No.5『そこにいるのに』
思い出してはいけないモノ、撮ってはいけない写真、曲がってはいけないY字路、見てはいけないURL、剥がしてはいけないシール……読み進めるほど後悔する、13の恐怖と怪異の物語。
(河出書房新社HPより)
13のホラー短編集で、共通点は「クママリ」というクマのキャラクター。見えなくても確実に何かが「そこにいる」という圧迫感が読んでいてじわじわ迫ってきて良かった。嫌な気持ち悪さがあって、それがとても楽しい。中でも、「六年前の日記」と「痛い」が特に気持ち悪くて面白かった。
「六年前の日記」は、とある雑誌記者が娘を強盗に殺された母親のもとにインタビューに行くところから始まる。事件以来憔悴しきった母親は、娘が事件の直前まで書いていた交換日記を読むという話である。途中まではさほど怖くない話なのだが、最後の数行でゾクリとさせるオチがあって、それがとても良かった。
「痛い」は、個人的に最も好きな話だ。いたって普通のOLが、なんとなく自分の名前をインターネットで検索する、いわゆる「エゴサーチ」をしたところ、一本の動画が見つかる。その動画には、自分が駅構内でベビーカーを押す女性に罵詈雑言を浴びせるという、全く身に覚えのない映像が映っており、コメント欄には自分に対して批判が殺到していた。この日を境に、毎日毎日やってもいない自分の悪事の動画が投稿され、事はどんどん膨らんでいく…という話なのだが、これが13本の中でいちばん気持ち悪いと思う。とにかく主人公が不憫で仕方ない。文章でのデマや捏造は現実でもインターネットに腐るほどあるので分かるが、「やってもいないのに映っている自分の動画」という気持ち悪さがゾクゾクした。エゴサーチなんてするもんじゃない。
ほとんど全部の話の中で出てくるクママリについて、最後の話で伏線回収なりなんなりがあるのかなと思いながら読んでいたが、最後まで特にそれらしいものはなかった。あったらあったで説明のしすぎで面白さが半減するかもしれないので、ないぐらいがちょうどいいのかもしれない。13本目の話で、失踪した家族の真相を探るべく、犬鳴村のようないわくつきの土地に行く話があって、なんとなく「クママリの由来はこれなのかな~」みたいな展開はあるが、その話が深く掘り下げられるわけでもなかった。なんだかよくわからないままモヤを残して終わったが、いい感じに気持ち悪くて面白い。クママリ、一体なんなんだろう。
No.5『そこにいるのに』
著者:似鳥鶏/出版:河出書房新社
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