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No.8『15歳のテロリスト』

 「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。
 少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか?進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。
 事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた――。
(裏表紙より)

 『告白』や『さよなら、ニルヴァーナ』のような、少年法や少年犯罪に関する小説に興味を抱いていて、そういうのが読みたいなぁと思い手に取ったが、少し思っていたのとは違った。が、とても面白かった。メディアワークス文庫はどちらかというとライトノベル寄りな作品が多いため、少年犯罪をテーマにするとなるとどんな感じになるんだろう…と思ったが、決して軽すぎず、でも展開もスピード感もあって、気づいたら一気に読み終えていた。

 「新宿駅を爆破する」とテロ予告をした15歳の少年・渡辺篤人と、少年犯罪を取り扱う記者・安藤の視点が交互に入れ替わりながら物語は進む。始まってすぐに、渡辺篤人が過去に少年犯罪によって家族を奪われた過去や、安藤も別の少年犯罪によって恋人を奪われた過去が判明する。少年法の矛盾や弱点、進展しない捜査、加害者家族との邂逅など物語はさらに加速し、安藤、渡辺篤人、中学三年生の少女・アズサ、かつて殺人を犯した少年・灰谷ユズル、真の黒幕が一つに集まり、物語は一本の線でつながる。

 この物語は、「少年犯罪」と「憎しみ・復讐の連鎖」をテーマに、扱いにくい問題について真正面からしっかりと描かれている。加害者遺族の被害者性、世論の加害者性。また、被害者遺族の加害者性についても。少年犯罪を犯した富田ヒイロや灰谷ユズルの家族の末路が生々しく、痛々しい。また、爆破予告をした渡辺篤人は、自分の家族を奪った事件について検索してはその記事につく「無数の声」に突き動かされて復讐を計画する。「汚い罵詈雑言や温かい慰めの言葉」「事件に対する怒りの訴え」は、僕らの世界のインターネットにも溢れんばかりに存在する。安藤は恋人の命を奪った少年が働いているところを目撃し、怒りのあまり少年のその後を記事にするが、これも現実でよくあることだ。酒鬼薔薇やNEVADAの事件について等、世論はいつも少年犯罪の加害者のその後を知りたがっている。僕自身も、そういうことに関して知りたくないと言ったら嘘になる。少年法に守られた彼らは、どれだけ凶悪なことをしても「少年A」と呼ばれ、顔や名前を変えて僕らと同じ世界に生きている。その事実が、世論をますます突き動かす。

 著者・松村涼哉さんの作品は初めて読んだが、とても冷静な文章を書く方なんだなぁと思った。複雑で重々しい人間関係や心理描写、犯罪計画まで、とても冷静に描かれている。真の黒幕は、ミステリにしては分かりやすい方だが、それでもとてもリアルな引き出し方で、その冷静さが物語にリアリティさを出しているなと思う。だからこそ、15歳の小さな少年の、命を懸けたテロ行為もあっけなく、儚く終わってしまう。その儚さがとても切なく、でもリアリティがあって、少年犯罪という重いテーマであるにも関わらず読後感は決して悪いものではなかった。

 読んでいて、マスコミという仕事の業の深さを改めて感じた。マスコミは、近年インターネット上で「マスゴミ」と揶揄されることも多々あるが、本当に業が深い仕事だなぁと思った。先ほども書いたが、安藤は恋人を殺した少年のその後を記事にして全世界に発信する。最初のあたりでサラッと書かれているが、これが後々大きなポイントとなっている。まさにこの物語の分水嶺といっても過言ではない。あの記事が無かったら、こんなことにはならなかったのではないか。これは、僕らが知らないだけで現実でもきっとあるんだろうなと思うと、背中がゾクッとした。同じように、少年犯罪を犯した加害者がマスコミに追われて転々とせざるを得ないシーンというのは『さよなら、ニルヴァーナ』という小説でもあるのだが、その小説ではどちらかというと「そりゃそうだわな」と納得できる感じだった。そのため今回余計に業の深さを感じてゾクゾクッとしたのかもしれない。

 少年犯罪を犯した少年たちに共通するのがなぜか「少年法は軽い」という認識で、なんだかメディアワークス文庫でこの作品が出版された理由が少し分かった気がした。メディアワークス文庫は比較的若い人たち、きっと10代後半の人たちが読者に多い。この作品はその人たちにも読まれるべきだなと思う。

 被害者、加害者、それぞれの遺族、世論、マスコミ、メディア。いろんな声・意見がある。それぞれみんな目線が違う。大事なことは、どの目線に寄るかじゃなく、真実を知ること。犯罪を犯すことは罪で、裁きを受けて罪を償わないといけない。それは正しい。少年法は甘い、もっと厳罰化しなくてはいけない。それもきっと正しい。でもその前に、なぜ犯罪が起きたのか、「誰が本当の悪人か」、知らなければならない。それを知らなければ、加害者を罰することもできないし、被害者は納得できない。被害者に報いることはできない。少年法や犯罪について、見方が変わる作品だなと思った。

 松村涼哉さんの作品で、クラス内ヒエラルキーやいじめを取り扱った作品もあるらしいので、ぜひそっちも読んでみようと思う。

15歳のテロリスト

No.8『15歳のテロリスト』
著者:松村涼哉/出版:メディアワークス文庫

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