ファイナンス(企業財務)の基本㉘:「事業価値評価に関するトピックス」を軽く紹介してみた その2
前回は、事業価値評価について「知っておくと良いかも」ということのトピックス第一弾として「リスクフリー・レート」について書きました。
今回は、「DCF法以外の事業価値評価方法」について、書いてみたいと思います。
「成長率の想定」と「マルチプル法」
これまでは、事業(企業)価値評価において、ある程度の期間について、個別年度のフリー・キャッシュフローを想定(予測B/S、予測P/L作成)して、現在価値を求める方法を、主に紹介してきました。
しかし実際には、「企業価値評価しようとするとき、その企業の予測財務諸表を作れるほどの情報を必ずしも持っていない」という状況に悩まされます。
そんなときは、足元の財務諸表からわかる「直近年度のフリー・キャッシュフロー」を土台として、そこから永久年金型、もしくは割増永久年金型で現在価値を求めていく、という方法が使えます。
永久年金型(FCF は将来も一定)を想定する場合
企業価値 = 直近年度のFCF / 割引率
割増永久年金型(FCFが将来にわたって成長率g%で伸びていく)想定する場合
企業価値 = 直近年度のFCF × (1 + g) / (割引率 - g)
※ 割引率 > gとする
永久年金型の式は、割増永久年金型においてg=0 とした場合に等しいので、上の2つは、同じこといっています。
ここで、DCF法以外の価値評価方法として、「マルチプル法」を紹介します。
マルチプル法とは
マルチプル法は、例えば、業種平均などからその企業に当てはめるべきPER(株価収益率:株価 / 一株当たり純利益)を決め、その企業の当期純利益にPERを掛けると株式価値がわかるという考え方です。
株式価値 = PER × 当期純利益(の今期予想値)
マルチプル法では、具体的には、下記のような流れで企業価値を求めます。
ます、算定しようとしている事業(企業)によく似た構造をしていて、かつ、市場で価格がついている別の事業(企業)を選ぶ
次に、この比較対象事業(企業)の市場取引価格は、それらの事業(企業)の評価のベースとなる数値の何倍に相当するかを見る
このとき見る指標としては、売上や利益、資産額などさまざま。株式時価の価値算定だと、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などがよく使われる
そして、算定対象事業(企業)のベースとなる数値に上記倍率を掛けて、算定対象の事業(もしくは対象企業の株式)の時価を求める
たとえば、A 社に対して、同業他社を比較してPER = 15倍が妥当だと決めたら、A 社の当期純利益の15倍が株式価値となります。
ここで、前述の割増永久年金型で企業価値を求める式を、株式価値について考えてみると、下記のようになります。
株式価値 = 株主にとってのCF(= 当期純利益の今期予想値) / (割引率 - g)
これより、PERは(割引率 - g)の逆数であることがわかります。
すなわち、DCF法とマルチプル法とは、本質的には同じものと考えることができます。(この点について、詳しくは「バリュエーションの教科書」に書いてありますので、そちらをご参照ください)
また、割引率は事業リスクを反映したものですので、その事業を営んでいる限り大きく動かすことは難しいです。そう考えると、成長率gがどの程度の水準かが、株式価値に大きく影響を与えると考えることができます。
この理解を通じて、個人的には「なるほど、だから(特に、投資家から資金調達する会社にとっては)成長は大切なんだな!」と納得できました。
今回は、ここまでにします。
次回は、投資家への対応について、書いていきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?