第78回 『オデュッセイア』11歌その1
さて、冥界の地まで辿り着いたオデュは、まず穴を掘りそこの乳と蜜(ミルク&ハニー!)と酒と水を混ぜたものをふりかける。これは死者たちの供養だと魔女に教えてもらったこと。
その後もオスメスの羊を生贄にするとかなんとか、メモをとる紙も筆もないのによく覚えられたなと思えるほど、複雑怪奇な指示を仰いでいるオデュ一行。きっと何人かで手分けして覚えたのだろう。
そこへ死者つまり幽霊がうようよ集まってくる。
最初に現れたのはエルペノル。エルペノルはオデュの部下だった男。さっき酔って屋根から落ちて死んだばかり。
「あれ?エルペノル? お前なんでここにいるの?」
「王よ。実はさっき死にました。屋根から落ちて首を折ったのです」
「バカもん。お前は昔からおっちょこちょいなやつだったからな。勝手に死にやがって」「王よ。ここは暗くなんだか寂しいです。笑いもないし何にもないんです。どうか私の魂を安らかに眠れるよう供養してくれませんか?」「わかった絶対供養するから安心しろ」「ありがとうございます。ではお達者で」
続いて現れたのはオデュッセウスの母。
「あれ⁉︎ 母上ではありませんか! なぜあなたがここに⁉︎」
「あなたが戦争に行ってる間に死んだのです」
「なんということだ!」
遠く離れてる間に肉親と死別とは、辛い話ですね。
「息子よ、あなたはこんなところにいちゃいけない人です。早く去りなさい」
「わかりました。母上どうぞお元気で」
「もう死んでますよ」
「…アハ…アハ、ハハハ…」
続いて(前置きが長い。これには訳があります。気になる方はこちらを)やっと預言者テレシアス登場。
「どうすれば故郷に帰れますか?」
「ふむふむ。海神ポセイドンの怒りをかっても、そんなに帰りたいか。
ではまずトリナキエの島へ行け。そこで陽の神エウリオスの飼う牛と羊を見ろ。そしてそのまま危害を加えず、黙って受け流すこと。もし危害を加えらば、お前は永遠に故郷へ帰らぬ」
「…」
「また、故郷へ帰国できた暁には、ポセイドンに盛大な生贄をささげるのじゃ」
「ふむふむわかりました。で?」
「…いやだからそうするのじゃぞ」「それはわかりました。でそれから?」
「ん?」
「終わり⁉︎ たったそれだけ⁉︎」
そう、拍子抜けするほどに楽ショー。
てか、それ普通じゃん。
考えてみれば、オデュッセウス一行は、着く島着く島で家畜は盗むわ、断りなしに飲んで食ってのやりたい放題、挙句ポセイドンの息子の目を潰す、メチャクチャの傍若無人だ。ポセイドンにもその息子キュクロプスにも謝っていない。ただ逃げているだけ。
それを正せ、と言っているのだ。
そして、もうやっちゃったことは仕方がない。だから被害者に謝罪し反省しろと言っているのだ。
なんてシンプル、極めて真っ当。現代にも通ずる普遍的道徳!
さすが古今東西全ての物語の古典!
続く。