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エレファントインザルーム

停車する駅の間隔がまだらな電車に揺られながら、夢と現の境界がはっきりしないまま、かろうじてこちら側に意識をとどめている。昨日同僚と飲んだ酒が残っていて、電車の揺れが強くなると、首の後ろからウィスキーのにおいがする気がした。夢心地から急にはっとここが電車の中であるのを意識したところで、灯が視線の端を手元の本から少しこちらに渡したのが分かった。 車内の空調に当たって冷たくなった左手が四角い景色からさす光にさらされている。指の付け根をなでると、少しゆとりのあるプラチナの台に楚々と並

    • エレファントインザルーム(4)

      「悪いね、お疲れのところ。」 見慣れた部屋のドアを開けると、額に冷えピタを貼った灯がベッドの中からのそのそ出てくるところだった。終業間際に灯からのメッセージを開くと、風邪をこじらせて寝込んでいるため、何か適当に届けてほしいということだったので、薬局で薬とお腹に入れるものを買ってきたのだ。 「ううん、熱が高そうだね、大丈夫?」 「久々に39度まで出た。外せないミーティングだけ出て、後はずっと寝てたけど、夕方から熱上がってきたみたい。」 床に放りだされたノートパソコンからは、しき

      • エレファントインザルーム(3)

        夏休みに入ってすぐの夕暮れの河川敷は、例年の通り多くの人でごったえがえしている。その日は冷夏と言われているにしては昼に上がった気温がなかなか下がらずに、川沿いに茂った草が水分をおびて、土の匂いを放っている。その中をかき分けるようにして皆思い思いにシートを広げて足を投げ出し、花火が打ち上がる方向を眺めている。 「紗枝ちゃん、綿あめがあるよ。買ってきてあげようか。」 「うーん、綿あめ、、」 浩太くんは黄色い天幕に綿あめと書かれた屋台を、先ほどとった水ヨーヨーをぶら下げた指で指さし

        • エレファントインザルーム(2)

          灯台の駐車場は、家族連れやカップルでにぎわっていて、つれられた小型犬同士がキャンキャンと吠えあう声があちこちで聞こえる。 その間を抜けるように遠くで波が岩を打ち付ける音がしていて、私たちはその中を売店で買ったソフトクリームをなめながら歩いた。 少し前を5歳くらいの女の子が父親に手を引かれ歩いている。熱くなって湿気を帯びた細かい砂利が敷かれた地面との距離が近いからか丸い頬が赤らんで、半ば父親の太ももに寄りかかるようにして歩 いている。耳の上で愛らしいプラゴムで結ばれたツインテー

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