創作小説『やせたいオトコノコ。』 第1話 愚行の末
「痩せれば何でも上手くいくんじゃなかったの・・・!?」
これは、痩せたいと願った一青年と彼の周りの人々をとりまくヒューマンドラマである。彼が自分の体重や体型と向き合って得られたものとは一体―――
※今回の投稿には登場人物が特定の体型の方を非難する場面がございますが、私自身はそのような方を非難しているわけではありません。ご了承ください。
「てかうち、アイツに限らずデブ嫌いなんだよね笑」
「そっか、確かに見た目も大事だけどそれ以上に中身も大事って言わない?」
「まぁ仮にそうだとしてもさ、デブって結局みんな甘えじゃん?つまりそういうことだよ」
「確かに私もアイツに嫌な思いさせられたことあるからアイツのこと嫌いになるのはわかるけど、太ってる人って太りたくてそうなってる訳じゃないと思うんだ」
「それはわかってる。でもうちの推しだって少しでも太ったらダメだって言われて食事制限もトレーニングも死ぬほど頑張ったから今があるわけだし、そもそもデブには人権がないんだよ!」
「あぁもうそういう太ってる人が絶対悪いみたいな考え方ほんとイライラする!!好きなことも一緒でせっかく仲良くなれたと思ってたのに悲しいよ!」
そして、その日のうちに彼女たちの友達関係とおぼしきものは、刹那のうちに終止符を打たれ、あっけなく砕け散った。
時は遡ること4月某日。春休みが明けて新学期初めての登校日。
自宅の洗面所の鏡の前で絶望しているのは一人の青年だった。
青年の名は横宮晴太郎。真海高校の3年生。
ところで彼が何に絶望しているか気になって気になって仕方がないという読者がいたら申し訳ないので言わせてもらうが、何を隠そう、彼は太ってしまい、制服が着られなくなってしまったのだ。
ブレザーやセーター、それにワイシャツは胸や腹がピチピチ、スラックスはベルトをつけないといけないが、最大限緩めてもきつかった。ネクタイを締めても以前に増して苦しいばかりだ。
鏡に映るのはブクブクと肥えた身体に立派な二重アゴ。
そんな中、彼は自分の部屋から学校指定のジャージを引っ張り出し、着た。学校名にもある「海」を連想させるかのような青系の色を基調としたジャージ。
以前とは違いなんとも窮屈な印象を受けたが、今は学校に着て行けるものはこれしかない。
実際のところ、特別な事情がない限りジャージ登校は許されておらず、するとしても事前に担任の許可が必要だ。しかし、太ってしまったので、と自分で言うのは情けないし悔しいから、なんとか口実を作って学校に着いたら新しい担任の先生に言いに行かなくては。
どんよりとした気分の中、彼はマスクをつけた。マスクは去年の冬にクラスでインフルエンザが流行った時に予防としてつけたっきり、久しくつけてはいなかった。
マスクのゴム紐に顔の肉が食い込み、彼を落ち込ませた。しかし密かに気にしていた二重アゴが隠れるという点でちょっとラッキーに感じた。
ここで彼が太る羽目になった経歴を説明しよう。
彼はもともと身体が細くどちらかというと華奢なほうだった。また中学時代はバレーボール部でそこそこハードなトレーニングを行っていたものの、筋肉がつきづらい体質に悩んでいたこともあり、また脂肪もそれほどつきやすくはないということも重なり特に腕や脚は折れるのではというほどだった。
ここまで聞くと太ることとは一切無縁に思えるかもしれない。そしてその前に彼が太った原因の全てが今回の春休みにあるわけではないということも加筆させてもらおう。
そんな彼が足を踏み外してしまったのは高1の夏。楽しそうだという理由でクラスの友達と入部した硬式テニス部をわずか数か月で退部したことが始まりだ。
顧問や他の部員にはバイトをしたくて退部したと思われていた(実際退部するときにはそう言ったらしい)。だがそれは表向きの理由で、実のところは部活が毎日のようにあることで大好きなゲームが思う存分できなかったのが苦だったから退部したのだという。
そうしてバイトなどそっちのけでゲーム三昧の日々が続き、学校帰りには通学路にあるコンビニでの買い食いにハマる。
中でも、いかにもやみつきになること間違いなしといえる旨みの効いたホクホクのコロッケは一番のお気に入りになった。
そうこうしているうちに学年も上がり、買い食いの癖が高じて金欠になることも増えた。また、大好きなゲームをしたいがために友達との遊びを断ることも度々あった。
高2の冬頃には入学当初から体の横幅が1.5倍ほどになった。これは久々に会った友達がびっくりしてしまうほどの変貌ぶりだった。
やがて心も荒み、いくばくかの妬みや憎悪が積み重なった結果、周囲の女子の悪口を言い始めるようになると、小学校以来の幼馴染である市島弘海やクラスで行動を共にしてきたグループの仲間に縁を切られた。
直後に春休みに突入していわゆるゲーム廃人になり、家族ともうまくいかなくなった。
友達にも見捨てられ家族との折り合いも悪くなった彼はさらに暴食に走った。言わずもがな、体重の増加に拍車がかかった。
このままじゃだめだ、と思う彼自身も心の中にいた。
だが実際問題自分のことがほとんどどうでもよくなっていた彼にとっては、すべてを捨てて怠惰な生活に身を任せて思うがままに食べて寝ることを繰り返すのは、心地がよく楽だった・・・
~筆者談~
ついに第1話公開です!!読んでくださった方、ありがとうございます!!イエーイ✌️✌️
もうすでにお気づきになられた方もいるかもしれませんが、冒頭部分はこの小説の一登場人物のモデルと私の某SNSのDMでのトーク内容を元にしています(その登場人物が誰なのかは各自のご想像にお任せします!)。
前書きでも述べたとおり、私はその方も含めどのモデルの敵でも味方でもありませんが、まだまだ太っている人に対して厳しいと思うような言動をふとしたところで見かけ、その度に心を痛めることがあります(「太っている」の基準も厳しいですよね・・・いわゆる「肥満」ではない方でもデブだデブだなどと言われ叩かれていることすら未だにありますし。それに薬の副作用で太りやすくなるなど、「甘え」とか「怠惰」では片づけられてはいけない理由がたくさんあると思っています)。
ところで、お伝えするのがだいぶ遅くなりましたが、これから小説の最後に「筆者談」として私のちょっとした持論や小説の内容に対するツッコミなどを書き連ねようかと思います。そちらも読んでいただけると幸いです!
それでは、明日もお楽しみに!!
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