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No.6『毒殺魔の教室』

那由多小学校児童毒殺事件――男子児童が、クラスメイトの男子児童を教室内で毒殺した事件。加害児童は、三日後に同じ毒により服薬自殺を遂げ、動機がはっきりとしないままに事件は幕を閉じた。
そのショッキングな事件から三十年後、ある人物が当時の事件関係者たちを訪ね歩き始めた。ところが、それぞれの証言や手紙などが語る事件の詳細は、微妙にズレている……。やがて、隠されていた悪意の存在が露わになり始め、思いもよらない事実と、驚愕の真実が明かされていく。
(本書より)

 章ごとに語り手がかわっていく形式の小説は読んでいて飽きが来なくて面白いから好きだ。ある人の視点で語られていたことが、違う人の語りによって否定されたり、間違っていたと解明されたりする。ひとりひとりがそれぞれの主観で答えを持っているのが好きだ。

 インタビュアーや小説家「櫻井忍」の正体、いろんな伏線回収が中盤でなされていくのがびっくりした。しかしその分、後半になるとちょっとスピードが落ちたような、グダついた感じが少しあった。「毒殺魔の教室(第二稿)」~「再会」あたりの、「なぜヒ素でないといけなかったか」というやり取りのあたりでだいぶ読んでいて疲労してしまう感じがあった。なんども同じようなやり取りが数ページにわたって続くので、「いい加減言えやもう」と思ってしまう。

 また、プロローグの語り手である先生が、やけに重々しい口調で語っていたため、この人は相当なキーパーソンなのかもしれないと構えてしまい、その分肩透かしをくらったような気分になった。先生と主人公の繋がりとか、先生がどんな思いをしていたのかがあまりよくわからなかった。先生は甥に頼んでまで当時のことを調査しようとしているのに、その理由や動機などが全然分からなかったので、少しそこがモヤっとした。

 話の中でかなりの割合を占めるのが、当時小学6年生の語り手たちによるやり取りなのだが、これが小学生とは思えないほどに大人びている。「小学生ってこんなんだったっけ…」と思ってしまうほどに大人だ。こんな愛憎渦巻く教室絶対やだ。僕が小学生だった時は、「〇〇ちゃんが全員遊びサボってズルだ」だとか「××菌タッチ」だとか、そんないかにもガキな感じだった気がする。僕がぼっち野郎だったから気づかなかっただけだろうか。スクールカーストの描写はかなりリアルだったが、女子ってこんなに女の性を匂わせてたっけ…カースト上位男子とはいえたかが男子小学生にここまで周囲を狂わせるような、深層心理を掴むような言動ができるのか…?と、つい余計なことまで考えてしまった。

 話の最後はなんだか爽やかな感じで終わっていたが、イヤミスであることには変わりない。読み終わって、加害男児のことを考えると胸が詰まる。彼は一体どんなことを考えながら毒を飲んだんだろう。じゃんけんにわざと後出しをして、胸を触って騒いで走っていったとき、どんなことを思っていたんだろう。みんなから嫌われて除け者にされていた加害男児と、腹黒い心の底を持ち合わせながらもクラスメイトから熱狂的に支持されていた被害男児という関係が、とてもドラマチックで面白かった。

毒殺魔の教室

No.6『毒殺魔の教室』
著者:塔山郁/出版:宝島社 


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