ブライダルの語源を深堀り。「エール」は「の」になった。
ビールうんちくの一つに「ブライダルの語源はブライド(花嫁)+エール」というのがある。
私は軽い言語オタクなのでこれだけでは満足できず、さらに調べてみた。
語源と言えばOxfordのオンライン辞書だ。
これだけ読むと、古英語のbrȳd(bride)とealu(ale-drinking)が組み合わさり、後期中英語の時代に「婚礼の宴(ごちそう)」という意味になった。16世紀後半にaleの部分が形容詞の接尾辞-alと混同されて「花嫁の」という形容詞になった、と理解できる。
450年頃~:brȳdとealuがイギリスで英語に
古英語(Old English)の時代は450年頃、ユトランド半島からブリテン島にきた人たちがアングロサクソン七王国を建国するところから始まり、1100年頃まで続く。
ビア検のテキストによると紀元前500年頃から一部の古代ゲルマン人たちがビールづくりをしていたとあり、すでにビールづくりは女性の仕事となっていたようなので、彼ら(彼女ら)がブリテン島にわたってビールづくりをしていたと考えるのは自然だ。
ちなみに古英語ealuがアングロ・サクソン人たちから来たことを裏付けるような記述もあった。
「"麦芽発酵による酔わせる酒" 古英語ealuは、ゲルマン祖語*aluth-(古サクソン語alo、古ノルド語öl の語源でもある)に由来する。」
デンマーク語ではビールのことをøl(ウル)というので合点。エールもウルも語源は同じ、5世紀のアングロ・サクソン人(ユトランド半島)から来ていたのか~と感動。
9世紀?:エールは婚礼の祝い酒に
ビア検のテキストには、9世紀にはイギリスでエールハウスという居酒屋が広がり、エールは婚礼の祝い酒でもあったと記載がある。
実際祝い酒になったのがいつなのかはあいまいだが、エールが結婚と結びついてきたのは9世紀頃らしい。
15世紀:brȳdとealuがくっついて「婚礼の宴」の意味に
後期中英語の時代にbrȳdとealuがくっついて「婚礼の宴(ごちそう)」の意味になったとある。
中英語の時代は1100年~1500年頃。ノルマン人たちがブリテン島にやってきてフランス語系の語彙が大量に入ってきたところから始まる。16世紀半ばにはギリシア語やラテン語起源の言葉が増え過ぎたことの反動で、元々の英語(ゲルマン語)を使おう!という英語純正運動が起きる。
また、1476年にロンドンに印刷所ができ英語の出版物が初刊行されるまでは、英語には「正しいスペル」というのは存在していなかった。方言も含め、発音に沿って記述していたそうなので、ealu以外のスペルがたくさんあった可能性が高い。
「花嫁(brȳd)」と「麦芽発酵による酔わせる酒(ealu)」がくっついて「婚礼の宴(ごちそう)」の意味になるのは直感的に納得できる。酒が宴になるイメージは、「飲み会」という日本語でも似ている。
16世紀後半:エールが形容詞に化ける
最後に、16世紀後半に形容詞化したとある。言語変化ではよくある異分析の一つだと思う。
実際はどういう発音だったのか分からないが、ブリード(brȳd)アル(ealu)みたいな感じだろうか。大母音推移の時期に重なるので、既にブリードはブライド、アルはエイルのように現在の発音になっていたかもしれない。
ブリードアル(ブライドエイル)と言われているうちに、語尾のアルが形容詞を示す-alと異分析(=勘違い)され、brid(e)+al=bridalという「婚礼の」「花嫁の」という形容詞になった。
形容詞の-alはeducational(教育の)とかnational(国の)とかの-alだ。
ここで、エールは形容詞の語尾-alに化けて意味は消えてしまう。強いて日本語で言うなら「エール」から「の」に化けたことになる。
意味としては以下のように推移している。
「花嫁」+「エール」→「婚礼の宴(ごちそう)」
「婚礼の宴(ごちそう)」→「花嫁」+「の」
ブライダルは「ブライド+エール」が語源というのは間違ってはない。しかし、エールの部分は一度「宴(ごちそう)」の意味になり、その後ただの形容詞の語尾になった、というところまで知っている人はほとんどいないのではないか。
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