てんぐの読書感想:戦闘妖精・雪風シリーズ~これは三体ファンにもオススメです

 早川書房の夏のKindleセールのラインナップの中に戦闘妖精・雪風シリーズも入ってました。

 OVAも見てまして結構好きだったんですが、この機会に原作も読んでみるかなと思ってシリーズ一気買いしました。
 原作はOVAとだいぶ趣きが違って「異星体との30年掛かったファーストコンタクト」といった趣きのハードSFであり、それを切っ掛けに浮き彫りにする「人間とは何か」を問うのが主題でした。
 そして、「姿なき<敵>との対峙」、さらにそこに情報戦や<敵>への離反者という要素が介在するという意味では、「三体」にも通じるものがありそうです。

 なので、三体ファンにも雪風シリーズはオススメします。
 もちろん逆は真なりで、この原作の雪風ファンにも三体は相性良いんじゃないかな。

 そしてシリーズ最新作「アグレッサーズ」は、事態がフェアリィ星でのジャム機との終わりなき航空戦から、「ジャムという存在を理解し、ジャムに人間を敵として、交渉相手として意識させる」というフェイズに入りました。

 ここに至り、「必ず帰還せよ、味方を見殺しにしても」が至上命令となる偵察部隊である特殊戦は、それゆえに対ジャム戦の前衛、言い換えれば戦争そのものの名実ともに<主役>を担うことになりました。この展開は上手いですねえ。しっくりきました。

 しっくりきたというなら、このアグレッサーズでの深井零の変化も、かな。
 軍医にしてギャンブラーエディス・フォスのカウセリング効果もあるんでしょうが、自分が人間であるという事実から逃げることをやめて、軍人でありパイロットであることと「ごく当たり前の<社会>人」を両立し始めてる零の精神的な成長は感慨深いものがあります。1巻の頃だと、彼が後席のフライトオフィサと飛行中に雑談する姿なんて想像もできませんでした。
 進化や変化は異星体や機械知性体、そして戦闘妖精の専売特許じゃない。人間もまた、いつでも自分に不足していた要素を補充して変化することができる。まあ、零にしてみれば、自分の変化を「近代化改修」とでも認識してそうですが。

 さて、この雪風シリーズの原作でてんぐが好きなキャラはふたりいます。
 ひとりは、上記の零とフライト中に雑談までするようになったフライトオフィサの桂城彰。雪風が戦闘妖精なら、今のコイツは「自分は何を言ってもやっても許される」と確信してる愛嬌の妖怪みたいに見えました。
 なんか、「いだてん」「らんまん」での神木隆之介みたいな雰囲気があるんですよね。まあ、ゴジラ-1.0を引き合いに出すなら零のイメージにも合致するんですが。

 そしてもうひとりは、「アグレッサーズ」からの新規キャラクター、日本空軍の教導パイロットを務めるエリートパイロットにして、サディストではないのに「暴力を愛し憧れる」という突拍子もないパーソナリティの田村伊歩いふ
「間違って人間として生まれてしまった機械」という点ではかつての零と重なるのですが、零の場合は「俺には関係ない」と言い続けてFAFに流れ着き、標的=他者、あるいはその複合体としての<社会>と接することから「逃避」し続けていました。標的に当たらない限りは飛び続けるブーメランのような生き方、と言っても良いでしょうか。
 これに対し、伊歩の場合は徹底的な「攻撃」型。暴力装置として純粋であり続けるわけにはいかない<社会>では扱いきれない危険な装置であり、それゆえにFAFで味方を見殺しにするブーメラン戦隊以上に敵意に晒される仮想敵機部隊アグレッサーズに自分の居場所を見出しました。

 そして、零と全く違うタイプであるからこそ、「この伊歩こそが、ここから先の雪風シリーズの新主人公になるんじゃないか」とも思いました。
 グレンダイザーで言ったら、零が兜甲児で、伊歩が宇門大介-デューク・フリードにあたる、というところでしょうか。
 まあ、甲児はあんなに陰気じゃないし、大介さんはあそこまで物騒じゃないですが
 そんな田村伊歩の実写イメージを考えてみましたが、こちらは伊澤彩織さんかなあ。ベイビーわるきゅーれを見てからファンなんですよー。

 前科者揃いの囚人部隊同然なFAFと違って、一国の正規軍の最精鋭パイロットってことは、当然フィジカルも優れているはず。
 これを持ちつつ、ベイビーわるきゅーれ2ベイビーのラストバトルで見せたあの笑みを浮かべさせる狂気を出せるとなると、この人がベストって感じがするんですよね。

 そういえば、ベイビーわるきゅーれの第3作ナイスデイズもそろそろ公開されますし、秋にはドラマシリーズも始まります。

 こちらも大変楽しみにしておりますし、雪風シリーズの新刊も楽しみです。

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