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わたしの口に刺身が届くまで

2006年の暮れ、祖母が自分で咀嚼ができなくなって、点滴になって3日で逝ってしまったことをきっかけに、「わたしの口に刺身が届くまで」と言う授業をやっています。

【授業の進め方】

①5人1グループで「私の口に刺身が届くまで」を模造紙(1091mm×788mm)に、図解。
②各グループごとに、描いた図を発表。
③一人ずつ、気になったことを調べてみる。
④気づいたこと、みんなに伝えたいことを表現する。

同じ出発点から、同じ教室の一人ひとりの気になることがこうも違うのか?と言うことに、私も学生も驚きます。デザイン学校なので、それぞれの「なんで?」を見える形にします。毎年、面白いので、ここで紹介していこうと思います。

◎もう少し、詳しく話します。

父方の祖母は、101歳で亡くなった。
富士市の浜のほうの出身で、口がわるかった祖母は入院中、看護師さんが寄って来るだけで「いてゃーっ!(痛い)」と言うし、「こんなまじいもん食えねぇ」と、病院のご飯を吐き出した。そんな彼女が自分の口で食べられなくなり、点滴になったとたん、3日で逝ってしまった。噛んで食べることの大切さを思い知った。

何をやるにしたって、生きてなければ、できることがない。

自分の口に入れるものがどこから来てどこで加工されているのか、その生い立ちを知らないまま育ってきた。歴史や地理、理科の授業で習うことは生活と関係なくはなかったろうけど、日々の営みへつなげて考える授業はあっただろうか。

そうしてどこへ向かうかわからないまま、「わたしの口に刺身が届くまで」と言う授業をデザイン専門学校の1年生と始めた。

5人1組で話し合って、模造紙に「私の口に刺身が届くまで」を図解する。8年くらい前から、魚がセックスをしている。5人いて、誰も疑問に思わない(翌週、そういう魚もいると調べてきた子もいた)。たいていは、釣竿で魚を釣っている絵を描く。魚網での漁を描くグループに、「どこの海なの?」「遠いの?」「船にどれくらい乗ってるの?その間、魚はどうやって保管するの?」「その船の燃料は何?」と聞くとわからない。魚市場に来てからは、急に想像力が働くのか、競りをするひと、競り落とす人、店まで魚をトラックで運ぶ人、スーパーでは、切る人、パックする人、と細かな作業が描かれる。ところが、刺身を食べるのにお金を払うのは、毎年1グループだけ。今のお父さんは、マンモスを背負って帰って来ない。給料は現金でなく、多くは振込だけど、刺身を食べるにはお金を払う。
「海で魚を釣って、海に100円投げないよね?じゃ、価値って何?値段て何だろ?」と聞くと、「人件費」と即答する。「じゃあ、わたしが切った刺身と板前さんの切った刺身は何が違うの?」と尋ねると「技術…?」と答える。アタマで知っいてることだ。

目の前にある食べ物が自分の口に入るまでどうやってここに今、在るのか知ろうとすると、いろんなことが見えて来る。

水がただのようにジャージャー使ってたけど、電気を使わないと水は家に来ないの?と気づく子もいれば、刑務所の食事は素晴らしい栄養バランスで美味しいそう!と、各刑務所の人気メニューを出す食堂の提案をする子も出た。日本人には海藻を分解する菌がお腹にいると初めて知って、チョコとコーヒーばかり食べてることを反省したり。日本の食物自給率を調べたら39%。100%自給できるのは、フキやせりのような草みたいなものでこれじゃ勝てない。。と言う子もいた。この「勝てない」は、戦争が起きたら肉を食べてる国の人には敵わないと言う意味で実際、もし兵糧攻めにあったら、日本は最新兵器より先に多くの人が餓死すると思う。
何やるったって、身体あってのことなのに、「生きるために、食べてない」なんて言う学生もいた。

それぞれの「?」を見える形にします。

印象深かった作品を1つ紹介します。
Aさんは、財布の中からレシートの束を出して見せた。TSUTAYAやコンビニのレシート、そして自分が生まれた日のレシート。そこにはその年の流行語大賞を使った「オバタリアンのあったかほか弁好評発売中!」と広告コピーがあって、金額は0円。1年後の日付には、4人家族1年分の食費。5歳のレシートには、5年分の家族の食費に「初めてのお泊り priceless(プライスレス)」と記され、18歳の誕生日のレシートには、家族4人18年分の食費が記されていた。

乱暴な授業で、私はついこないだまで高校生だった学生に「もし、自分一人で生きてると思うなら、火星でもどこでも行って水を掘り当てるとこからやって。」と言う。

学生たちが18歳なりに考えた作品をたくさんの人に見てほしくてここで紹介していきたいと思います。

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