ジェンダーギャップ指数とSDGsから読み解く"性的搾取"の概念と定義
概要
GGI、WBL、SDGsをはじめ国際的な指標や文書を用いて性的差別、性的搾取と虐待、セクシャルハラスメントの概念や定義を読み解き、搾取される対象が実在する人物に限る事を結論付けます。
GGI(世界経済フォーラム/WEF)
WBL (Women, Business and the Law/世界銀行/World Bank)
SDGs(国際連合/UN)
また、男女共同参画基本計画が目標とする女性差別の解消や女性エンパワーメントが的外れである事を指摘し、警鐘を鳴らします。
はじめに
現在も多額の国費が投じられている男女共同参画基本計画は、少なくともここ5年の間は各紙面や文書で広報されてきたように、一口にまとめるならば、ジェンダーギャップ指数(=GGI)の低さが示すように日本の女性は著しく差別された状況に置かれ、その低順位を是正する為にエンパワーメントする事が国民全体の幸福度上昇に寄与すると言うテーマに沿って執行されてきました。
しかし近年、GGIの計算方法や比較方法に疑念の目が向けられ詳らかになると、同時に男女共同参画基本計画に対してもそのあり方を問う声を目にするようになります。
端的に、GGIの順位上昇をベースに計画・立案された政策や施策の多くは方向性を見誤っており、長期に渡って多額の費用が投じられたにも関わらず未だ国民全体の幸福度は上がらず、さらには男女の分断すら生むような経過を辿っていると評価せざるを得ない状況に置かれているのです。
その道中、2015年前後を境に新たに加わったキーワード=SDGsも同様で、特にSDGs5=ジェンダー平等においては、伝播するタイミングでSDGs5の目標が偶発的、あるいは意図的に歪められ、誤った認識が日本で広まっているように見受けられます。
その結果、性的搾取(ないしは性的虐待など)に類する言葉の定義が曖昧且つ無秩序に拡大解釈される傾向にあり、SNS上では性的な不快感が何から何まで性的搾取やハラスメントであるかのように扱われ論争を巻き起こすまでになりました。さらには、この誤ったジェンダー平等の概念が小中高生の教育現場にも侵食を果たし、看過できない状況となっています。
そこで今回は性的搾取の定義を検索エンジンで直ぐに見つかる情報のみに頼らず、国際的指標や文書から読み取り再確認する事で、議論空転防止の叩き台とならん事を目標に論考を進めるものです。
以下に代表的な検索エンジンの検索結果URLを示します。
GGIが示す性的差別
GGI(ジェンダーギャップ指数)なる名称は、多くの日本国民がそれを男女平等の差異を定量化し国際間で比較した指数であると思い違いをするには十分でした。そして現在も国会議員・地方議会議員、候補者、弁護士、大学教授、芸能人など多くの公人・準公人、著名人がその思い違いを是正しないまま使用し、発信を続けています。
代表的な誤用例は次のようなものです。
男性の育児や家事への参画が少ないから低い
痴漢や性犯罪で被害者女性の落ち度を指摘されたから低い
女性を客体として消費し、性的搾取しているから低い
男性は生まれながらに加害性を持ち、女性は日常的に苦痛を受けているから低い
夫婦別姓が認められていないから低い
高齢男性が女性蔑視発言をするから低い
緊急避妊薬がコンビニやドラッグストアで買えないから低い
シングルマザーへの支援が不足しているから低い
待機児童が多いから低い
地下鉄などの公共の場に性的に感じられる広告が使われているから低い
アニメや漫画のキャラクターを通して女性が性的消費されているから低い
LGBTQに対する理解が低い
ジェンダーレストイレが不足しているから低い
そしてGGIの順位が低い日本は男女差別が横行し、女性や性的マイノリティが生きづらい国であると誘導されます。
それではここで、改めてGGIがどのような項目について男女比を比較しているのか確認してみましょう。
経済部門における参画度と機会
・労働力の男女比(ILO)
・同一業務での収入格差(WEF)
・推定収入格差(ILO/IMF/World Bank)
・上級職・管理職の男女比(ILO)
・専門職・技術職の男女比(ILO)教育達成度
・識字率(UNESCO/HDR,HDI)
・初等教育の就学率(UNESCO)
・中等教育の就学率(UNESCO)
・高等教育の就学率(UNESCO)健康と生存
・男女出生比率(World Bank)
・健康寿命(WHO)政治的権限の有無
・国会議員の男女比(Inter-Parliamentary Union)
・閣僚中の女性の割合(Inter-Parliamentary Union)
・過去50年で女性が国家代表を務めた年数(WEF)
GGIは上記の通り4つのメインインデックスの中の合計14のサブインデックスについてのみ比較、平均値でスコアを算出しており、先に列挙した引用例は全て誤りであり、的を完全に外しています。
「遠因があるかもしれない」と言う主張があるならば、それを主張し用いようとする側が数値化・定量化して示すべきでしょう。しかし少なくとも編纂元のWEFはそれを謳っておらず、無関係な事象は無関係だと言う他ありません。
さらに言えば、性犯罪率とその実数、子供や女性の誘拐の実数、男性の加害性の有無、子育てや家事への参画、シングルマザーへの支援の有無等にも基づいて算出されておらず、GGIは言うなればWEFが作った物差しを使ってスコアが高いか低いかを示すだけの指数なのです。順位が高い国の女性が幸福であるとの担保も一切ありません。
では、WEFが問題視する性的差別とはどういったものでしょうか。はじめにGGGR2006(ジェンダーギャップ指数レポート2006)から健康と生存インデックスのバックグラウンドを確認しましょう。
続いて、ミッシング・ウーマン現象とは何か?
つまり、WEFが男女出生比率と健康寿命を参照しているのは、まず大枠としてミッシング・ウーマンを追跡したい意図があり、加えて戦争や内紛が絶えず銃や薬物、貧困やギャングが蔓延り、疾病や負傷者が増え、不衛生で感染症が絶えない事で下がる健康寿命を比較する事で、性的差別の有無の数値化を試みるものだと言えます。
蛇足になりますが、ミッシング・ウーマンの問題の解決を図る際に、図表の通り中国とインドを棚上げして日本に過大な要求が突きつけられるのは全くの筋違いです。これはCO2排出量削減をテーマにした際の中国に忖度するケースと同義で、問題を本質的な解決に導きません。
次に、同じくGGGR2006よりバックグラウンドの一部から抜粋、紹介します。
大変素晴らしい骨子にうっとりしてしまうところですが、GGIで重要なポイントは男女に関わらず、権利・責任・機会が平等である、と言う点です。
GGIを枕詞に女性へのエンパワーメントを叫ばんとする時、責任なき権利の平等化、もしくは結果平等に視点が移ってしまう事がしばしばあります。しかし、大元のレポートを読み解けば、経済部門・教育達成度・政治部門においてもそのバランスが主眼にあると確認できるのです。
小括すれば、GGIが示す性的差別とは、ミッシング・ウーマンの是正並びに健康寿命と教育・経済・政治各部門における男女の機会平等が達成されていない状況であると言えるのではないでしょうか。
残念ながら、GGIは多種多様に渡る国家間の文化や政治、経済を正確に数値化し比較することに成功しているとは言えず疑義がつきつけられておりますが、掲げられたその目標に大きく頷く方もいらっしゃるでしょう。
WBLが示す性的差別
Women, Business and the Law(女性の仕事と法律)は世界銀行が約190ヵ国を調査し、女性の一生涯を意識した構成で、主に法整備の有無を判断基準にしてスコアリング、ランキングしたものです。
次の8つのメインインデックスに連動した35の設問にYes/No方式で判定するシンプルなものです。
先のGGIでも「出生時診断による女児の堕胎や放置死」が、そもそも現代の日本人には馴染みが薄いのと同様に、移動、すなわち引越が制限されていると言うのは想像が難しいのではないでしょうか。さらに移動インデックスの詳細を示します。
女性が男性と同じ方法で居住地を選択できますか?
女性が男性と同じ方法で自宅の外に旅行ができますか?
女性が男性と同じ方法でパスポートを申請できますか?
女性が男性と同じ方法で国外に旅行ができますか?
続いて、他のインデックスの特徴的な箇所を抜粋します。
結婚:女性が男性と同じように世帯主になれますか?
労働:同一労働・同一賃金が法律で義務付けられていますか?
起業支援:女性は男性と同じ方法で契約書にサインできますか?
起業支援:女性は男性と同じ方法で登記できますか?
起業支援:女性は男性と同じ方法で銀行口座を開設できますか?
資産:不動産の所有権は男女平等ですか?
資産:息子や娘は親から資産を相続する権利が平等にありますか?
年金:年金一部支給で退職できるのは男女同じ年齢ですか?
年金:定年退職の年齢は男女同じ年齢ですか?
これらの項目を見ればWBLがどのようなケースを想定して性的差別であると指摘し、どのようなジェンダー平等を標榜しているのかは一目瞭然です。また、先のGGIのジェンダー平等と比べても核となる部分は一致すると読み取れると思います。
個別の事案では日本においてもこれらの項目で女性がNoと言われる事もあるでしょうし、低質なサービスしか提供できない民間企業も少なくない。しかしそれをもって日本全体がそうであるかのように、つまりは日本では女性が差別や性的搾取されており生きづらい国であると吹聴するのはいささか無理があると感じられた方も少なくないでしょう。
大変皮肉な事に、中には日本で言う3K労働に従事できるか?と言う指標まであり機会平等を求める徹底さに驚かされます。日本は残念ながら妊婦の鉱山での労働を法律で禁じており、WBLの基準では男女平等との評価を頂けませんでした(下記例)。
賃金:女性は男性と同様に危険とみなされる職業に就くことができますか?
賃金:女性は男性と同様に工業系の職業に就くことができますか?
以上から、WBLとGGIが問題視する性的差別の方向性や人権にまつわる意識は酷似している事が分かります。また同時に、これらの事案は日本では原則的にクリアされており、GGIやWBLが指す女性差別(=人権や生命を直接的に脅かすレベル)と同列に扱うべきではありません。
SDGs5が示す性的差別
ではSDGs5が掲げるジェンダー平等とはなんでしょうか。改めて大まかに確認してみましょう。
まずは本家、SDGs Goals 5 Achieve gender equality and empower all women and girlsより抜粋、引用します。
TARGETS AND INDICATORS
こうしてSDGs5を詳らかにすると、先のGGI、WBLと合わせて、これらの共通のターゲット、すなわち庇護すべき女性の生命と権利とは何かがくっきりと浮かび上がってきます。
それと同時に、決して犯してはならない女性・女児の権利侵害を性的差別や性的搾取と呼称していることも腑に落ちるのではないでしょうか。
少女や女性を軟禁状態にし労働や性奉仕を強要したり、児童婚や強制婚、人身売買を厭わず、性器の切除など非科学的な習慣で隷属させ、自宅の外へすら移動する自由がなく、パスポートを取得できず、不動産を所有出来ず、そして銀行口座の開設すらままならない。
これが世界の国々から排除されるべき性的差別であり性的搾取の概念です。
3つの文書が示す性的搾取と性的虐待
これまでの資料で、GGI、WBL、SDGs5が掲げる方向性から是正されるべき性的差別、そして性的搾取の概念はお分かり頂けたと思います。ここでは、それらが実際にどう生かされているのか3つの文書を通じてご確認頂きます。
国際援助分野における性的搾取・虐待及びセクシャルハラスメント対策のためのドナー・コミットメント
PSEAH 性的搾取・虐待・ ハラスメントからの保護 実践ハンドブック
What is Sexual Exploitation, Abuse and Harassment?
これらの文書から、UN、ILO、OECDなど国際的且つ人道的機関の職員であっても、その地位を利用した性的搾取や虐待が繰り返し行われており、それを防ぐためのドクトリンもアップデートされている事がお分かり頂けるでしょう。
このようにGGI、WBL、SDGs5が示す性的搾取と、国際的機関や組織が防ごうとしている性的搾取の概念、定義は一致します。
日本におけるSDGs5の伝播
次に、日本においてSDGs5がどのように広報されているかをご覧いただきます。
日本ユニセフ協会
日本で本家UNのSDGsを最も的確に翻訳し、広報しているのは日本ユニセフ協会のウェブサイト、SDGs Clubです。非の打ち所がありません。この中からSDGs5を引用します。
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/5-gender/
UN Women日本事務所
しかしこれが、UN Women日本事務所の手に掛かると状況は一変し、このように広報されます。
https://japan.unwomen.org/ja/news-and-events/in-focus/sdgs/sdg5
多くの方が要点を得ない解説に頭痛がしたのではないでしょうか。表題であるジェンダー平等とすべての女性と女児へのエンパワーメントばかりが目につき、問題提起を正確に理解する事を困難にしています。
好意的に受け取れば、読者に相応の知識が備わっている事を前提にしているとも言えますが、そうでない読者にとってSDGs5が標榜するジェンダー平等、エンパワーメントすべき女児や女性の定義は伝わらないでしょう。
外務省:JAPAN SDGs Action Platform
そして最たる事例が、外務省が発信するJAPAN SDGs Action PlatformのPDFに集約されています。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_pamphlet.pdf
大きく端折られたその目標は原型をとどめておらず、UN Women日本事務所が作成した資料よりも本質を外しています。この発信は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを都合良く切り取り、読み手にトレンディドラマの出演者の如くキラキラと輝く印象すら与えます。
上記、本家UNのSDGs5.1のみを拡大解釈し過ぎているのです。故意かどうかは知る由もありませんが、先に紹介した日本ユニセフ協会 - SDGs ClubのSDGs5.xと比すれば、ずいぶんと杜撰にまとめられたものだな、との印象しか持ち得ません。
この結果、ミスリードに使われる事が当たり前になったGGIと合わせて次のような主張がまかり通るようになります。
ここまでお読みになった方であればこの欺瞞に直ぐに気がつくでしょう。GGI、WBL、そしてSDGsが撲滅を求める女児や女性の生命や人権を脅かすようなレベルの性的差別や性的消費は、今の日本は見て見ぬふりが許される社会構造ではないからです。
もし「そう言えばSDGsの目標を細かく見た事がなかったかも?」と思われた方は、SDGs Clubより、1~6を一通りご覧になる事をおすすめしたいです。難解な表現は一切ありません。
なぜGGIを重用していはいけないのか
繰り返しになりますが、冒頭でGGIが示す性的差別について解説し、遠因の可能性についても否定しました(新たなエビデンスが示されればこの限りではありません)。
例えば冒頭の事例の他にも、性犯罪率や10万人当たりのレイプの件数、中絶が合法か違法か、女性や女児の誘拐の件数はどうか、周産期医療体制は整っているか、強盗の件数中女性が被害者の割合はどうか、レイプ事件をどのくらいの割合で警察が受理・捜査するかどうか、等を判断基準にしていません。
従ってGGIは、WEFと言う一団体が策定した基準、採択したデータを元に作成した指標に照らして高いか低いかを示し、順位付けをしただけのもので、その骨子に対しては一定の賛意を示せるものの、世界各国を比べて優劣を測れるような代物ではないと言えましょう。
これまで列挙したような児童や女性がいかに安全な日常生活を営めるか?と言う判断基準に立てば、誘拐事件が多過ぎるために学校の通学はスクールバスの利用や保護者の送迎が当たり前だと言う他国に比べて、日本が低い順位に甘んじるはずがないのは皆さんもご承知のはずです。
しかしそれでいて尚、日本ではジェンダーギャップ指数を重用してスコアや順位の低さを嘆き、SDGs5の表層を声高にアピールする一部の層が存在します。
今一度問いましょう。日本社会は女性は性的差別や性的搾取を容認していますか?
性的搾取の境界線
つまり、少々言い過ぎますけれども、GGI、WBL、SDGs5が標榜する社会、是正・撲滅しようという性的搾取(ないしは性的虐待)の慣習や風習は、日本にはほぼ存在しません。存在しませんと断言すると、それこそ言い過ぎになるのでもう少し噛み砕きましょう。
例えば戦争、内紛、薬物、武器、ギャング抗争などに端を発し、歴史的慣習として社会システムの中に性的搾取が脈々と組み込まれており、それが許され、咎められない環境の是正を望まれる国々。
または、国際機関職員であってもその立場や権力を利用して実行に移してしまう規範意識の低さが表面化してしまう国々が性的搾取ないしは性的虐待の是正を求められているのです。
対して、日本はこれらが表面化・事件化されれば加害者は法律によって罰せられる社会システムです。これまで摘示したような性的搾取は法律により罰せられ、また多くの国民が教育によってそれを知識として共有し、当然の社会規範として根付いています。
幸福度や生活水準が高い日本に生まれ生活をすると、生理用ナプキンが手に入らない、なぜ軽減税率が適用されないのか、夫が子育てに参画しないから妻は労働力を搾り取られている、我が子が待機児童となり妻が仕事に行けない、周囲を見渡せば肌を出したアニメや漫画の広告ばかり、ジェンダーギャップ指数が先進国最低のヘルジャパンは女性差別社会だ・・・と言いたくなるかもしれません。
しかしそれを訴える彼らの目線がそこにあるということは、女児だと判明した事で堕胎されたり出産直後や成長過程での疾病や怪我で放置されたり、児童婚や強制婚、強制労働で移動の自由を奪われたり、性器を切り取られたり、女性である事を事由にパスポートや銀行口座を持つことが出来ないと言う生命・人権問題は、日本では目に入らないくらいに希薄な存在である事を意味します。
空想のイラストから性的搾取が可能か?
ここで一つ、執筆時点の約10年前に遡り、スウェーデン漫画判決をご紹介しましょう。
下記は判決の一ヶ月前にリリースされたAFP通信の記事です。
多少皮肉を込めますけれども、既に10年前にこのような結論に至ったのが、GGIを重用する皆様が愛して止まないスウェーデン(2022GGIランキング5位)の最高裁と警察なのです。
もう一つ、オランダ(2022GGIランキング28位)の最高裁判例も見てみましょう。
うぐいすリボン - オランダ最高裁イラスト児童ポルノ事件判例
つまり、この判決からも児童ポルノ禁止の保護法益が実在の児童である事が明確に読み取れます。この判例を要約すれば、そのキャラクターが未成年または児童に見え、性的行為に関与していたとしても、それが写実的でない、電子的に加工された画像であることが直ちに明らかであるような画像は、刑法(第240b条)の範囲に含まれない、と言うものです。
念のため、実在する児童をモーフィングやレタッチ等コンピュータ・グラフィックスを使用し一見しただけでは判然としない写実的に見える画像は刑法の対象になるとも示されています。
日本でも判決までに時間を要した裁判となりましたが、結果的にはグレーゾーンギリギリを狙って超えてしまった事件がございましたので経過や判決をご存知ない方は下記からどうぞ。
「理想の人体を描きたい」CG児童ポルノ裁判の被告人が語った「聖少女」を描くワケ
モデル実在なら「CG」でも児童ポルノにあたる…「最高裁」はどんな決定をしたのか?
さて話を戻しまして、勘の良い方は山田太郎・赤松健参議院議員らが非実在児童ポルノと児童性虐待記録物(性的搾取記録物)と当該事案に対して言葉を明確に定義しようと取り組んでいる事を思い起こされたのではないでしょうか。
児童ポルノや未成年との性行為と言うテーマを議論しようとすると日本人が及び腰になりがちです。しかし、こうして定義を明確にして知識を共有していく事で何を保護法益とするのかが明確となり、あらぬ方向に議論が拡散する事を防ぐ事ができるのです。
実在する児童や未成年が、そして弱い立場にある人々(特に女性)を、権力や暴力、金銭を用いて強制的に隷属させる事が性的搾取や性的虐待であり、同時に彼らが保護法益となります。
空想のイラストの中のキャラクターには、その保護法益は適用されません。例えば、温泉に立てられた等身大ポップやスカートのシワの陰影が濃いポスター、性器があらわになっていない着衣姿のキャラクターの広告を指して性的搾取だなどと主張したり通報・告発すれば、実在する被害者の発見や保護を遅らせ、警察の捜査を混乱・妨害する事になるでしょう。
セクシャルハラスメントとドメスティックバイオレンス(SHとDV)
既に紹介した資料でセクシャルハラスメントをどう定義しているかが目に入った方もいらっしゃる事でしょうが、改めますと、性的搾取や性的虐待は被害者がサービス享受側である事に対し、セクシャルハラスメントは同僚や連携機関の職員などが被害者となるケースです。
学校内の陰湿なイジメも含めて、セクシャルハラスメントやドメスティックバイオレンスの共通点は、目を瞑ったり耳を塞ぐ事では、その加害性を簡単に遮る事が出来ない所にあります。
本来安息の空間でなければならない家庭や学校が苦痛の空間となり、家庭なら家出、学校なら教育を受ける権利の放棄、職場なら退職と、留まって戦い改善を願うにしても、その環境から逃れるにしても、どちらを取っても被害者の人生にとって大きくマイナスに傾くような究極の選択を強いるのです。
環境型セクシャルハラスメントの誤用
厚生労働省がハラスメントの類型と種類の一つとして紹介している環境型セクハラはSNS上で誤用の多い言葉の一つでもあります。
上記、本来の定義に対して、かなり多くの人が、例えば屋外看板広告であったり公共交通機関の構内広告、あるいはJR・地下鉄・バスの中などの掲示物などから感じる不快感を環境型セクハラと呼んで、誤用しているのです。
個人的には厚労省がこのような細分化をして示すまでもないし、また細分化した類型のネーミングがかえって悪影響を及ぼしているような気もしますが、言葉はその語感や印象で姿かたちを変え、いつしかメインストリームとなる事もあるので注意したいものです。例えばジェンダーギャップ指数がそうであるように。
他にも、エンジン音や排気音などの騒音を放つ二輪車や四輪車、街宣車、音声を流しながら都市部を走る広告トラック、非実在キャラクターを使用した赤十字のキャンペーン広告、時期によっては選挙カー、公園で遊ぶ子供の声、何ならパトカーや救急車のサイレンまで環境型ハラスメントと呼ばれる始末ですが、もちろんどれも定義には当てはまりません。
本や新聞を閉じたり、目をそらしたり、その場から離れる事でその不快感からリスクなく逃れる事が可能なケースまでハラスメントとは呼びませんし、実際の接触があったなら痴漢や暴行、騒音が法が定める一定の音量や時間を超えたならば騒音被害です。
転じて、例えばデモをするので公道や公園の一部を占有したいとなった場合、渋滞を引き起こしたり子供が往来できなくなる等、占有されたくない側に行動の制約を掛けたり精神的に苦痛を与えるかもしれませんが、これもその行動自体が人権侵害やハラスメントには該当しません。
自分(相手)が不快と感じたらハラスメントか
さらに環境型セクハラとコンボで使われるのが「相手が不快に感じたのであればハラスメントだ」のような言説です。
これまで取り上げたGGI、WBL、SDGsの概念からも、性的搾取と虐待、セクシャルハラスメントなどの定義・是正目標は明らかで、対象人物がハラスメントだと訴えたら直ちにそうなる訳でも、また自分が不快に感じたものを「ハラスメントを受けた」と叫べば救済措置が受けられるという性質のものでもありません。
本件については、こちらの記事が詳しいのでぜひご一読頂ければと思います。
新日本法規 - 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪(野口彩子 2019年01月17日)
公共空間の広告を環境型セクハラだと誤用し、さらに自分がそれを見て性的な琴線に触れ不快に思ったのだからセクシャルハラスメントは成立する、と言う誤った認識で自説を補強することが「いやいや、そのあなたの物言いこそ大変不快に感じたのでハラスメントですよ?」と、ハラスメントを互いに押し付け合い、被害者ポジションを奪い合うような堂々巡りに陥ってしまう事は容易に想像がつきます。
ハラスメントの定義を自由に拡大して濫用したり、ハラスメントを誤用したまま他者にラベリングし、行動に制限を掛けるような言動は慎まねばなりません。
さて「不利益と不快を感じさせられたら全て差別」「差別か否かというのは被差別者しか分からない」と言うキーワードにピンと来た方もいらっしゃるかもしれませんが、若い世代の方はご存知ないかもしれませんので、合わせて紹介させて頂きます。
法理については、勝手に敬愛している平裕介先生のいくつかのツイートが該当しますので、こちらもぜひお目通しください。
結論
以上の国際的指数や目標、スウェーデンとオランダの最高裁判決などから、性的搾取、性的虐待、セクシャルハラスメント、それらを総称する性的差別は実在する人物に限られると定義づけられます。空想のイラスト、言い換えれば非実在児童ポルノや非実在キャラクターには当てはまりません。
またセクシャルハラスメントは、被害を訴える人物の申告により認定されるものではなく、目を瞑ったり耳を塞ぐ事ではその加害性を簡単に遮る事が出来ず、人生に大きなマイナスとなるような改善か逃避かの極限の選択を強いる特性を持っており、これらを恣意的に、そして無秩序に拡大解釈して、他者にラベリングする行為は問題を複雑化し、解決から遠ざけます。
そしてGGIやSDGs5、WBLが求めるジェンダー平等は、結果平等ではなく機会平等であります。
したがって、男女共同参画基本計画がGGIやSDGsを誤って解釈し続ける限り、本計画はその目標を達成できません。それぞれに対する正しい定義を用いて男女共同参画基本計画を見直すべきと考えます。
「GGIで低順位に甘んじ是正が求められる日本」と「SDGsで女性エンパワーメントを前面に押し出す日本」の相性は抜群です。「私たちは差別されている」と架空の女性差別を訴え、制限なきエンパワーメントのおかわりを要求します。
承前の通り、先進国の中でも群を抜いた犯罪率の低さに裏打ちされた日本の平和な社会システムは、GGI、WBL、SDGsが目標とする性的搾取、性的虐待を容認しない社会構造を達成しています(実害がゼロである事を意味しません)。
したがって、ジェンダーギャップ指数の順位を上げる事に注力したり、SDGs5の達成が最重要であるかのような施策に投資しても成果は得られません。既に予算が肥大化している現状を鑑みれば、GGIやSDGs5の要件を見直し、要求分析をやり直すタイミングは遠に過ぎていると警鐘を鳴らしたいと思います。
UN Women 日本事務局について
蛇足ではありますが、本論考の副産物として、世間に華々しく露出しているSDGsにおいて、特にSDGs5が正しく伝わっていない事もお知りおき頂けたと思います。
例えば近年、海洋マイクロプラスチック削減の為に、日本がスーパーやコンビニのプラ袋を有料化して沢山のエコバッグを製造、頒布し、紙ストローの使用を推奨したり義務付ける運動がありましたが、これらが「われわれニッポンは真剣に取り組んでいますよ」とアピールする為の、軽薄で欺瞞に満ちた行動である事は誰の目から見ても明らかです。
同様にSDGs5やGGIが訴求する女性差別の撲滅と機会平等を達成しようという社会は日本には当てはまらないにも関わらず、形だけは取り組んでいる姿をアピールする為に、余りにも多額の税金が投じられているのではないでしょうか。
これまで紹介した資料から、SDGsが独特のキラキラした雰囲気を醸成しているのは、UN Women日本事務所の広報が本家UNが訴えたいジェンダー平等を正確に捉えずにいる事が一因のようにも思います。
加えて未だに真実が明らかにならない月曜日のたわわ・アンステレオタイプアライアンス問題を含めると、UN Women日本事務所の組織としての正当性に懐疑が生じる程です。
謝辞
平素より拙著noteにスキを下さり、ツイッターでいいね、RT、シェアを頂いている皆様、サポート下さっている皆様に改めてお礼申し上げます。
普段はジェンダーギャップ指数の誤謬を指摘し、男女共同参画基本計画が参照する指数から除外する事を訴えていますが、今回はその理念については部分的に認める立場で論考を進めましたので、多少歯がゆい箇所があったかもしれません。
もちろんGGI全体の構成からは、この指数を採用すべきでないのは言うまでもありませんし、小中高校においてジェンダー平等に纏わる諸問題に取り組んでいるふりをさせるような指導を大人である教諭がする事にも反対の立場です。
本noteは先月11月末、弁護士であり立憲民主党に所属する候補者であった方がツイートした誤用に着想を得て執筆を開始したものですが、「またか」と残念に思った一方、今回は膨大な数のアカウントがその誤用を指摘されており、大変心強く感じております。
11月初旬にイーロン・マスク氏がツイッター社を買収して以降、タイムラインの雰囲気が変わった事は明らかですが、この真の答えが出るのは2023年版のGGIが発表される時まで待たねばならないでしょう。
まだまだ多くの方が「GGIはジェンダー平等を測る指数だ」と勘違いをしており、これからも長く粘り強い啓蒙が必要になります。しかし、相手を罵倒や誹謗中傷で押さえつけ、話し合いを諦めさせたり排除するような言動は信頼を損ない、議論を停滞させ、解決への道を塞ぐ悪手です。
丁寧に説明し、誤解を解き、相互理解に努める姿勢こそが肝要で、より多くの味方を獲得できる近道だと信じています。
この度も長丁場の所を最後までお読み下さりありがとうございました。
出典
WEF - Global Gender Gap Index Report 2006
Wikipedia - Missing Women
Our World in Data - Number of 'missing women' in the world, 1970 to 2050
UN - SDGs Goals 5 Achieve gender equality and empower all women and girls
国際援助分野における性的搾取・虐待及びセクシャルハラスメント対策のための ドナー・コミットメント
令和2年度 外務省NGO研究会 国際協力分野における性的搾取・虐待・ハラスメントからの保護に関する世界の動向調査と、日本における取り組みに向けたガイドライン等の策定と、その普及
FCDO(元DFID) - PSEAH 性的搾取・虐待・ ハラスメントからの保護 実践ハンドブック
UNHCR - What is Sexual Exploitation, Abuse and Harassment?
ウィスラー宣言 - THE WHISTLER DECLARATION ON PROTECTION FROM SEXUAL EXPLOITATION AND ABUSE IN INTERNATIONAL ASSISTANCE
UN Women 日本支部 - 目標5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
外務省 - JAPAN SDGs Action Platform
AFP●BB News - スウェーデンで「非実在青少年」裁判、マンガ翻訳家が児童ポルノ罪に問われる
Wikipedia - スウェーデン漫画判決
うぐいすリボン - オランダ最高裁イラスト児童ポルノ事件判例
弁護士ドットコムニュース -「理想の人体を描きたい」CG児童ポルノ裁判の被告人が語った「聖少女」を描くワケ
弁護士ドットコムニュース -モデル実在なら「CG」でも児童ポルノにあたる…「最高裁」はどんな決定をしたのか?
厚生労働省 - ハラスメントの類型と種類
新日本法規 - 「相手が不快に思えばハラスメント」の大罪(野口彩子 2019年01月17日)
Wikipedia - 朝田理論
ジェンダーギャップ指数にまつわる過去記事
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