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【R18G】苗床

 皮膚の下の虫達が騒ぐ音がする。私はどこか他人事のように、その後に来る逃れることの出来ない苦痛を予感していた。じわり、汗が滲み毛穴の開く音がした気さえする。今この脳味噌が自分のものである確証すらない。人間らしさ、というものは呆気ないものだ、とぼんやり考えていると、つま先からさざなみのように痒みと、肉を啄まれる感触が押し寄せてくる。瞬く間につむじまで昇った虫のざわめきは、私の脳の容量をあっという間にパンクさせるほどの苦痛をもたらしたはずだが、こうやってそれを眺めているかのような冷静さは、やはり脳に私以外の何かが巣食っているのだろう。ばつん、と電気が消える錯覚の後、ここに光など一筋もないという事を思い出す。私は、ミミズに似た生物の巣にいた。

 巣の中へ入った記憶は当たり前になかった。目が覚めたら、この人肌の蟲の群れの中にいたのだ。台風の日のすし詰めの電車に乗る人間が、全員裸ならばこういった感覚なのだろう、と思った。生物には所々に小さな硬い歯があり、うぶ毛が生えている。それらが、私の身体に少しずつ巻き付き、穴という穴へ入ってきたのだ。みしみしと穴をこじ開け、断裂させ、しかしその痛みは鈍く、口の中に入っている生物の表皮を確かめるように舐めてみると、常にどこか合成甘味料を思わせる味の液体が滲み出ていた。恐らくは毒を持つ何かなのだろう、と察することができた。舐めた拍子に暴れだす生物が内臓を揺らす感覚で、その生物は口から肛門まで貫通している事も。

 もはや自分の身体がどの程度残っているかもわからない。聴覚は残っているのか、ぐちゃぐちゃ、ごぽごぽ、という音が辺りから聞こえる。手足と思われる部分に、先端が岩のように硬く、他より歪な形のものが複数這って回る感覚が、皮膚を通して伝わってくる。ずいぶんと遠回りをしながら、その硬い何かは、膣にたどり着いた。めり込み、そして、勢いよく発射された塊は腹を内側から殴り付けた。塊の鋭利な部分が内臓を傷付けたのだろう。一瞬遅れて、通り道から血が溢れる感覚と、焼けるような痛みがさらに襲い来る。次々と容赦なく射出される塊は、ごっ、ごっ、と身体の中でぶつかり合い、時々砕け、その破片がまた肉を傷付けている。毒がなければ、ショック死していたかもしれない。自分のものか確証のない身体を目一杯に暴れさせその痛みから逃れようとするが、串刺しになった身体では無駄な抵抗に終わった。

それが終わると、追い討ちを掛けるように別の個体が穴に入り、ぶちゅぶちゅと中に何かを吐き出した。その液体は塊同士の隙間を埋め、更に腹を破裂させん程に注ぎ込まれ、ある種の緩衝材となり、岩肌が内臓から離れ、また、割れた塊を押し流していき、幾分か痛みが減ったように思う。重い腹に向いていた意識は、しかし、乳首をずたずたに突き刺す針状の痛みで次の苦痛へと導かれた。たちまち乳房が腫れ上がり、付け根にぎちぎちと生物が絡まって、乳房をねじり上げられる。絶叫、否、小さくくぐもった声をあげたが、誰にも届かないだろう。乳房の先からは、血でも母乳でもない、細く長い、自立して動く何かが噴き出し、垂れ下がった。毛束のようにざわざわと揺れる何かが溢れ続け、私を雁字搦めにする生物の隙間を埋め尽くすように身体を這い回り、更に体内へと侵入していった。

 それぞれの生物が落ち着くところに落ち着いて、数瞬の静寂が訪れた。それから、丸く膨れ上がった腹に、異変が起こり始めた。ばき、めき、と卵が孵る感触がする。びちびちと何かが暴れ始める。暴れる何かは腹を突き破らんと内臓を殴り、蹴り、膨張し続けた。いくつもの長い生物が、胸の下から腹の方へ何重にも巻き付いていく。そして、上から順に締め付けていき、その力はあっさりと、私の腹の中にある何かを絞り出していった。何か、はどうやら私の遺伝子を有しているらしい。ヒト型、しかし赤ん坊のものとは思えない筋張った手は乳房を掴み、乳首から垂れ下がる何かをおもちゃのように引き抜いていく。ゲラゲラと何十もの笑い声が響き渡る。どうやらこの生物の赤ん坊の産声は、笑い声のようだ。母になった私は、再び卵が腹の中へ産み付けられるのを感じながら眠りについた。低く下品な笑い声に、、と安心感を抱きながら。

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