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第69回 第5逸話『食蓮人』その2

”やったっ、マーサちゃんは返事をくれた!”

 ブルームはウキウキする足取りを抑え外に出た。手紙はすぐポケットへ。
外に出ると、ポケットに手をつっこみモゾモゾ。周りを気にしながらゆっくりと。
 器用に片手だけで封筒の口を破り、中を取り出す。なんかピンで貼り付けてある。何だろ毛かな(恋人に贈る風習)? 違うな。

 ”あ、マッコイが近づいてくる。やばい、面倒なやつが出てきた。”

 マッコイはブルームの友人。4話でセリフでだけだが登場済み。前述したトム・カーナンと同じで『恩寵』にも出てくる。

「やあブルーム」「やあマッコイ」「あれその服どうしたの?」「いやこれからディグナムの葬式だよ」「ああそうだった。気の毒なことだね」「そうなんだ」

”うるせぇ、俺は今忙しいんだ! 早くどっか行け!”

 もちろん顔には出さない。

「そっかぁ。俺も昨夜聞いたばかりなんだ。ホロハンが言ってた。知ってる? ホッピー・ホロハン」「うん」

 ブルームは前方の道の向こう側に目を向けた。ホテルの前に二輪馬車が見える。見知らぬ女と男、それとホテルの門衛が鞄を運んでいる。

”女がいる。隣に男、夫? 顔似てるし兄弟? あんな服着てたら、今日は暑いだろうな” 「酒場でドーランと飲んでた時に教えてもらった。ライランズもいたっけ」

ホロハンもドーランもライアンズも『ダブリン市民』、『質屋』の登場人物。ライアンズは本逸話でのちに本人登場。



”あの女、この間ポロの試合で見たねぇちゃんに似ている。あのお高くとまった女。女はみんな品が高いんだ。あの時以外。”
「…何とか俺も行かなきゃ」
”高潔な令夫人。そしてブルータスは高潔な人でありますってね。(『ジュリアス・シーザー』p92のアントニーのセリフから。真に高潔なシーザーを殺したブルータスに対する嫌味)
「飲んでたらホッピーが入って来て」”今日は遠くもよく見える。湿気のせいかな(湿気が空気を洗う?)「死んだって誰がって?」「”てかよく喋るなこいつ”「パディ・ディグナムのやつが死んだって」”おっ女が馬車に乗る。どっちの側から乗るのかな?”「マジィって。俺月曜日に会ったばっかだよっつって(今日は木曜)。”さぁ、乗る、乗るぞ。もうすぐ金持ち女のストッキングが拝める!”「みんなでかわいそうにって」

 太字はブルームの意識の流れ。心はマッコイを通り向け、道の向こうへ向いている。「」はマッコイのセリフ、のブルームの耳に入り脳内まで辿り着いたやつ。つまり両方ブルームの脳内の働き。

”どわぁ〜! (路面)電車だぁ! 見えない。くそ、なんででこのタイミングで。クソクソ車掌のバカ。こういうこと、前にもあった。女学生の靴下直し。友達が壁作って見えなくしてんの。なに見てんのよ!って”


「あぁ〜あ、いいやつだったのに」「…そうだね」

 
続く。




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