いのちのうた 第5話 「硝子の少年」(Kinki Kids)
「硝子の少年」を作曲した
山下達郎さんがライブで話された内容をもとに書きます。
達郎さんには、
引退さえも考えるほど追い詰められる時間
がありました。
そんな折、
当時ジャニーズ事務所の社長だった
ジャニー喜多川さんから、
作曲のオファーが舞い込みます。
長い間ジャニーさんが手塩にかけて育て上げた
二人組。
彼らが満を持してデビューする。
そのデビュー曲とのこと。
しかも、ジャニーズ事務所自らが主宰するレコード会社の第一弾。
つまり、ジャニー喜多川さんが全てを投入する一曲。その作曲を達郎さんに依頼したのです。
ジャニーさんが声を掛けた人物がもうひとりいました。
作詞家の松本隆さん。
松本さんもまた、かつてないスランプに見舞われて
数年も詩が書けません。
ジャニーさんはオファーにあたり
「最低条件」として二つの高いハードルを出しました。
オリコン初登場第一位、そしてミリオンセラー。
このいずれかでも達成しなければ、
今後「一切」発注しない…と。
達郎さん、松本さん。
いずれも近藤真彦さんの「ハイティーンブギ」はじめ、
ジャニーズ事務所に所属する歌手たちの
代表曲を生み出しました。
ジャニーさんがお二人の苦境を見かねて
声を掛けられたのか?は知る由もありません。
けれども、ジャニーさん直々のオファーを受け二人の闘志に火がつきました。
達郎さんには新曲にハッキリとしたイメージがありました。
「もしボクが筒美さんだとしたらどんな曲を書くだろうか?」
筒美さん、とは「ミスター昭和歌謡」とも言える名作曲家筒美京平さん(1940年~2020年)。
彼もまた、近藤真彦さんの「すにーかーぶるーす」など、
ジャニーズポップスの名曲を多数生み出しました。
「男性アイドルの王道を往くオーソドックスな曲をオレは書く!」
達郎さんは覚悟を決めます。
達郎さんは、
ジャニー喜多川さんや周りのスタッフさんから
何度もダメ出しをもらいます。
けれど達郎さんはそんな事ではめげません。
達郎さんは、とうとう納得の行く作品を完成させます。
それが「硝子の少年」。
愛する人の裏切りにあい
心の奥底で号泣する壊れかけの心情を
ピュアに表現した詩。
この松本さんの詩に達郎さんは哀感溢れる
メロディを付けました。
「古臭い」「振り付けがつけられない」…
スタッフはこの曲のリリースに猛反対。
ですが、達郎さん、松本さんは一歩も引きません。
「援助交際が流行するなど、愛が軽くなった時代…
その今だからこそ、
この曲を世に送り出すべきだ!!」
そうして、ついに「硝子の少年」は
Kinki kidsデビュー曲としてリリース。
この曲はオリコン初登場第一位、
そしてミリオンセラーに。
ジャニー喜多川さんが達郎さんと松本さんに示した二つのハードルはクリアされました。
二人の気迫が言霊となって私たちに響いたのでしょう。
この曲が世に出て、もう25年…
達郎さんは今もライブでこの曲を大切に歌われています。