優が出演している実写映画。きわめてアニメっぽい作り方で実写映画を撮るということを試みていて、独特の色合いと世界観に仕上がっている。派手なメカが登場するが映画としては派手な映画ではなく、あまり取り沙汰されない。しかし僕はかなり好きで、何度も繰り返し見た作品。
その次の「人狼」は実は押井守作品ではなく、押井さんは原案を提供している。監督はレジェンドアニメーターの沖浦啓之さん。この作品は最後のアナログアニメ作品と言われている。紙で作画し、トレスマシンでセルに転写し、絵具で着彩し、撮影台で撮影した最後の作品とされている。とんでもないレベルの作画アニメで、沖浦氏とそのチームの持つ技術の高さに舌を巻く。よく神作画などという言葉が飛び交ったりするが、この作品を見ると神のレベルが三段階ぐらい更新される。アニメーションにできないことなどない、という迫力がみなぎっている。
最後、「KILLERS」はモデルガンの雑誌の企画で行われたオムニバスもの。銃器が出てくる映画を決まった予算内で作る、という条件でいろんな映画監督が挑戦した作品を集めたもの。押井守はここに超変化球な作品を出していて、本当に唸らされる。与えられた予算を何に使うのか。その視点そのものが普通ではない。オムニバス全作品中でも圧倒的に面白く、僕は最初一回全作品を見たあと、押井守の作品しか見ていない。
さて、一つ上の写真で間の抜けていた部分に入るべき作品たち。これは特殊な「Limited Edition」というシリーズで三作持っている。左からパトレイバーの一作目と二作目。一番右は攻殻機動隊の最初の映画作品である。パトレイバーの劇場一作目は僕が押井守という存在を知るきっかけになった作品。中学校の夏休みにWOWOWで放映されたこれを見た僕は、パトレイバーという作品の認識を大きく改めることになった。パトレイバーはロボットアニメだと思っていたのだが、劇場版一作目は紛れもなく映画であった。同じとき、WOWOWでパトレイバーのOVAも放映された。このOVAもテレビアニメとしてやっていたパトレイバーとは全く異なっており、映画の印象を引き継いだものだった。テレビのパトレイバーに全然魅力を感じていなかった僕は、このWOWOWで放映された作品群に惹かれ、なにが違うのだろうかとあれこれ考え、調べたりした。その結果、僕が好きな作品はすべて押井守監督であることが判明し、僕は彼の名前を意識するようになった。
そこからはもう転がる岩である。押井守を知ってしまった僕はもう知らない頃に戻ることはできず、そのままどっぷりと彼の作家性に魅了されていく。高校に入って進路を考えるとき、僕は9割ぐらいバンドマンになることを決めていたが、わずかに、アニメの仕事をしてみたいとも思った。しかし高校生になるまでいっさい絵など描いたこともなく、ずっと楽器に明け暮れているような人間にアニメの仕事などできるはずはないと考え、そのまま音楽の道へ進んだ。
それが30歳でアニメの世界へ入り、30代、40代とアニメの仕事に携わることになるなど、まったく人生というものはなにが起こるかわからないものだ。
ラストはこの二つ。どちらも初回限定版。「立喰師列伝」はハチャメチャに面白いと思うのだが、劇場公開時に札幌の映画館で、僕は初日、中日、最終日と三回見に行き、三回とも客が僕一人だった。さらに、自宅に遊びに来た会社の先輩に見せたところ、ゲラゲラ笑いながら見ている僕の横で「ごめん、なにが面白いのか全然わからないよ」と言われてしまった。
そうなのか。これの面白さはそんなにニッチなのか。
僕が押井守から学んだもっとも重要なことは、自分が面白いと思うものを信じて作るということかもしれない。それによって業界から干されようと、やはり作りたいものこそが作るべきものであり、その結果を引き受けるしかない。物を作るとはそういうことなのだ、と。
DVD棚を晒すnote 書きますね、と軽く言ったのはいいものの、まさか1万字を超える大作になるとは思いもしなかった。こんなになると読むだけでも30分ぐらいかかるのではあるまいか。
これと本棚編を見ていただくとわかるように、僕はほとんど筒井康隆と押井守で構成されているのであろう。だいぶアブナイことになっている気がするが致し方ない。是非皆さんも、自分のDVD棚をほじくり返してnote 書いてみてください。
いただいたサポートはお茶代にしたり、他の人のサポートに回したりします。