奥信濃への道 第15走:去り行くもの
これが見たかったんだよ。そんな事を言った彼は、特に現代建築に興味がなさそうだったが、感慨深げにそう放った。もう十年以上前の話だ、当時東京に自転車で遊びに来ていた私は、一緒に走っていた彼が見たいという中銀カプセルタワービルを見るために汐留に居た。その奇妙とも近代的とも言える何とも形容しがたい造形はメタボリズム建築の代表作で黒川紀章氏の代表建築物である。このメタボリズム建築は特に建築に詳しくない私ですら知識として持っているだけに、その存在を知っている方も多いだろう。
1972年建築の当ビルもその近代建築の歴史遺産的価値から保存活動が活発と聞いていたが、遂に50年を迎える今年、いよいよ取り壊しが決定。来週にも工事が始まるという話を耳にしたので、その最後の姿を見に再び汐留に向かった。
いつもの隅田川沿いを走り、工事がいつまでたっても終わらない築地大橋を超えればそこは汐留。記憶のあの日のままだが、少し寂しげな中銀カプセルタワービルは存在感そのままにそこに鎮座していた。首都高速道路脇の空が狭い東京らしい雑踏間の中に50年たち続けていたその姿は、建築当初の周辺景観と大きく変わったであろうとも、堂々とした姿で50年たった今においても順応しているように見えた。
こういった場所にランニングで訪れるのはとても良い。その土地の空気感や風景をより感じ取ることが出来る、これは予想以上の体験だ。
田舎暮らしだった私にとっては、引っ越してきて2年たった今でも街は新鮮に映り、時代を象徴する建物などは街に点在している。そんな風景を感じながら走るランニングの速度は丁度良い。
膝は相変わらずだが。
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