<Vol.17>あんまの歴史とそもそもの問題点
先日、こんなニュースがありました。
どちらの言い分もよくわかります(非常に難しい問題です)。
セラピスト業に関わる方はきちんと知っておくべきニュースなので、今回はこれについて考えてみたいと思います。
<あんまの歴史>
内容をサクッとまとめると、
とある学校法人が視覚障害をもっていない健常者向けのマッサージコース(国家資格)を新設しようとしたら認可が下りず。それに対して国を相手に認可要求の裁判を起こした。
というものです。
争点になっているのが「あはき法:あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法」の19条についてです。
この法律には
「視覚障害者の生計に配慮するため、視覚障害者以外のための養成学校などは国の承認を必要とする」
という内容を定めた一文があります。
そもそも「あんま」という仕事は、視覚に障害をもつ人の多くが就いている職業です。
視覚が失われてしまった人は「第2の目」とも呼ばれる手の感覚が鋭敏になりやすく、その感覚をもって人の体と向き合ってきた歴史があります。
しかしながら、戦後になって視覚障害を持たないあんま指圧師が急増してしまい、視覚障害者の職が奪われかねない事例が多発しました。
そこで昭和39(1964)年、視覚障害者の経済的自立を守る目的で「あはき法」19条が制定された、という歴史があります。
そしてこの19条には、但し書きとして
「当分の間(中略)承認をしないことができる」→一定期間、健常者のあんま学校は新設NG
と書かれています。
今回の争点はまさにここなんです。
「制定からもう50年以上経っているのだから、そろそろ認可してくださいよ!」
という意見と、
「いや、まだダメです。現に視覚障害者の7割はこの仕事についているので」
という意見とでぶつかり合った、というお話です。
<これからの時代>
ちなみにこの裁判の結果は、
「視覚障害者は今もマッサージ師業に依存しており、規定の必要性は認められる」
とし、合憲判断となりました(つまり新設校を作ることはできませんでした)。
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このニュースを見て、みなさんはどう思うでしょうか…?
私は一応この業界にいる身として、認可うんぬんの問題よりも、そもそもの組織体質に疑問を感じてしまいました。
「視覚障害をもつ」という可能性は、誰にでもあります(明日はわが身の出来事です)。
だから、権利を守るということも大切だと思っています。
ただし、こういった視覚障害をもつあんま師の仕事を一番に奪っているのは、果たして本当に「健常なあんま師」なのでしょうか。
街中で「あんまのお店」を目にする機会はそう多くありません。
ましてや「今日の仕事帰りに”あんま”に行こう」という人も、ほとんど見たことがありません。
視覚障害をもつあんま師たちは、あんまの世界の中だけで権利を死守して戦うのではなく、どうやってあんまをより普及していくかを考えたほうがいいのでは?と思ってしまいます。
もし今後AI機能が大きく発達し、人をほぐすことさえ人がやらなくていい世界ができあがれば…視覚障害者であれ健常者であれ、あんまという仕事自体の価値が薄れてしまいます。
だからこそ、変化に対する柔軟さを常に持ち続けておかなければなりませんし、敵と味方を混同してはいけません。
…とはいえ、時代背景的になにかとセンシティブな問題です(問題意識を声に出すことも憚れる時代です)。
セラピストの皆さんはあんまの世界との共存をどう感じたでしょうか。
ぜひ一度考えてみてください。
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