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お前の教室はゴミ箱か?

筆者が高校生の頃、父親が初めて授業参観に来ました。
帰宅後に父親が言った、たった一言の感想。
底辺を知っていることも、時には得難い財産になりうるという話です。


筆者が人生や教員生活で経験し、その後の物の見方や考え方に大きな影響を受けた大切な思い出を「黄金の経験」として紹介します。

この「黄金の経験」を通して獲得した、光り輝くゴールデンピースは、働いていて苦しいときに、失わないその輝きで必ず筆者を助けてくれました。

心に蓄えたゴールデンピースの数だけ、筆者は強くなれました。

第1回目は高校時代の決して褒められない思い出です。



参観日に初めて父親が来た


筆者の父親は小学校の教員をしていました。
ザ・昭和の先生で、子どもの参観日はもちろん、入学式や卒業式にも顔を出したことはありませんでした。

そんな父親が、高校2年生のとき、初めて授業参観に来ました。
当時はまだ週休二日ではなかったので、参観日は土曜日だったと思います。

他人の子供の面倒を見ることにばかり一生懸命で、自分の息子はほったらかし。
当時の筆者の父親への印象はそんな程度でしたので、授業参観に来たのに気づいた時も
「あ?なにしに来たんだ?」
程度にしか思いませんでした。

帰宅して、父親が発したのはたった一言だけでした。

「お前の教室、あれはゴミ箱か?」

は?なに言ってんだ?
ゴミ箱?
意味わかんね~。

反抗期真っ盛りだった筆者は返事もせず、それで終わりました。



目に映っていても見えているとは限らない


次の登校日、いつも通りに教室に入ってビックリしました!
あまりの驚きで、わが目を疑ったほどです。

・・・汚ねぇ

毎日過ごしていた自分の教室なのに・・・
改めて見てみるとゴミだらけ・・・
教室の四辺の壁際には、ソフトボールよりも大きな埃の塊が、隙間なく幾重にも重なって溜まっていました・・・
菓子パンやジュースのパック、ガムの包み紙、配られたプリントなども散乱しています・・・

学校中のゴミ箱を集めてひっくり返したのかと思うほどの荒れようでした。

・・・こんなに汚かったっけ?

そう思いながら席につき、前の席に座る友達に、

「なあ、この教室って、汚くね?」

と声をかけると、

「は?気のせいじゃね?」

と言って、食べていた菓子パンの袋を床に捨てました


毎日ここで過ごしていたのに、こんなにゴミだらけで汚かったことに、父親に指摘されるまでまったく気が付きませんでした・・・



ザ・学級崩壊


筆者が高校生の頃は、世の中はバブル景気の真っただ中で、みんな将来は明るいものと信じて疑わず、楽しいことばかりを追いかけて浮かれていました。(筆者の高校だけかもしれませんが)

先生たちも、自分が同じ立場になってみて思いますが、実に雑でした。

筆者のクラスは学年主任が担任していましたが、退職間際のおじいちゃんで、パワフルな生徒たちを全く制御できていませんでした。

クラスには45人の生徒がいましたが、その45人の全員が全員、誰一人掃除をしませんでした。
普通はまじめな女の子とか一人二人はしそうなものですが、筆者のクラスは本当に誰一人しませんでした。
廊下のスチール製のロッカーは、蹴られたりしてボコボコでしまりが悪く、校内の鏡は全て盗まれて、トイレにもどこにも鏡はありませんでした。
雨の日に差してきた傘を、昇降口の傘立てに立てておくと、帰る時には100%なくなっているので、みんな自分の教室まで持ってきて、連絡黒板のチョーク受けに並べてかけていました。
それでも帰るときに傘がないこともありました。
同じクラスの人の物でも、平気で盗んでいってしまう。
そんなクラスでした。

授業も当然成立しません。
教担の先生が来ても、
立たない。
挨拶しない。
教科書出さない。
しゃべりまくる。
マンガを読む。
寝る。
先生の指示なんて一つも聞きません。

先生たちも諦めて注意一つせず、ほとんどの先生が黙ってプリントを配り、生徒に勝手にやらせて、授業の終わりに回収するだけでした。


当時はクラス替えというシステムはなかったので、3年間同じメンバーで過ごしましたが、筆者のクラスは3年間で延べ、停学者13名、退学者1名を輩出しました。

酒・タバコ・他校生との暴力沙汰・・・

「今日から俺は!」という漫画やドラマがありますが、ほぼあんな世界でした。



底辺を知っていることに価値があった


こんな高校生だったのに、中学校で教師をやっていたことに驚かれることも多いです。
ですが、こんな底辺を知っているからこそ、見えたこと、気づいたこと、わかることがたくさんありました。

1つ目
心が汚れきってしまうと、自分の居場所が汚れていることにさえ気が付かなくなる
→人は目に映っていればその対象が見えているとは限らない。
 見ようとしなければ見えないものもあるし、
 目を背けたくて見えないふりをしてしまうこともある。

2つ目
ただ同じクラスで毎日過ごすだけでは、生徒の関係は育たない
→高校の担任は崩れ行く私たちに対して、なんら有効な指導も支援もできませんでした。
 放っておいてもクラスはよくなりません。
 生徒の関係を深めたり、集団の秩序(ルール)を確立したり、道を踏み外したらきちんと指導して修正したりしなければなりません。
 これが担任の職務です。

3つ目
崩れた先に何が待っているか、実体験から生徒に語れる
→掃除をさぼる生徒、ルールを守れない生徒、注意しても反発してなかなか聞き入れませんが、筆者の高校時代の体験を伝え、「こんな関係や環境で毎日過ごしたいか?」と問うだけで、たいていの子は改めます。

4つ目
崩壊していて大変なクラスでも動じない
→担任がリタイアしてしまうような崩壊したクラスのリリーフ、札付きで入ってきた大変な子どもたち、そうした子たちを担当しても、「自分たちに比べれば全然まし!」と思えるから平気。むしろかわいいくらい。

5つ目
はみ出す子どもの気持ちがわかる
→自分を振り返れば偉そうなことは言えないし、はみ出す気持ちもわかるので、「どういうアプローチをすればこの子に響くかな?」という視点で指導や支援を考えられる。


どうです?
教師としてやっていくうえで、プラスのことばかりじゃないですか?
まだある気もしますが、ざっと5つのゴールデンピースを獲得しました。

けっして良い思い出ではありませんが、筆者にとっては間違いなく
「黄金の経験」でした!


この経験を活かした指導のコツを、「今日から楽笑!」③で紹介しています。
こちらも合わせてお読みください。

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