Bouillon Chartier, 夜のパリのビストロ
ユーロスターを降り、夜のパリを少し歩いた先で向かったのが、あのBouillon Chartier(ブイヨン シャルティエ)。「パリらしさ」を感じられる、フランス語の名前がどこかおしゃれで、初めて訪れる私には少し緊張する響きもある。それでも、夜のパリのビストロというものは一度は訪れてみたいものである。
到着したのは夜の9時半ごろ。少し並んだものの、1人だったおかげか、すぐに案内される幸運に恵まれた。店内は、どこか懐かしいクラシックな雰囲気で、高い天井に大きな鏡、歴史の刻まれた空間が広がっている。観光客だけでなく地元の人々も集まる賑やかな店内には、3人組のパリジャンが楽しそうに食事をしている姿も見えた。そんな空間にいるだけで、「ああ、これがパリなんだな」と自然に思えてくる。
メニューを開き、迷わず注文したのは「ブッフ・ブルギニョン」。加えて、しっかりと味わいたかったので「ミックスサラダ」と「オニオンスープ」も頼んでみた。忙しそうに動き回るウェイターたちも気さくで、どこかエレガントさすら感じさせる。こういう人たちの働く姿も、この場所を特別にしているのだろう。
料理が届くまでの間、私は店のざわめきを感じながら、パリの空気にゆっくりと浸っていた。そして最初に出てきたのは、香ばしい香りが漂う「オニオンスープ」。深いコクのあるスープが身体を芯から温めてくれる。サラダも新鮮で、パリならではの軽やかな一品だった。
そして、ブッフ・ブルギニョンが運ばれてくる。湯気とともに広がる赤ワインの香りが、心をどこかほぐしてくれる。ナイフを使うまでもなくほろりと崩れる牛肉が口の中で溶けていく瞬間、「ああ、これを求めていたんだ」と心の中でつぶやいた。
最後に「ムース・オ・ショコラ」をひとさじすくい、口に運ぶと、ふんわり軽い食感に濃厚なチョコレートの風味が広がり、食事の締めくくりとしてまさに完璧な一品だった。甘さも絶妙で、パリの人々がデザートを大切にする理由が、少しだけわかった気がした。
注文を取ると、オーダーは専用の機器でもメモでもなく、テーブルクロスに書かれる。お客の使うテーブルに、注文したものを書き、最後はそこで計算して会計をする。
こんな光景を目にしたのは初めてだ。そりゃそうだろう。
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