【ウィキペディア】2024/9/2 企業研修
なぜ海獺が企業研修に?
2022年に「令和4年度文化庁メディア芸術連携基盤等整備推進 ウィキペディアタウン人吉球磨in熊本市」というイベントにお邪魔しました。
このnoteに記し始める前のイベントなので少し書きますと、人吉球磨には妖怪の伝説が多く残っていること、また文化庁がやっている「メディア芸術データベース」
の浸透、利用促進などを兼ねて、ウィキペディアと絡めてこんなテーマで進めました。
情報の水平展開的なアプローチも含めて、熊本ゆかりの漫画家さんや作品について課題を作成して埋めてもらうワークショップと、妖怪についての加筆を目指すという、なんとも盛りだくさんのイベントの講師役をしたわけです。
詳細な報告書があがっています。
「令和4年度 メディア芸術連携基盤等整備推進事業 実施報告書」
p139あたりから。ぜひ読んでみてください。
https://macc.bunka.go.jp/wp-content/uploads/2023/06/eddae9a45dc644229e7791eeb60bc6d4.pdf
というわけで、メディア芸術連携基盤等整備推進事業は現在はやっていないものの、この事業でお知り合いになったかたからの紹介で、都区内の某企業の研修講師役を仰せつかりました。
内容
先方からいただいた研修目的は以下のようなものでした。
ウィキペディアンのスキルを身につけ集合知可視化能力を伸ばすエディタソン
コンセプト:
・ウィキペディアンのリサーチ力・集合知可視化能力を学び実践する
・集合知形成の質を高めるために必須なスキルとは?
ご担当者様とのリアル打ち合わせのために早々にオフィスにお邪魔し、研修内容を固めていきました。
とはいっても私にできることは多くないので、釈迦に説法なところやそんなん知ってるよということが大半かもしれないなと思いつつも、共通認識を確かめる意味合いを込めて、情報リテラシーや生成AI、多様性の話も含めました。
これらは一見ウィキペディアとは関係ないように思えますが、実は多角的に物事をとらえたり、受信した情報に対する信頼性を確認する習慣をつけるようになったり、などウィキペディアを読み書きする上での基本的な考えかたに大きく結びついています。
今回の研修では、新規記事を実際に作成するまでを行い、情報がどのように作られるか、発信する側としての責任感、情報そのものの信頼性を上げるためにできることおよびそのシステム、などが、先方からの「リサーチ力、文章力、伝達力のコツを学び実践できるようになるエディタソン」という希望に合致すると考えました。
打ち合わせ前に、私は新規記事に適した題材を探しました。
当然、探し出したプロセスと、その条件なども先方と後に共有しました。
今回使用したのはグーグルマップです。
先方の企業の周辺で何かいい題材がないかと思い、グーグルマップを眺めていると、竹下通りの隣の狭い路地に名前が入っていることに気づきました。グーグルマップに通りの名前として記載されているならば、ある程度浸透した名前なのだろうと思ったのです。
「ブラームスの小径」
何ともアカデミックでアーティスティック。ハイソサエティーな香りさえします。あの喧騒の塊のような竹下通りのすぐ隣を並行に走っています。
私はこの通りについて調べました。
どうしてこの名前がついたのか、もともとなんだったのか、どれくらい浸透している名前なのか・・・。
これはもしかしたらいい題材になるぞと、私の中のウィキペディアネタセンサーが言います。
幸い、近くには渋谷区立中央図書館がありますから、打ち合わせの帰りにレファレンスをお願いしました。
1週間後にお電話をいただけるとのことで、文献についてはひとまず何とかなりそうです。
Web上の資料で使えるものをピックアップし、グーグルスプレッドシートに図書館から資料が揃ったと連絡をいただき、再び図書館に赴いて用意された資料の書誌情報をおおよその内容をメモし、グーグルスプレッドシートにまとめて、先方と共有できるようにしました。
研修当日までに、各自アカウントを作成し、出典付け練習をこなし、ブラームスの小径について、スプレッドシートに記載された資料を確認するもよし、独自で調べるも良し、現地の写真を撮っておくのもよしという形にしました。
並行して、ウィキペディアの記事として書くにはどのような要素が必要かがイメージできるように、ひな形的なものを作りました。
私から話したセクションについての内容はさておき、
結果的にものすごく素敵な記事ができました。
ウィキペディアの編集経験がある人が一人もいない状況で、新規記事を作成し、私はほとんど手を入れない状態でリリースされたこの記事は、めでたく「新着記事」に選出されました。
以下は、あまりの快挙なので、Facebookに私が当時投稿したものです、
アクセス数
新着記事に選ばれ、ウィキペディアのトップページに冒頭部分が表示されると、注目度が上がります。
9/4にはのべ1200人もの人が見に来てくれたというわけです。
先方はこの成果とともに、研修内容をとても喜んでくださいました。
事業内容については詳述しませんが本来業務に近いところで今回の研修がお役にたてるかもしれないと思っています。
外向けに
研修の中で、いかにして対象に対する情報を得ていくか、というお話をしました。
渋谷区中央図書館のレファレンスには大変お世話になりました。こちらの意図をよく理解していただけ、新聞に書かれた資料も用意してくださいました。
ここはTRCさんが入っているので、(なぜかFacebookでお友達の)TRCの偉い人に「レファレンスしてくださったHさんがとても親切でたすかりました!」とユーザーからの声をメッセンジャーでお送りしました。
それはさておき。
この企業ではこれまで図書館のレファレンスサービスを使ったことはないとのことでした。異業種に対する基本的な知識を得るには、ビジネスライブラリアンが助けてくれたりもしますよ的なこともご存じなかったです。
これは企業側の認識の問題というよりも、そういうサービスが浸透していないということも大きいのではないかと。
もちろん、ネット社会になって検索で出てくる情報の中で判断せざるを得ない場合もあるのでしょうけれども、文献や新聞などを深掘りすることによって、例えばウィキペディアで発信する側になるまでの情報を集めることができるということを、今回の研修ではわかっていただける機会になったと思うので、今後は図書館が持つ可能性にもっと注目してくださるかもしれません。
合わせてこちらの書籍を紹介しました、
伊藤民雄さんの「インターネットで文献探索 2022年版」です。
実践女子大学図書館で伊藤さんにお会いしてこの本の存在を私も知りました。ウィキペディアンにとってもバイブル的な本ですし、今回の企業にとっても非常に有効な資料になると思いました。
今後、今回の企業がどのように今回の研修経験を生かしてくださるか、とても楽しみです。
丸一日お付き合いいただいてありがとうございました。