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創作小説『やせたいオトコノコ。』 第7話 だから僕は減量をやめた

2年6組での集合写真撮影に誘われなかったのは自分が太ったからだと思い込み、一時は過激な食事制限や運動に走った晴太郎。たまたまかつてのクラスメイト・碧羽に遭遇するも・・・



 その後、晴太郎は痩せることにこだわったがために失ったものに気づいた。
 確かに25kgもの減量で長い間悩みの種だった二重アゴや顔の肉もいつの間にか消え去り、マスクをしなくても外に出られるようになった。多少筋肉もつき、ジャージを着てもさほど窮屈さは感じられなくなり制服も着られるようになった。また彼の体型をからかう者もいなくなった。
 それはそれで彼にとってはいいとしても、彼は心の豊かさを失い、痩せてはいけない『心』まですっかり痩せこけてしまったのだ。

 思い起こせば、減量を始めてから(とりわけ体育祭明けは)食事も素直に楽しめていなかった。ファストフードや甘いものなどを『食べてはいけないもの』だと自ら決めていた。本来大嫌いなはずだったトマトを無理やり大好物だと暗示をかけていた。
 減量という魔物の餌食になっていたせいで、クラスの友達から「今日の放課後マック行かない?」などと誘われても、「ダイエットしてるから無理」の一言で断ってしまっていた。すると友達は「充分痩せてるのにつまらないやつだな」とため息をついたが、晴太郎にはその言葉は響かず、むしろ他の人がそういう風に間食している隙に痩せられるせっかくのチャンスだ、といつの間にか何も関係ない他人と自分を比較するようになってしまっていたのだった。
 また彼は中学時代にバレーボールに打ち込み、高校でも一瞬硬式テニス部に所属するほど運動も好きだったのにここのところは『しなくてはいけないもの』と捉えていた。毎日鉢巻までつけてストイックにランニングしていたものの、実はその時間が来るたびに憂鬱になり、追い込まれていたというのも事実だった。
 食べることを楽しむ彼自身も、体を動かすことに純粋に喜びを見出す彼自身も、いつしかいなくなってしまっていた。なんて馬鹿なことをしたんだ、と嘆いた。

 それからというものの、彼は面接練習に精を出した。趣味を聞かれた際にダイエットです、と言いかけるのをなんとか抑え、カラオケで歌うことやスポーツをすることなど、他のことを答えた。受験当日も全力でやり切った彼は、ついにダイエットを辞めるという決断を下した。そこで夏に作ったインスタの「ダイエット垢」もひっそりと消した(結局、フォロワーは藍斗と蒼志の2人だけだったが・・・)。しばらく封印していたコロッケも解禁し、学校の帰りにチーム登下校の3人と共に久しぶりにぱくついた。
 また、級友から「放課後マック行かん?あ、でもダイエット中か・・・」と聞かれた時は「あぁ、もう辞めたんだ。しかもこの間出た新メニュー食べたいから行こう!」と答え、みんなで楽しい放課後を過ごした。
 些細な高校生活の一コマではあるが、それが彼らにとってはいい思い出となった。気づけば晴太郎をハブったかつてのクラスメイトたちのことを思い出して憎むことも減った。

 そして晴太郎の18歳の誕生日が来た。その一週間後には志望校に合格したという嬉しいニュースも。友達や家族に盛大に祝福された。フライドチキンと大好物のティラミスをたらふく食べた。空をはじめとする級友はお菓子パーティーのサプライズで祝った。
 ここまで来ると食べてばかりだ、と思われるが、チーム登下校の2人は誕生日祝いと受験合格祝いを兼ねて、おしゃれな服をプレゼントした。ジャストサイズのその服が大変気に入ったため、制服の二の舞を踏んで着られなくならないように、と適度に筋トレをするようになった。受験を終えた級友とも近所の体育館でバレーやバスケを楽しむようになった。運動は楽しい!と再び心から思うようになった。

 またこの良き友達からのプレゼントをきっかけに、晴太郎は少々おしゃれに目覚めるようになった。手先が不器用でもできるような簡単なヘアセットを練習し、身長が決して高くない彼に似合う服を探した。
 おしゃれをする周囲の人間を横目にそんな奴はみんな異性狙いだ、という根拠のない考えを貫いて避けて通ってきた彼ではあったが、おしゃれをして褒められると嬉しい気持ちになった。
 あれから若干体重は増えたが、彼の心の豊かさは減量中に比べれば一目瞭然だった。

 冬休みが明けて数回登校し、家庭学習期間に入ってからはチーム登下校での遊びも楽しんだ。ラーメンを食べたり映画を観たり、お揃いのピアスも買った。
 蒼志が就職のために3月の半ばには引っ越さなければならず、藍斗も新年度が始まれば留学の準備で多忙になるため、2月に3人で卒業旅行に行った。1泊2日の日程で、プールや温泉、ボウリングなどを楽しんだのに加え、かつて痩せることに囚われていた晴太郎の姿からは考えられないほど海の幸やスイーツをたっぷり堪能した。

 やがて彼らは高校を卒業した。晴太郎はこの学年になってからは特に波乱万丈だったがなんとかクラスにも馴染むことができ、チーム登下校の藍斗、そして蒼志との仲も深まったことから、笑顔で高校を巣立った。
 またしばらくして、晴太郎がかつて女子の悪口を言っていたことがきっかけで絶縁していた弘海と一年越しの仲直りを果たした。
 絶縁して以来、弘海はかねてから目指していた地元で一番頭のいい大学に入学しようと今まで以上に勉強に専念していたが、惜しくも合格には手が届かなかった。だが彼は一切挫けていないようで、もう一年頑張ると意気込んでいた。晴太郎はもちろん応援した。
 また晴太郎の姉は短大を卒業し晴れて社会人となり、彼より一足先に横宮家を後にした。妹はもうじき中学3年生、受験生になることもあって勉強にも本腰を入れ、また所属するバスケ部の最後の大会へ向けて部活も頑張りたいと気を引き締めていた。
 蒼志はついに生まれ育った青峰あおみねの町を離れ、3月の下旬には晴太郎も隣の市にある大学の近くのアパートでの一人暮らしが始まった。ここまででチーム登下校の中で残ったのは藍斗のみとなったが、これからは留学の準備や勉強でもっと多忙になり、数か月後には彼も町を出ることになる。それでも3人は輝かしい思い出を胸に頑張っていくだろう。

 月日は流れ夏が目前に迫った。そんなある日、大学の授業やバイト、教習所通いに励む晴太郎のもとに一件の電話が。彼の母校である真海高校からで、用件は、1年生の総合学習で体型や減量に囚われることの危険性についての出前授業をしてほしいとのことだった。晴太郎の在学中にも出前授業は年に数回ほどにあったが、それらをテーマにしたものではなかった。
 今回減量をテーマにした出前授業を行う理由は、身体測定で一年間の体重の減少が顕著な生徒が年々増え、また保健の授業で実施したアンケートの結果からも痩身願望の強い生徒が多いとわかったからだという。彼は笑顔で引き受けた。

 何を隠そう、彼は高校卒業後まもなくして、Youtubeに動画を投稿することで「ダイエット依存」の危険性を訴えるという活動をしているのだ。
 ではなぜこの活動が母校にまで広がったのか。それは、彼自身が本名で活動を行い、動画の中でも顔を出しているからだ。しかしそれは理由の一部にすぎない。
 その真相は、彼の動画を見た藍斗がインスタのストーリーを使ってその感想を述べ、そして晴太郎の活動やその経緯について紹介したことがきっかけだ。人脈の広い藍斗のインスタのフォロワーには中高の知り合いはもちろん、中には真海高校の先生も何人かいて、たまたま先生の一人がそのストーリーとリンク先の動画を見て、感銘を受けたのだった。

 そして迎えた出前授業の日。
 大学の授業を午前中に済ませ、一度家まで帰って昼食を食べた晴太郎は大学の入学式以来の慣れないスーツを身にまとった。最寄り駅まで十数分歩き、隣の市の終着駅までの切符を買った。
 30分ほど電車に揺られた後、真海高校へ向かうバスに乗った。駅から目的地までの乗車時間は約1時間。彼は幾多もの高校時代の思い出にふけりながら窓の外の景色を見ていた。
 一言では表現しがたい、懐かしさのような感情。
 青春の一コマの舞台が、どんどん近づいて大きくなっていく―――



〜筆者談〜

 あっという間に最終話まで突入していました・・・!時間の流れは早いこと、第1話の投稿からたったの1か月しか経過してませんでした笑

 私は特別減量をしたことはないので言及すべきではないのかもしれませんが、減量中って自分では普通だと思っていても客観視すると心配されたり疑問を抱かれても無理のない言動に走っているなんてこと、結構あるようですね、、
 私も「こんなデブな私にオシャレする権利なんてない(※実際はそんなことないのに)」とか、自分の体型を気にしすぎるあまり「あの人太ってるよね」とか特定の人の特徴を表す時に何の躊躇もなく「太ってる」など体型にまつわるマイナスなワードを使いがちな人をたまに見かけます。第4話の晴太郎のように痩せたいがために本当は好きな食べ物のことを嫌いだと偽っている人も見たことがあります😢

 また、私は大学で栄養学を専攻していることもあり、無理な減量で心身を病んでしまったり辛い思いをしてしまった方の存在もよく耳にします。
 そしてこの小説の元となった話もあってか、親しい友人が減量を始めようと決めた時はもちろん応援はしますが、そこに「無理しないでね」という言葉を付け加えています。向こうからしてみれば私は「ダイエットお節介BBA」に映っているのかもしれないのですが(笑)。やはり上述のような方の話を聞いてきた身からすればこれ以上苦しむ方が増えないでほしいと思ってしまうので「頑張れ」や「応援するよ!」より「無理しないでね」が先行してしまいます・・・💧

 この最終回の晴太郎から、減量中の彼は本当に心が痩せてしまっていたのだと痛感します。
 ストイックに頑張るのはそれだけで素晴らしいことですが、やはり無理をすると心身を壊してしまいますし、そう簡単に元に戻る訳ではありません。
 減量を辞めてから晴太郎は簡単なヘアセットを覚えたり身長がさほど高くなくても似合う服を探してお洒落を楽しんだり、体型維持のための筋トレをして自分磨きに勤しんでいます。そんな姿を見ていると「自分磨き」もそれに含まれることの多いダイエットも無理や我慢をしたり無個性を演じるのではなく工夫をすることが成功への鍵だと思えます。SNSなどで「垢抜けるためには○○を使うべき!」なんて謳っているのを見かけることもありますが、何が似合うとか何が自分らしく魅せられるのかは人それぞれですからね☺️

 また、この最終話本編とその筆者談では「ダイエット」という言葉をあまり使わず、サブタイトルにもある通り「減量」という言葉を多く使うようにしました。
 というのも「ダイエット」は広義には「痩せること」の意味でとられていて、一般的にもその意味でよく使われる言葉ですが、本来は食事療法のことを指しており、それには痩せるためのものも含まれている一方で体重を増やすためのものも含まれています。
「減量」は文字通り体重を減らすことで、手段としては前述の食事療法も含まれていますが、運動だったり生活リズムの見直しだったりと厳密には手段は問いません。なので晴太郎がしていたことはこの「減量」に近いと判断できるので最後にこの言葉を多く使いました。両者の違いを理解できるきっかけになれば嬉しいです。

 伝えたいことは山々ですがここではピックアップしてお伝えしています。
 後日投稿される後書きでは特に伝えたいことをお伝えします!!お待ちください🙇‍♀️

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