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詳解「白の見本帳」

はじめに

「白の見本帳」は20種類の白い紙を20種類の製本方法で小さな本にした、「本の標本箱」的作品です。
2019年の第29回紙わざ大賞で入選作品となりました。ここにひとつひとつの違いを説明してみます。
(番号は便宜上のものでカウントする以外の意味はありません)

1 大和綴

大和

二つ折りにした紙の折れ山でない方の長辺側に平刀で穴を開け、平紐を通して結ぶもの。最近ではあまり目にしない製本法です。使用紙は麻紙。

2 くるみ上製本

上製本

本かがりで背を綴じ、ボール紙を表紙用紙で包んだ表紙でくるみます。いわゆる「上製本」です。使用紙はブンペル。

3 貼り合わせ製本

貼り合わせ

本文用紙を内向きの二つ折りにして、貼り合わせていくもの。絵本などによく使われる製法です。表紙まわりの仕上げは2の「くるみ上製本」と同様です。使用紙はマーメイド。

4 アコーディオン

アコーディオン

長方形の紙をいくつか筋目を入れて放射状に折り、三角形にしたものを正方形の表紙台紙に貼ってはさんだもの。理論上は正方形を繰り返し続ければひたすら長いアコーディオン状の本が作れます。分厚くなりますが。使用紙は千鳥模様がかわいいオーディス。

5 天糊雁垂れ製本

雁垂れ

二つ折りにした本文紙の「わ」の方を背にして、糊でかためて寒冷紗を貼って補強。表紙は直接背にくっつけて、長い部分を内側に折り込みます(この部分が「雁垂れ」)。使用紙はジャンフェルト。

6 一折中綴じ

一折中綴じ

1折だけの本文を直接表紙と糸綴じする本。綴じ糸は表紙の背で結ぶ、「見せる」綴じです。「折」は糸綴じ本の本文のひとまとまりを差す単位です。使用紙は新バフン紙。

7 ボタンホールステッチ

ボタン

背表紙の一部に穴を開け、穴の上下「だけ」を通して表紙に本文紙を綴じ付ける製法。名前からおわかりかと思いますがボタン穴かがりに似ています。使用紙は羊皮紙。

8 8-side zine

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いわゆる「セブンでコピー機から出力して折って作る本」です。本文紙を横にして横中央に1・縦3本の折り線を入れ、中心の横線を切り込み折り上げる。使用紙は里紙。

9 蛇腹折本

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文字通り、蛇腹状に折った紙を使う折り本です。両サイドを表紙にくっつけています。使用紙はシープスキン。

10 フランス装

フランス装

表紙の紙を仕上がり寸法より大きな紙を用意し、余分を内側へ折り込み、表紙としたもの。古くは本格的に製本する前の簡易的な表紙として使用されていた手法だそうです。今回中身は天糊で仕上げています。使用紙はコンケラー・レイド。

11 ドイツ装

ドイツ装

ドイツ装の定義としてうっすら知っているのは「背表紙と表紙が別々の紙でできている」ことなのです。今回は表紙のヒラ(いわゆる表・裏の表紙)をくるみで作り、背と見返しで接着しています。使用紙はポルカ。

12 大福帳

大福帳

近代以前の日本において、商家や武家で記録用に拵えられた、「ふくろ折りにした紙の端を糸で綴じ、外側で綴じ糸を結んだ」もの。使用紙は機械漉きの小川和紙。

13 ロングステッチ

ロングステッチ

背表紙に切れ込みを入れ、そこを通るように糸を通し、本文紙と表紙を直接縫い付ける製法。使用紙はネパールの三椏紙。

14 コデックス装

コデックス

糸綴の背中をそのまま見えるようにしたものの総称で、いろいろなパターンがありますが、今回は糸綴じした本文紙の背を糊で固め、表紙を見返しにくっつけて仕上げました。使用紙はハーフエアコットン。

15 胡蝶綴

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糸の両端に針をつけ、二つ折りにした本文紙の内側から綴じ始める、和本の技法です。閉じ終わりも本文の内側で結びます。使用紙は輸入の楮紙。

16 メモ(2点綴じ)

メモ

今回最も簡易な綴じ本。切った紙を重ねて上部の左右2点に穴を開け、スクラップブッキング用のブラッズで綴じました。使用紙は玉しき。

17 Turkish Map Fold

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正方形の紙に放射状の折り目を入れ、さらに折ってゆき、もとの面積の4分の1ほどの大きさにする。特徴としては中心から開く本。地図などに採用されていたりすることも。使用紙はタントセレクトTS-7。

18 四つ目綴じ

四つ目

和本の代表的な綴じ方です。表紙右端に4つの穴をあけ、表裏に糸を通して綴じる製法。穴が三つの「三つ目綴じ」や綴じ穴を追加して強度とデザイン性を高める「康熙綴じ」「麻の葉綴じ」など応用があります。使用紙はネパールのロクタ紙。

19 プララポルテ

プララポルテ

表紙のパーツをひとつずつ別々にとりつける製法。背表紙にはバイアステープ状の帯を作って付けてみました。テープの間に背の綴じ糸が覗いています。使用紙は楮紙。

20 コプティック

コプティック

糸綴じの一種で表紙と本文紙も糸で綴じ合わせるもの。綴じ方の特徴としては前の折の糸をくぐってすくい上げていること。(こちらの本のみ使用紙が正体不明です…)

おわりに

今回の作品は紙の多様さ・製本の多様さを知っていただきたい、というコンセプトで製作しました。
すべて色でいえば「白い」紙ですが、その表情は実に多様で、本の形というものも、とても多彩で楽しいものです。
近年は一般に流通する本にもコデックス装やドイツ装が見られるなあ、と個人的に注目しています。
今回の試みが少しでも紙や本の魅力を考えるきっかけになったら幸いです。

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