1番になった奴、1番を目指したくなった奴。(第60回宣伝会議賞で協賛企業賞を頂いた話 後編)
前編はこちら
2023.3.10 10:00
青森県八戸市。だいたい10時ころ。八戸駅に1人の男の姿があった。
その日は、宣伝会議賞の贈賞式が行われる日。男のリュックには、招待状がしまわれている。まだ上着がある方が良い。そう判断できる少し肌寒い空のもと、男は新幹線のホームへと足を動かす。
およそ3時間の高速移動。東京の温度は、予報だと21℃らしい。八戸と比べ、約10℃の寒暖差。降りた後の服装を想像しながら、晴れていることを望んで雲を見ていた。
上野のアナウンスで荷物を整理し、あまり間を置かずに流れた東京のアナウンスで今までと同じように空を見上げると、そこに、空はなかった。
巨大なビルが立ち並ぶ。第一に感じたのは圧迫感だった。今までは遠くにも見えていたはずの空が、真上の方向にちらりと見える程度。高村光太郎「智恵子抄 あどけない話」の書き出しにて、
という一節がある。当時と情景は異なるのであろうが、ほぼ似たような感想がよぎったことにおかしみを覚えた。それと同時に、人生3度目の東京上陸への実感がふつふつと湧き上がる。
リュックを背負い、持ち運び袋に入ったスーツを手に持ち、私は東京の地に降り立った。
予約していたホテルにて身支度を整え、地図を表示したスマホを片手に歩いて行く。余裕をもったスケジュールにしていたはずが、集合時間とされていた時間に対して意外とぎりぎりになってしまった。
贈賞式の会場は、The Okura Tokyo。多分ここらへんから入れるだろうと、地図アプリ上にて推測した地点から建物の中に入る。少し焦りながら受付に話しかけると、ここは4階だと言われた。
目的地となる1階へ、エレベーターで下っていく。静かな振動ののち、開いた扉の先には開場を待つ人の群れがあった。
2023.3.10 15:30
「うおぉ……」
眼前に広がる、広々とした立派な会場に気圧されながら、でかでかとしたファイナリストコピー垂れ幕のほぼ真下の円卓に座る。まだ誰もいないテーブルに、1番乗りで座ってしまうことになった。
その後、同じく商工中金の課題でファイナリストになった上村さん、水なし印刷とシャノンの課題で協賛企業賞・ポーラの課題でファイナリストになった長井さんがいらっしゃり、お話をした。
私以外がファイナリストのテーブル。途中で「緊張されてますか?」という話題が出ていたが、お二人の結果は今日決まるのだ。私以上に緊張感があっただろうと思われる。
加えて、よくよく考えれば当たり前なのだろうが、協賛企業の担当の方の席が同じ円卓に用意してあった。私はこれにびっくりしてしまった。準備の一環として、Youtubeで過去の贈賞式の様子を確認していたが、受賞者にスポットがあたっているためそれ以外の方が会場にいらっしゃるという状況を考えられていなかった。
日本WPAと商工中金の担当の方を加えた5名で円卓を囲み、式の進行を見守ることとなる。
席についたタイミングでしっかりと名刺交換が行われ、ビジネスの場だぁと感慨深く感じていた。なかなか名刺を渡す機会のない仕事をしているため、たくさんの名刺がテーブル上に並んでいる光景は刺激的であった。
そして改めて、渡せる名刺があってよかったと感じた。終了後の打ち上げ会場にて、「名刺あって良かったでしょ?」と声をかけてくれた贈りびとさん。名刺作ったほうがいいですよ、と連絡をくださり本当にありがとうございました! (なお、作り過ぎてべらぼうに余っていたりする)
2023.3.10 16:30
時間のすぎるのは早いもので、あっという間に配信開始の時間がやってきた。私がしないといけないことは、自分の番が来たら立って礼をすること。配信画面に写っているものと同じ画面が前面スクリーン上にも反映されていたが、今になってみると自分の姿が写った記憶が全くない。緊張があったのか、単純に礼をしたから見えなかったのか。たったの数秒の役目を終え、私は席に深く腰掛けた。
そこから先は、単純に楽しんだ。ファイナリストとして密山さんやむーむーさん、石川さんのお名前があがったことに顔だけで歓声をあげ、各賞の発表に緊張感を感じ、「老い、待て」がシルバーで出てしまったことに落胆し、真後ろのテーブルからグランプリが出たことに感動と興奮を覚えた。
特にファイナリスト紹介の際に、通過本数が多すぎて密山さんだけ企業名が割愛されていたのが、なんとなく面白かった。(よくよく考えれば、はちゃめちゃに凄すぎです……)
こうして贈賞式は嵐のように過ぎ去り、記念撮影を挟んで、懇親会の流れへ。自分はあずかり知らないところになるが、ここ数年は懇親会が無かったらしい。そういう意味では、大変良いタイミングで受賞できたなぁと思う。
写真撮影後、懇親会スタートの号令までは少し時間があった。飲み物をいただこうと歩き回っていた時に、早坂さんに出会った。コピグラ飲みで見たことある人もちゃんといるんだぁ、と謎の感動。
その後は特に誰に話しかけることもできずウロウロ。そんな私を気遣ってか、開始のアナウンスの直後、宣伝会議社の商工中金担当の方が話しかけにきてくれた。
先程まで隣に座っておられた商工中金の担当の方を加え3人でお話。その中で、協賛企業賞の選定の仕方について話題を振っていただいた。なんと、社内の担当者投票において1番票をいただいたのが私のコピーだったとのこと。(なお、2位はファイナリストに残ったCMだったらしい)率直なお褒めの言葉をいただき、「今が一番、受賞の実感が湧いてます」とお二人にお話した。
そう、改めて考えてみると、協賛企業賞ってその企業の中で1番になったということなのだ。前編で書いた通り、1番になった経験というものが少なかった自分にとって、今後の勇気につながる出来事になると感じた。
その後も会場内をウロウロ。お顔を知っている人に話しかけに行こうにも、むーむーさんや密山さんはひっぱりだこ。アンド人見知りを発動して知らない方へはなかなか話しかけに行けない。話しているところに割って入るのって、難しいですよね……。頑張って話しかけに行ったのも、グランプリの守本さんとコピーゴールドの石川さんに「おめでとうございます」の通り魔をしてきたくらい。
せっかくだし何か食べようかと、立食ビュッフェの前で皿を持った瞬間、
「らぎしょうさんですよね!」
と、後ろから声が聞こえた。
「羽華です!」
共通の話題がある人のなんと嬉しいことか。ミカグラ受賞者2人がここで揃い踏みとなった。荷物を預けられると思わずほぼ身一つで来ていたり、取ったホテルが同じだったりと案外似たもの同士。初対面だったがとても話しやすい方で大変助かりました。
別れた後はコやまさんと早坂さん(2度目)と出会い、お話をしているとお開きの時間に近づいていった。まだ重要な方々に挨拶してない! となって、むーむーさん、そして密山さんにご挨拶。密山さんのお隣には中村禎さんがいらっしゃり、
「せっかくだから中村さんに紹介しないと!」
と密山さんに袖を捕まれ、むーむーさん・羽華さん・私の3人で中村さんに名刺を渡した。
中村さん
「名刺もらっても名前覚えられないから、直接やり取りしましょうよ。そうすれば、この名前見たことあるな、ってなっていくから」
返しに密山さん
「はじめのうちは名前覚えてもらうために、「二度見直也」に改名しようかと思ってましたよ」
なんか、すげーハイレベルな空間にたどりついてしまった……。
ぽんぽんぽーんと話が駆け抜け、密山さんと中村さんはまた別な方とお話に行かれた。
これがヤムチャ視点か……。
その後、会場から追い出されるような形で懇親会はお開きとなり、ロビーにて羽華さん・コやまさんと一緒になった。打ち上げ会場へ向かうにあたり密山さんを待とうかという話をしていたが、アクリル盾の入った箱を4つも抱えたコピグラの大ボスは、会場が閉まった後も大人気で近づけない。
先に行ってしまいましょうか~、ということで、慣れない東京の地を3人で歩いて行った。
道中「羽華さんってなんで羽華さんなんですか?」という質問があった。回答がツボに入ったのか、出てきたワードを永遠にこすりつづけるコやまさん。(どんな経緯で羽華さんになったのかは、ぜひ本人から聞いてみてください)
雰囲気が悪くならないあたり楽しい人だなぁと思いつつ、左手の地図アプリは打ち上げ会場へ導いていく。
2023.3.10 20:00
「受賞組きたー!!」
会場内には贈りびとさん・マスケトさんを始めとして7名ほどの方がすでにスタンバイされていた。贈賞式内であまり配れなかったので、ここぞとばかりに全員へ名刺をプレゼント笑
その後ぞくぞくと受賞組、卒業組を始めとしたガヤ組が集まっていき、用意されていた席はどんどんと埋まっていく。
最後の最後に登場したのは、我らが密山さん。スペシャルゲストを連れてきたよ~、とおっしゃる。ロビーにて石川さんに声をかけているのを見ていたので、芸人さんが来ました! の流れかと思っていた。
なんと、いらっしゃったのは中村禎さん!
会場内にいた誰もが、驚きのあまり立ち上がって収集がつかなくなった。
(石川さんもいらっしゃってました。こちらも驚き)
まとめ上げてくださったのは、幹事のマスケトさん。全員が席について、飲み物が行き渡る。いざ乾杯というタイミングで、なにやら大きい物を手に現れる贈りびとさん。
「お祝いの定番といえばこれでしょ!」
なんとくす玉の登場! しかもハイクオリティ……。
密山さんに割っていただき、同時に店内にクラッカーが鳴り響いた。裏で放送されていたWBC韓国戦をかき消すような盛大な歓声。くす玉の中に書かれていた文字は「く゛や゛し゛い゛で゛す゛」 中村さんにも見ていただけるように、割れた後の垂れ幕の向きを調整したのは私でした。
さっそく交わされる審査員裏話に、みんなの耳は釘付けですよ。グランプリとゴールドは8票vs7票だったことや、中村さんがどちらに投票なされたか、他の審査員の方がプッシュしていた作品はどれか、などなど。
なにより凄いと思ったのは、これらの話は会場にいる人を喜ばせようとして出ている発言だということが、ありありと伝わってくることだった。ファイナリストで終わってしまっても、最終審査員の誰かが良いと言ってたことが伝われば救われるでしょ? そんなふうに様々なお話をされている姿に、とてもカリスマ性を感じた。
打ち上げ会場では、主ににゃこさんとTee.さんとお話させていただいた。Tee.さんからは、えんぴつ他数点とお茶(Tee)をお土産としていただいた。入れ物が給料袋だったことが、さらにインパクト。
インパクト繋がりで言えば、贈りびとさんの活躍を語らないわけにはいかない。終盤、なんと、テーブル上に真四角のホールケーキが運び込まれたのだ! くす玉しかり、コピグラBESTを持っていない方への頒布しかり、ケーキしかり、どれだけ人を喜ばせれば気が済むんですか……!
そんなこんなで話は膨らみ、それに伴い時間は過ぎる。ここまで何度も「時間が早い」ということを綴っているが、しかたない。だって早かったんだもの。打ち上げ1次会は、計23名が参加。話題の中には広告業界だからこその内容も多分に含まれており、業界を覗き見ることができた気がして興味深かった。
最終盤、密山さんから「2次会らぎしょうさんも来ます?」と声をかけていただき、「ぜひ!」
大量リードでもう勝つだろうな、というWBC後半戦を尻目に、2次会会場へと駒を進めた。
2023.3.10 23:00
2次会まで残っていたのは15人。席でぎゅうぎゅうの餃子のお店で、飲み直しを敢行する。1テーブル4人をざっくり4テーブル。私はコやまさん・Tee.さん・すずきちかさんと同卓させていただいた。
注文数をかさ増ししようとしてくる陽気な店員さんによって、餃子の3種盛りが運ばれてくる。ぱくつきながら、話題も雑多な盛り合わせに。好きなお笑い関係のYoutubeの話で、Tee.さんとすずきちかさんが友達になれそうだったり、私が出したちいかわの話題で、ちいかわを知らないコやまさんが検索して「小刻みに震えているやつ?」と話されていたり。
そんな感じで会話に花を咲かせていたが、店の一番奥の席に座っていた私、背中の柱が出っ張っていたせいでおしり半分しか椅子にかかっていない状態でして。流石に足がしびれてきたので脱出をお願いした。
このタイミングで、せっかくだからと席替えを実施。席替え後は、マスケトさん、かずまぁさん、Tee.さんと席を囲んだ。(例の激窮屈席はコやまさんのもとに)
コピグラ東京支部のお話や、しっかりコピーのお話などで盛り上がった。やっくるさんのお歌がうまいという話が飛び交っていたので、いつかお聞きしたいものである。
色々話す中で、「今回1次通過本数が県で2位だったので1位を目指したい」と抱負を語るらぎしょうさん。(ちなみに1位の方は25本通過。私は8本。壁は高い)
話題に反応してくださったマスケトさん、「自分は東京で何位だろう」とつぶやく。少し考えてみたが、マスケトさんより多い本数の方がぱっと出て来ない。もしや東京で1位か? という雰囲気のなか、急に崩れ落ちるマスケトさん。
「むーむーさんがいるわ……」
コピグラ女王の壁は高い。
そうこうしている間に、日もまたぎ、「終電もなくなったので」と3次会の話が立ち上がっていった。どうやらカラオケに行く流れに。幹事組は先行離脱して場所取りに向かわれた。
人数が少なくなった店内、私はようやく、密山さんと相対した。
「ありがとうございます」
何故か初手で感謝の言葉を述べて、いくつかやりとりをさせていただいた。ほとんど飲まない酒のせいか、テンションがあがっていたせいか、申し訳ない限りだが、何を話したのか今となっては何も思い出せない。ひとつはっきりと言えるのは、にこやかでやわらかな雰囲気をまとったおしゃれ番長が、目の前にいたということだ。
この人についてきて良かった、と心から思うと同時に、宣伝会議賞という戦いにおいて、これからも背中を追いかけさせてもらおうと感じるのであった。
3次会向かうよー、ということで、全員で撤収。
翌日に予定を入れてしまっていたので、私はここで離脱することに。このタイミングで離脱した人は数人しかいなかったように思える。おそらく3次会も盛り上がったことであろう。誰か書いてくれないかなぁ。
2023.3.11 01:30
東京のお供、地図アプリで調べると、ホテルまでは目と鼻の先であった。
知らない夜道を余韻とともに歩ききり、ベットの上に荷物を広げる。
実はこの時まで、贈賞式の会場でお土産と言って渡された箱の中身を正確には把握していなかった。開けてみると、自分の名前と自分のコピーが入った、協賛企業賞のアクリル盾であった。
散々話題に出しているが、私は1番になったことの無い人物である。トロフィーなんて、もってのほか。自分の実績が称えられている物品の持ち合わせなど、無いのである。無かったのである。
えもいえぬ感動とともに、今日一日がフラッシュバックしていた。
打ち上げ会場で中村禎さんの言葉を聞いてから、2次会まで何度も口にした言葉がある。
「ファイナリストに残りたい」
自分は広告屋の人間ではない。そんな自分でも、届く言葉を作れる可能性のある場所。それが、自分の中での宣伝会議賞の定義となった。
54字の物語は、どんなものが評価されるか分からない、と言ってやめてしまった。真逆に、コピーでは他者の評価を第一優先で考えられる自分がいる。当たり前だ。コピーとは、相手がいないとなりたたない物なのだ。
この「相手」を「最終審査員」、ひいては「世の中」にできたら、どんなに素晴らしいことか。
宣伝会議賞を知った当初、過去の受賞作を見た際に、「あ、これ知ってる」と思ったものがあった。第53回グランプリ、JTBの旅行券のCMである。こんな感じで、いろんな人に知られていろんな手助けができれば、楽しいだろうなぁ。
がんばろ。
ああ、はやくコピグラ復活しないかなぁ……。
こうして、私の一番長い日は幕を閉じた。