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読書感想:物語つくりのための黄金パターン 中国と中華風のポイント25

 先日メールを整理していたら、Amazonからのオススメ書籍の中に、この「物語づくりのための黄金パターン 世界観設定編1 中国と中華風のポイント25」という本がありました。
 常々、「中華風世界の創作をする人のための手ごろなガイドブックはないものか」と思っていたんですよ。というわけで、即座に購入しました。
 ざっと読んでみての感想は、これは文字通りのテキスト、教科書ですね。
 歴史、文化、思想、宗教、武侠と中国武術、料理、神話や説話。
 どういう方向性の作品を作るにしても、中華世界を題材にするなら前提としておくべき知識が一通り網羅されています。
 さらに突っ込んだ知識が欲しいなら、巻末の参考資料を図書館で探すなり身銭を切るなりして調達するべし、というところでしょうか。
 その参考資料、清末の侠義小説や剣侠小説、現代の金庸作品、または嵩山少林寺についての解説を読んでて、含まれてるんじゃないかなと思っていたら予想通り、「漂泊のヒーロー」「増訂 中国武術史大観」もありましたね。

 冒頭の「サンプル」で提示された中華風異世界の事例も実践的で面白かったです。
 以前てんぐも、こんな記事を書いたことがあります。

 これを煮詰めても良いのですが、最近は「大明皇妃」「成化十四年」を見た影響で明代推しになりました。

 それもありまして、「パラレルワールドの明王朝」という方向性でひとつ考えてみました。

 ーー永暦10年、西暦1656年。南京応天府。
 “国姓爺”鄭成功は薩摩琉球国からの援兵を含めた軍勢を率い、山海関を越えて中原に乱入しようとした満清軍を旧都北平順天府に押し返し、その翌年には先帝を縊死に追いやった逆賊“闖王”李自成を敗死せしめ、明朝復興の立役者の栄誉を一身に担っていた。
 その父、天下に絶えて久しかった「丞相」の称を得た鄭芝龍に対し、壮年の儒者が熱弁を振るっていた。
「然るに丞相大人、古き大明の過ちを繰り返さぬためにも郷紳たちに位を授け、その土地を代々統治させていくべきなのです。遡れば、かつて西周の世にもーー」
 その儒者、顧炎武の語る故事など、海賊あがりの粗野な「丞相大人」などには半分もわからぬ。
 わかっていることは、天下全てを牛耳るには到底おぼつかぬ自分の権勢と器量の限界であり、考えていることは、その上でいかに己と一族、そして現在も東南の海で台湾フォルモサ奪還を画策するオランダ人やルソンを拠点とするスペイン人と対峙する我が武装海商団の利益を最大化するかだった。
 荒海と戦乱の中で鍛えぬいた鄭芝龍の嗅覚は、顧炎武の進言に「従え」と囁きかけていた。
「顧先生のご教導、痛み入ります。今後もこの野人にご教導を」
 鄭芝龍はそれまでの尊大な態度を捨てて席から立ち、恭しく拱手の礼を示した。その掌の陰に、狡猾な海賊の笑みを隠して。

 背後に三尺あまりの両手使いの長剣を背負った若者は、街道の関所で一枚の牌をかざした。
「江湖客だ!」「江湖客の令牌だぞ!」
 その牌、「江湖令」を見た関所の雑兵たちは、直前までの横柄さをかなぐり捨てて、たちまち拱手し直立不動の姿勢を取った。
 そんな雑兵たちも、同じ通過待ちの列に並んでいた民草も、その若者は歯牙にも掛けず、早々に関を通過した。
「江湖客は天下を独行す。これを阻む者、何人とて無し」
 そのような特権に浸っている余裕は、今の彼にはない。一週間以内に洛陽の地にたどり着かねば、ひとりの少女とその両親は地獄に落ちる。
 それを救えるのは、天が下にただひとり、江湖客“鉄剣先生”ただ一人である。

 崇禎帝没後の危機を乗り越えた明朝も、その姿はかつてのそれとはかけ離れたものとなっていた。
 南京に還都し、海禁の祖法も一君万民の理念も捨て、「領主」の名を得た郷紳たちによる分権の王朝。

 後世の歴史家は、これを「南明」と呼称した。

 ざっと、こんな感じかな。
 この世界だと、

  • 明朝は日本の幕藩体制に似た封建制に移行して存続している

  • 各地は郷紳たちが半独立領主となり街道も領地ごとに関所が設けられている

  • 関所を自由に通行できる特権を丞相である鄭政権から与えられた存在が「江湖客」と呼ばれるものたちである

  • 「江湖客」は異能の才を持ち人を助ける義侠の士である

 という風になっています。
 ゼロから中華風異世界を作るのもアリだし、「我々の世界とは少しだけ違った歴史を歩んだ中国」という解釈で世界観を作るのもアリだと思います。

 他には、ファンタジー世界でおなじみのエルフやドワーフやオークなどを中華風世界に登場させたいなら、中国の神話や説話の名前を拝借するって方法も考えられます。
 例えば、エルフは長命で神秘の力を持っていることから天仙または飛仙や仏法八部衆の天人に擬える、ドワーフは短躯で闘志あふれるから刑天と同一視されている、オークには北狄や西戎の名前が与えられ、そして映画ダンドラのジャーナサンでおなじみの鳥人間がいるなら迦楼羅と呼ばれる、という具合に。

 こんな風に中華風世界観のイマジネーションを広げるのに役立つこの本、もっと多くの人に読んでもらいたいなあ。

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