発達障害を受け入れて(5)
睡眠の悩み
娘は生まれてすぐから、夜になると起きて朝になると寝た。
産科を退院するまで、夜になると起きて泣く娘を抱いて病院の廊下をうろうろしなければならず、早く家に帰りたいと思っていた。
病室にいると他の患者さんが眠れず、迷惑になるからだった。
家に戻ってもそれは治らず、夜になって電気を消すと泣く。
明るくしていればずっと起きているし、起きていればお腹がすいて泣く。
夫は仕事に行かなければならないから、夜になると寝てしまう。
私は明るくなるまで娘の世話をして、朝になって娘が寝ると夫の支度をして洗濯や掃除をしているうちにまた娘はお腹がすいて泣きだす。
昼間に娘が寝ているうちに少しでも寝られるといいのだけれど、娘はけっこう神経質で音や振動などですぐに起きてしまった。私は眠る時間がほとんどなくて睡眠不足になった。
親や医師・看護師などから、「お腹に子供がいるときにお母さん(私)が夜遅くまで起きている生活をしていたから、子供の体内時間が狂ってしまったのだ」と、同じことを言われてげんなりした。私は健康のことを考えて早く寝ていたのに。
抱き癖をつけてしまったから抱いていないと泣くようになっただけだ、自業自得だと言われた。
「夜になったら電気を消してどんなに泣いても知らんふりして寝てしまえば子供もそういうものだと思って寝るようになる」とたくさんの人から助言されたが、それもうまくいかなかった。
娘は夜になると眠らず、電気を消すとしゃくりあげて息も絶え絶えになって泣いていた。
それは2歳くらいまで続いて、夜だから寝るということを憶えさせるためにいろいろ試したのだが、夜中に大声で泣いたり叫んだりするとアパートの住人に迷惑なので、やはり眠くなるまで一緒に起きているよりなかった。
幼稚園に行くようになるまでには、朝起きて夜に寝る生活にしなければと思っていた。
昼間に疲れさせるために体を使う遊びをしたり、公園へ連れて行ったり、夜は静かに絵本を読む。何冊読んでも眠らなかった。
実家へ帰ってもそうなので、親にもきょうだいにも注意された。ママ友にも聞いてみた。保健師さんにも指導を仰いだが、どうすることもできなかった。
娘は高校生くらいまでは夜型で、朝、学校へ行くために起こすことが本当に大変だった。あまりに遅くまで寝ないので高校2年の頃、睡眠障害を疑った。病院で診てもらわないかと言ってみたが、娘に拒否された。どうして眠らないのか尋ねると「夜中に友達や後輩からメールが来るからそれに返信してあげないと自殺してしまうかもしれない」などと物騒なことを言う。
当時住んでいた街では中学でも高校でもいじめが大流行で、いじめで学校へ行けなくなった子供が転校する学校まで用意されていた(大人がきちんと対処しないせいだと思ったが、その話はここでは関係がないので省くことにする)。
友達の自殺を食い止めるために夜中にメールや電話で相手をするというのは、一見いいことのように思われるが(私には)相手が見えないので本気度がわからず(本当なら学校に相談したいところだったが、話してくれないので)、娘が眠らな過ぎて事故に遭ったりするのではと心配だった。
大学生になると講義がない日は1日中寝るようになり、疲れているのかと思っていたが、今度は起きないので困った。
大学は一講目がない日もあれば昼からの日もある。同じ時間に起こせばいいというわけにはいかない。時に講義の時間を間違えて、授業を欠席したりした。
朝、家族と同じ時間に起きて講義が始まるまでになにかするといいのでは、と思ったのだが、早く起こすと二度寝してしまう。
だったら時間割を教えてくれ、と言ったら、教授の都合で授業変更になるので、毎日変わるから教えられないと言われた。実は本人も掲示板を見てくるのを忘れて帰ってきて、友達から「授業が始まっているけど……」と連絡がくることもあったようだ。
朝の食事はたいてい作っても捨てた。起きないし、やっと起きても授業に間に合わないから食べないのだ。娘の朝食が私の昼食になった。
試しにどれだけ眠るのか試したことがあるのだが、飲まず食わずで
24時間以上起きなかったので、さすがに起こして水分を採らせた。
就職して離れて暮らすことになったとき、心配しないわけではなかった。でも、社会人になるという気合で朝起きられるようにするのではないかと信じて送り出した。はじめの頃はモーニングコールをしていたが、毎朝きちんと起きていることが確認できたので過保護はやめることにした。
ところが、その自分一人できちんと起きて仕事に行かなければならないという緊張は娘には良くなかったのだと医師から指摘された。
現在でも仕事に行くために誰かが起こしてやらなければならないが、医師はそれは仕方がないことだと言う。
習慣がつけば自分で起きられるようになるだろうと思って、頑張ってアラームで自分で起きるということをさせているのだが、緊張していないと自分では起きられない。
緊張しているということは脳が休めていないということなので、それをずっと続けると疲れてしまうから、仕方がないので毎朝私が起こしている。誰かが起こしてくれるという安心感があるから、ぐっすり眠れているようだ。
抗いきれない眠気は、発達障害のひとつの症状だという。「脳が眠たい子」と医師は言う。眠気が強く、起きているのが大変らしい。
幼いころはあんなに起きていたので、大人になってつじつまを合わせているのだろうか。
眠ったらなかなか起きられないという問題をどうすればいいのかわからないが、私が死ぬまでには自分自身で克服して欲しいと思っている。
親から育児放棄を受けていましたので、自分の子供は愛情深く育てようと頑張ってきました。ところが、子供が就職してすぐに発達障害を発病し、そこから長く苦しい時間が過ぎました。それらの日々を誰かに語ることなく過ごしていましたが、自分が苦しくなって、書き記したいと思うようになりました。