<Vol.38>人気美容師から学んだサービス業の本質〜僕が"セラピスト"という仕事を選んだ理由〜
「髪を切ることじゃないんですよ、わたしの仕事は」
そう言われても、当時の僕にはいまひとつわかりませんでした。
でも今ならきっとわかります。
今回は「仕事」について考える(ちょっと真面目な)文章を書いてみようと思います。
<仕事の話>
「美容師の仕事って楽しいんですか?」
…なんて失礼な質問なんでしょうか。。
気が付いたらそんな質問をしていました。
当時の僕は自分のやっている”セラピスト”という仕事に、いまいち自信が持てなくて…
というよりも、サービス業そのものにいまひとつ馴染めなくてモヤモヤしていました。
美容師の「髪を切る」ということと、セラピストの「体をほぐす」ということは、本質的に似通っている職業だと思っています。
毎日同じようなルーティンで流れていく日々にちょっとした嫌気を感じていた僕は、
「美容師さんもきっと同じように感じているに違いない…!」
と半ば期待を込めて、先の質問をしていました。
僕はどこかで「仕事っていうのはそういうものなんですよ」とか「大変ですよねぇ」などの、ちょっとしたネガティブ返答を期待していたように思います。
それによって「あぁ、みんな同じなんだ」という安心感を得たいと思っていたのかもしれません。
ただその美容師さんの言葉は、良くも悪くも僕の予想を大きく上回っていました。
「美容師の仕事?とっても楽しいですよ。天職だと思ってます」
…ん?
「美容師の仕事っていうのは、髪を切ることじゃないんですよ」
…ん、ん。。?
「ヘアスタイルが整うことは、毎日の生活に潤いをもたらすことですからね。こんなに人を幸せにできる仕事はないですよ」
…どうやら僕は質問する相手を間違えたようだ(と当時の僕は思いました)。
「へぇー、すごいですね…。」
聞いているのかいないのかハッキリしない返答をして、逃げるようにお金を払ってお店から出たことを覚えています。
ただ当時のやりとりというのは、その後ずっと僕の頭の片隅に残っていて、ことあるごとに僕を小突いていました。
その言葉の真意がなんとなく理解できたのは、もっとずっと後の話です。
<銀髪のマダムさん>
「銀髪のマダム事件」と呼んでいます。
当時僕が働いていたお店は、高級マンションが立ち並ぶ住宅地の一角にひっそりと存在していました。
お客様のほとんどは収入レベルも年齢も当時の僕よりずっと高く、なんとなく居心地の悪さを感じていました。
そして、その時担当していたお客様の中に「銀髪のマダムさん」がいました。
お歳は70過ぎくらい。
華奢な体に黒いワンピースをまとい、銀髪をなびかせて闊歩するその姿はCMに登場する大物女優を連想させました。
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初めて施術をした日のこと。
僕がコミュニケーション(次回予約の提案)を取ろうとすると、
「あなたは黙ってやっていればいいの。上手いか下手かは私が判断してまた来るかどうかを決めるから」
と、ピシャリ。
おおお…。。
若干後ずさりをしながら(冷や汗かきかき)一生懸命に施術をしたところ、なんとか気に入っていただけたようで、その後は毎週末きまってお店に来てくれるようになりました。
特にコレといった会話はないのですが、なんとなく背筋が伸びるような意識で対応していたことを今でも覚えています。
そんなこんなで1年くらいが経った頃、僕の店舗異動の話が持ち上がりました。
==
銀髪のマダムさんを対応する最後の日のこと。
施術が終わった後の受付で、こんな言葉をいただきました。
「わたしは貴方に出会ってこのお店に来るようになってから、人生が変わったのよ」
え…?
「1年前のわたしは、旦那に先立たれて塞ぎがちの毎日だったの。ストレスから来る軽い鬱症状もあって」
「でも毎週末このお店に来るようになってから頭の痛みも体の不調もとれて。生活リズムを取り戻せて、わたしの人生は劇的に変わったのよ」
と小さな花束も一緒にいただきました。
どうやら人は心から感動をすると、何も言葉を発せられなくなるようです。
ただ涙だけが流れるという体験を、僕は「仕事」を通じて初めて経験しました。
<セラピストという仕事>
この「銀髪のマダム事件」は、僕のセラピストに対する価値観を大きく変えました。
セラピストという仕事は人の人生を変える力を持っている、そう心から信じることができた時、美容師さんの言葉が蘇りました。
「美容師の仕事っていうのは、髪を切ることじゃないんですよ」
「ヘアスタイルが整うことは、毎日の生活に潤いをもたらすことですからね。こんなに人を幸せにできる仕事はないですよ」
あー、なるほど、と。
これはまさにセラピストも同じことだな、と。
だから僕は「セラピストの仕事って楽しいの?」と聞かれた時、こう答えるようにしています。
「セラピストの仕事?とっても楽しいですよ。天職だと思ってます」
「セラピストの仕事っているのは、体をほぐすことじゃないんですよ」
「ラクな体を手に入れることは、毎日の生活に潤いをもたらすことですからね。こんなに人を幸せにできる仕事はないですよ」
と。
僕はこの「セラピスト」という仕事に誇りを持っています。
だからこそ、もっともっと世の中にこの仕事の素晴らしさを伝えていきたいと思っています。
「セラピストになりたい」「セラピストをやってみたい」という人が一人でも増えたらいいなぁ。
そう思いながら今日も仕事に励んでいこうと思います。
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