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【縁起でもない冤罪】 #782


ある集落でお祭りがあり
参加者が皆んなで食べるカレーを女性陣で作っていた

この中には後に逮捕されるヤスコも含まれていた
カレーを作っている場所はヤスコの家の庭
彼女の家は兼業農家で敷地は広い
皆で集まって作業するには丁度良い

皆楽しそうにおしゃべりをしながら人参を切ったりジャガイモの皮をむいたり
彼女は婦人会のリーダー的存在だった

「うん?
味が薄いわねぇ
ねぇ
田中さん
塩と砂糖持って来てくれる?」

「そこにあるわよ」

「ここのは使い切っちゃったのよ」

「じゃあどこにあるの?」

「納戸の奥に調味料が並んだストックがあるから
そこから持ってきて」

「分かった」

ヤスコは支持を出しつつ自らも色々と作業に当たっていた

無事にカレーも完成し昼時になった
法被姿の男性陣が帰ってきた

口々に
「ビールどこ?」
だの
「麦茶は?」
だの
「腹減った」
だの
各々好きな事を言う

祭りは集落の一大イベント
皆が一致団結するから成功するし
それが楽しみでもあった

ご飯の上にカレーをかけ
どんどん大きなテーブルの上に運ばれて行った

子供たちは我先にと集まり
大人たちは自分の嫁さんなどから手渡しで貰っていた

「やっぱカレーライスは美味いな」

「そらヤスコさんの味付けはバッチリやからな」

程なくして1人の男の子がお腹が痛いと言い出した
するとそちらこちらからも腹痛を訴える人が続出
酷い人は吐いてしまいうずくまった

その場は騒然となった

1人が急いで救急車を呼んだ
早口で大きな声で言っている

「沢山の人が腹痛を訴えているから沢山の救急車をお願い」

程なくして救急車数台とパトカーがやってきた
救急隊員は急いで腹痛を訴える者へ駆け寄り
警察官は
「どなたか責任者の方はおりますか?」

すると
「責任者の区長さんもうずくまっているので代わりに私が話を」

そう言ったのはヤスコであった
女性陣は殆どがまだカレーを食べていなかったので苦しんでいる者も少なかった

「一体何が起こったんですか?」

「はい
今日は祭りで私たち婦人会で昼食用のカレーを作って
カレーを食べたらこの様な事に…」

「作っている間に誰か味見などはしましたか?」

「はい
私がしました
味付けは私が担当しておりましたので」

「そうですか
ところでこの敷地はどなたの?」

「ここも私の家です」

「なるほど
えっと失礼ですがお名前は」

「山田と言います」

「山田さんね
では山田さん
今日は祭りで
その昼食用のカレーを山田さん宅のお庭で婦人会の皆様が作って出来上がった物を食べたら食べた人たちが体調を悪くした
で味付けの担当も山田さんであった
これでお間違えないですね」

「はい」

「味見はしてましたよね?」

「はい」

「その時に味に違和感などは無かったですか?」

「いえ
いつも通りの味でした」

「なるほど
しかも山田さんは腹痛などは無いわけですよね」

「はい全然ないです」

「分かりました
あの申し訳ないのですが
もう少し詳しく話を聞きたいので
署まで御同行願えませんか?」

「えっ!」

「いえ別に容疑者とかそう言ったものではございませんので
代表者として話を」

「分かりました」


こうしてヤスコは警察へ連れて行かれた

その後
カレーを食べた人たちの中で4人が亡くなった
他の大勢の人間は重軽症者合わせた16人にのぼった
死者が出た事によりこのニュースは全国でも報道された

警察は事件と事故の両面から捜査を開始した
調べたところカレーには致死量に達する恐れのある分量の農薬が混入しており誰がいつどのタイミングでそれを入れたのかが焦点となった

現場はヤスコの家であり
使っていた材料もヤスコ宅にある物も色々と使われていた事もあり
代表者から重要参考人へと切り替えられ取調べが始まった

しかし何度も聞いても答えは同じだった
そんな物入れる訳がないし間違える筈は無い
ヤスコの家は兼業農家なので当然農薬もある

完全にヤスコが疑われている
味見をしたにも関わらず腹痛を起こしていないのも奇妙だ
だとしたら味見をした後に誰かが
故意か故意でないかにしても投入した者が居る筈だが
他の婦人会の人にも調書を取ったのだが調味料の一切はヤスコしか触っていない

物的証拠は無いものの状況証拠によりヤスコは起訴され容疑者へと切り替わった

裁判が行われた
ヤスコの起こした事は非常に劣悪である
4人を死に追い込み63人の人間が病院に搬送され未だ回復せず後遺症に苦しむ物も5人
第一審では死刑が求刑された

その後
裁判は最高裁まで進み
彼女は死刑を宣告された


彼女は今刑務所の中におり無罪を訴えている

彼女に動機が無い
物的証拠も無い
目撃談も人によって微妙に違いその信憑性に欠ける

これは本当に殺人事件なのだろうか
もし彼女では無く別の真犯人がおりのうのうと暮らしているかもしれないし
事故の可能性も充分にある

本当に本当に犯人なのだろうか
時々警察や検察や裁判に対して疑いの目を持ってしまう自分がいる

そしてヤスコは実際に犯人では無く
無罪なのである
あの時
納戸から持ってきたそれが農薬であり
その後なぜか味見をしなかった
では取りに行った田中さんが真犯人なのか
確かに田中さんは日頃からヤスコに使われる事が多く良くは思っていなかったが
そんな大胆な事をする人間では無い
農薬の入れ物と調味料の入れ物を間違えただけなのだ
しかし事件捜査の都に農薬の容器と調味料の容器は近くにあったが
どう見ても違いは分かり間違える代物では無い
ではそもそもこの調味料の中に初めから農薬が混入していた可能性も考えられる
しかしその辺りの操作にややずさんさがあり弁護団も裁判ではそこをついたりもしていた
が結局ヤスコは無罪でありながら
死刑を宣告され
今から丁度1年前の今日
死刑は執行された


実際のあの事件もそうですが
これはあくまでも創作であり
あの事件を参考にしたに過ぎません





ほな!

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