てんぐの読書感想:三体III 死神永生〜思えば遠くに来たもんだ
先週発売された文庫版三体3部上下巻、この土日に読了いたしました。
この「死神永生」、ネタバレを避けたいからあまり検索は掛けませんでしたが、あまり感想を見かけない理由がよくわかりました。だって、説明するのがこの上なく難しいんですから。てんぐにしても、「これ、ネタバレ配慮とか度外視して、どう感想をまとめて良いかわからないな」と頭を抱えました。
実際、劉慈欣にしても、「これは一般受けは絶対にしないだろうから、営業的にもハードSFファンにターゲットを絞ろう!」と、身も蓋もないことを言っちゃったそうですが、実際にはこの「死神永生」で三体は完全にブレイクしたってことだそうで、世の中なにが受けるか全くわかりません。
ただ、これだけはわかるのが、第一部から完結編に至るまで、「三体」は「人間」を描いていたということです。
醜悪だったり愚昧だったり恐怖だったり、あるいは平和であったり美しかったり優しかったり、時代や世界がどんな顔を見せようとも、何が正しくて間違ってるかなんて結局はわからないまま迫られた決断が間違っていたとしても、人類は絶対に明日に向かおうとすることだけはやめない。昨日まで遺してきたものも限界まで明日へ持ち込もうとする。
「死神永生」での壮絶極まる有為転変は、劉慈欣という希代のハードSF作家による、「人類の本性はこうであるという仮説はどこまで真なのか」という究極の思考実験の事例集だったんじゃないかな。
もっと言うなら、1部の葉文潔、2部の羅輯、そして3部の程心は、その思考実験に劉慈欣の代理として立ち会っていたんじゃないか。そんなことも感じます。
それにしても。
この「死神永生」を読んで驚いたのは、Netflix版でのジャック・ルーニーやトマス・ウェイド、そしてモータルコンバットめいた智子までが、ちゃんと原作準拠だったってことでしょうか。
Netflix版の制作陣って、驚くほど三体の世界観を飲み込んでたんだなと感心しちゃいました。
あと、劉慈欣って結構日本のポップカルチャー好きだと思うんですよ。
“智子”について「日本語だと“ともこ”って読むんだぜ」という話を振っただけならともかく、「死神永生」では実体化した智子が戦闘スーツ姿で背中に背負った日本刀を振り回してました。
「黒暗森林」では銀英伝のヤン提督のセリフを引用してましたが、今回は明言こそしてませんがスペースコロニー群による地球連邦発足なんて宇宙世紀ガンダムみたいな世界像を作っちゃってました。さらに言えば、一部のコロニーが地球連邦へ独立戦争を挑もうともしてましたし。
で、最終盤の、程心とパートナーAAが飛び立った文字通り時空を越えてしまう宇宙の旅は、「トップをねらえ!」のウラシマ効果を連想しました。
そういえば、テンセント版の魏成も、なんとなく庵野秀明に似てたっけなあ。
ちなみに、このテンセント版三体、下記の記事に寄りますと7月1日からAmazon primeで配信開始されるとのことです。
さて、三体も原作を一通り読み終わったわけですが、次は何を読むか。
いま読んでいるのは、たまたま本屋で見かけた「訟師の中国史」で、次に読む予定としてるのは講談社現代新書の「民主主義とは何か」なのですが、それと並行して読んでいこうと思ってるのが、kindle版で半額セールになっていた戦闘妖精雪風シリーズです。
そして9月にハヤカワ書房から出る「フォース・ウィング 第四騎竜団の戦姫」にも注目しております。
今年は本当に、読み応えのある本との縁が絶えないですな、良かった良かった。